12日(日)、秋祭ゲストステージで、SFC卒業生である濱野智史さん(政・メ05卒)がプロデュースするアイドルグループ「PIP」がライブを開催した。「PIP」は「プラトニックス・アイドル・プラットフォーム」の略で、アイドルの「自立/自律」をめざし活動している。SFC CLIP編集部では、ライブレポートと、PIPメンバーとプロデューサーへのインタビューをお送りする。

全力な姿で会場を沸かせた! ライブスタート

PIPのライブは秋祭2日目のMステージで行われた。PIPは7月に一度SFCでゲリラライブを決行しているので、これで2回目の来校になる。今回はSFC生だけではなく、以前から彼女たちを応援し続けているファンも会場に集まっていた。ファンの一人に話を聞いてみると、今回は30人ほどのファンが駆けつけたという。
 22人のPIPメンバーのうち、今回は11人が来校した。彼女たちがステージに登場すると、ファンから歓声があがり、ライブがスタート。1曲目は、AKB48の「Dreamin’ girls」。PIPにはまだオリジナル曲はなく、楽曲は全てカバー曲となる。オリジナル曲は11月に発表される予定だ。
 1曲目、2曲目と、彼女たちは序盤から全力で踊る。その全力さがファンのボルテージをあげていく。ファンたちは手を叩き、叫び、まるで彼ら自身もアイドルであるかのように、会場を盛り上げる。なかには勢い余ってステージに駆け寄り、秋祭実行委員に制止される人もいるくらいの熱狂ぶりだった。

突然のトラブルに……

3曲目が終わると、メンバーによるトークショーが始まった。メンバー一人ひとりが自己紹介をした後、「文化祭といえば」というテーマで各々の文化祭の思い出やイメージを口にしていく。途中、メンバーが言葉に詰まるような場面があると、会場から「ガンバッテー!」などの声援が送られ、ファンの温かさを感じられる場面もあった。 

ところが、4曲目に突入する際に音響トラブルが発生した。慌てて機材を調整する濱野さんに対し、会場からは濱野コールが起こる。
 突然の無音状態に一瞬硬直したメンバーだったが、「こういうトラブルも初々しくていいよねー」「次の曲にいっちゃいましょう!」と柔軟なMCでカバー。ライブアイドルとしての機転を見せた。

ライブ終了 列が途絶えぬ握手会

PIPは3組のユニットに分かれている。5曲目、6曲目はスマイレージ(S/mileage・ハロー!プロジェクト)などの楽曲カバーを二組のユニットが披露。
 終盤に差し掛かり、ファンだけではなく、その場を通りかかった来場者からも声援やコールが聞こえてくるようになる。会場のボルテージは最高潮に。
 そして最後の一曲。AKB48の「タンポポの決心」を11人全員で合唱。最初で最後のバラード曲に、会場は一体感に包まれた。

ライブ後、当日のメンバー全員の無料握手会が行われ、ステージ前には長蛇の列ができた。握手会の列はライブ終了後30分が経っても途絶えることはなく、彼女たちがステージを降りた後も握手会は続いた。PIPのメンバーたちは、その後もファンとともに屋台を巡るなど、秋祭を和気あいあいと満喫したようだ。

PIPメンバーと濱野智史プロデューサーにインタビュー

SFC CLIP編集部は、ライブ後、屋台巡り終えたメンバーと濱野智史プロデューサーにインタビューを行った。

【濱野智史】
 1999年環境情報学部入学、2005年政策・メディア研究科卒業。情報環境を専門とした評論家として活躍。2011年頃より、アイドルオタクとしての活動を始める。今年6月15日に自身がオーディションから全てをプロデュースするアイドルグループ「PIP」をお披露目した。

【柚木萌花】
 沖縄の離島出身の18歳。ファン曰く「変態キャラだけど、ステージ上でのパフォーマンスは圧倒的」「PIPのエース」。愛称は「もかろん」。

【橋田唯】
 PIPの最年少メンバーで、13歳の中学生。11月発表のオリジナル曲ではセンターを務める。ファンからは「ゆいはす」と呼ばれる。

【空井美友】
 21歳の大学4年生。ユニットはカルマチームに所属し、持ち前の真面目さでチームメイトの面倒を見ている。

「アイドルの現場」の可能性を開く―濱野智史の狙い

— 濱野さんがPIP で目指しているものは何ですか?

濱野:
 ひとつは、アイドルというシステムを使って、社会起業家じゃないけれど、何か社会のためになることをしたいということです。僕はアイドルの「現場(ライブ等、実際にアイドルと会う場所)」をすごく面白いと思っています。そこには「都市における人と人との紐帯」があるんですよ。本来、都市というのは、そういう共同体的な紐帯を破壊した上にあるものですが、アイドルの現場ではそれが少し回復されている。これは社会学的にすごく面白いし、これをベースにもっと発展させて何かできるはずだな、と思っていました。
 といっても、PIPを作ったのは、いろんな偶然が重なったからです。ただやるからには、そういうアイドルの現場の可能性を開いて、このままだと諸々崩壊していくだろう日本社会を、少しでも立て直すようなことをしたい。だから、PIPは社会実験であり、僕なりの社会起業なのかもしれません。
 もうひとつの目的は、アイドルにもっとお金が還元される仕組みをつくることです。アイドルは確かにブームが来ていて、仕事がいっぱいあるはずですが、アイドル本人たちに入るお金は本当に少ないんですよ。もちろんアイドルをやるのは楽しいし、すごくいい人生経験ですが、それだけでは持続性がない。アイドルをサスティナブルにする方法を考えなければいけなくて、それはビジネスでやっている芸能プロダクションに任せていたら生まれない。だから、思いついた僕自身がPIPでそれを実現しようと考えました。
 いまはまだ立ち上げ時期なので、純粋にアイドル活動をしていますが、将来的には、ほかのアイドルグループがやらなさそうなこと、例えば介護とか政治とかに関わる活動に進出したいと思っています。アイドルが介護をしたり、地方政治に進出したりするイメージですね。

左から柚木萌花さん、橋田唯さん、空井美友さん

彼女たちの成長

— 「アイドルをやるのはすごくいい人生経験」というお話がありましたが、皆さんはアイドルを通して成長を実感する部分はありますか?

柚木:
 私って元々すごくネガティブで、落ち込んだりすることも多いんです。でも、くよくよしていたらアイドルなんてやれないので「もっと前向きになろう」と思えるきっかけになりました。
 あと、アイドルって意外と握手会とか物販とかでファンのみなさんとお話する機会が多いので、コミュニケーション能力が必要になるんです。お話を続けたりするのが、すごく苦手なんですけど、そういうところも直していけるのかなと思っています。

空井:
 私もあんまりコミュニケーション能力に自信がないんですけど、毎回毎回の貴重な経験のなかで、そういう能力を磨いていけたらいいなと思っています。やっぱり会話が途切れてしまったらファンの方は楽しくないでしょうし…。イベントに来てくれたみなさんに笑顔で帰ってもらいたいので、少しずつでも自分を変えていきたいなと思っています。

濱野:
 確かにアイドルってコミュニケーション能力が求められるんですよね。ファンにはいろんな年齢のいろんな職業の人がいますから、いろんな人と話す必要が出てくる。そういう経験はアイドルになっても使える。実はアイドルになることはすごく人を成長させるんですよ。

— 橋田さんは「こういう大人に成長したい」というイメージはありますか?

橋田:
 どんな大人になりたいかというのは、まだちょっとわからないです。今はとにかくこの活動をしていること自体が楽しいという気持ちがいっぱいなので、それを通して何かこうなろうというのはまだないです。
 でも、PIPに入ってみたら、周りに外見も中身も磨こうと思って頑張っているメンバーがたくさんいて、私も頑張ろうっていう気持ちになります。そこが変わったところかもしれません。

— 7月にSFCでPIPを見た友人たちが口を揃えて「みんなすごくかわいくなってる!」と驚いていました。

濱野:
 やっぱりアイドルをやっていると、綺麗になりますよ。見た目も、内面も。他人の視線が内面化されて、自分を磨くようになるので。これもすごく教育効果のあることで、なにせ学校では得られないものですよね。
 アイドルになるということは本当にすごくいい経験なので、大学で半年間アイドルになるゼミとかがあってもいいと思いますけどね。SFCでそういうのを開けたらおもしろいですよね(笑)。

PIPが発足してからまだ半年も経っていない。だが、アイドル活動は彼女たちをものすごい勢いで成長させている。そして、濱野さんの狙いも今後具体化されていくだろう。秋祭ライブを見ただけで、PIPを理解したつもりになってはいけない、そう感じた。