14学則特集、インタビュー第2弾。アンケート結果をもとに植原啓介環境情報学部准教授に情報技術科目の設計意図を聞いた。インタビューから浮かび上がってきたのは、SFCで情報技術を学ぶそもそもの理由、そしてこれからのSFC生の学び方だった。

これからはWebが前提―情報技術科目の設計意図

— 14学則の設計における植原先生の役割を教えてください。

「人工言語」(SFCでは特にプログラミング言語を指す)を含む情報通信分野のまとめ役でした。政策・メディア研究科のサイバーインフォマティクス(CI、新時代のIT人材を育成)というプログラムに、情報系の教員が20人ほどいます。僕の役割は、そこで10回に及んだ会議で話し合ったことを、14学則の草案をつくる場(ワーキング・グループ、各分野の提案を持ち寄る会議体)に持って行くというものでした。
 

— 人工言語分野ではどのようなことが話し合われましたか?

これまでは、情報基礎(14学則の情報基礎1前半に相当)を履修してから、「論プロ(論理思考とプログラミング)」や「コン基礎(コンピュータ基礎とプログラミング)」を受けるという形になっていました。
 14学則でもこの流れをほぼ踏襲していますが、1学期間で完結するのではなく、1年生の2学期間を通して「最低限」の情報技術を身につけてもらおうということになりました。
 じゃあ、その「最低限」とは何なのかという話になりますよね。ひとつは、いわゆる「コンピュータの使い方」。もうひとつは、プログラミングも含めた「Web」の環境です。
 そもそも、なぜWebにしようと考えたのか。むかし僕たちが情報技術を学んだときには、ハードウェアがあって、OS(基本ソフトウェア)があって、その上にアプリケーションがあるという構成でした。でも、今どきはもうWeb環境があって、その上にソフトウェアが作られている。いわゆる「クラウド」ですね。そして、今後はそういうWeb環境、クラウドがベースになり、数年のうちに状況が変わるようなことはもうないだろう、と推測しています。
 では、そういったWeb環境がすでに整っているという前提のもとで、自分の情報スキルを構築するためにはどうすればよいのか。それを学んでほしいから、14学則ではWebをベースとしています。
 当然、Webを学ぶためにはHTMLやHTTP、JavaScriptなどが基本になるので、Webのアーキテクチャも含めてきちんと学んでもらいましょうというコンセプトになっているわけです。もともと情報基礎ではプログラミングはやりませんでしたが、もっと興味を持ってもらえるように情報基礎1の方にプログラミングの内容を入れるなどの工夫をしています。

なぜSFCではプログラミングを学ぶのか

— そもそも、なぜSFCではこれほど情報技術が重視されているのでしょうか?

SFCを開設したとき(1990年)、「自然言語」と「人工言語」の両輪でやりましょうという方向性がありました。その後、データサイエンスなどが入ってきて、今のようになっています。
 また、SFCの卒業生には、そういう複数の「言語」を武器に社会で活躍できるようになってほしいという意図があります。どうしてSFCはこんなにプログラミングをやっているのか、とよく言われますが、工学部などの情報系学科に行くとこんな程度ではありません。つまり、Web前提社会のなかで、情報が専門ではない人にもそのベーススキルを身につけてもらった上で、自分の専門分野で活躍してほしい。
 今の時代はコンピュータなしでは何もすることができません。じゃあ、プログラミングができなかったら何もできないかというと、そんなことはないですが、効率が違う。それに、プログラミングを知っていることによって、こういう順番でやればいいんだ、というロジカルな思考ができるようになります。語学(自然言語)も同じような考え方で、例えば英語以外の外国語ができなくても困らないかもしれない。でも、それを身につけて自分の専門分野に活かす、ということができるようになっていますよね。
 

— 弊部が実施した14学則アンケートでは、「(情報基礎2の)内容が高度で挫折する」という学生の意見も聞かれました。

14学則の情報基礎1・2は、課題やスピードについては各教員の裁量としつつも、その内容を学生がマスターするように授業を実施するように、という最低限のルールを作ってやっていました。それでも、情報基礎2は内容が多過ぎるという声があったので、「3回の授業で2回分の内容をやりましょう」といった具合に少しずつ調整をしながらやってきました。情報基礎2のテキストの最後のページが存在しないのはそういう理由です。
 

— 授業の途中でフィードバックを受けつつ、軌道修正をしていたということですね。

それでも多いと言われているけどね(笑)。先生方からフィードバックをもらって適宜修正しながらやってはいました。今の1年生には申し訳ないですが、来年は今年の経験を活かした授業内容・進度になっているでしょう。そういう意味では、私たち教員も学ぶものがあったなと思いますね。

飛ばせなくなった―情報基礎1の必要性

— 07学則では、情報技術が得意な人は、認定試験を利用して「情報基礎」を履修せずに次の段階へ行くことができました。なぜ、14学則導入前は存在した認定試験がなくなったのでしょうか?

14学則では「情報基礎1が必修になった」ので認定試験がなくなっています。では、なぜ情報基礎1をみんなが受けなければいけなくなったのか。
 SFCには大学側が用意しているちょっと特殊な情報環境があります。どんなに情報技術に詳しい人でも、SFCの環境は初めてなわけです。だから、SFC独自の特殊な情報環境について教員側から学生全員に体系的に話をする機会がほしい。そうしなければ、4年間、CNSを使って様々な活動をしていくにあたって、問題が起こる心配があります。
 例えば、CNSのファイルシステムはとても複雑な構成になっています。あとは、情報モラルやセキュリティの問題について、学生全員に同じレベルの知識も持ってほしいのです。みんなに必ず知っていてほしい、あるいは入学しただけではわからないことは、学生がどれだけ情報技術に詳しくても、やはり教えておかなきゃいけません。
 そういうことを教える機会は必ずほしいね、ということで、情報基礎1を受けてもらうことになりました。ただ、そういった理由で情報基礎1が必修だということが伝わってないのは、改善すべきポイントかもしれません。
 

— SFCの情報環境を正しく使うと同時に、情報社会で生きるための基本を身につけるということですね。

そうですね。
 でも、その代わり、技術面に特化した情報基礎2は飛ばしてもよいのです。JavaScriptなどが得意で、いまさら基本をやっても仕方がないという学生は、情報基礎2を飛ばしてほかのプログラミング言語を学ぶなど、もうちょっと進んだことができる仕組みになっています。
 今はレベル1・2・3という言い方をしています。まずレベル1の段階として「情報基礎1・2」があります。、そして、レベル2として「○○プログラミング基礎」という授業が3つくらいある。さらに情報技術を自分の研究に応用させたい学生には、レベル3の授業を提供しています。

ヨコからタテへ―消えた授業のゆくえ

— 14学則への移行とともに、ゲームプログラミングなど、2コマ4単位のプログラミング科目が休講になってしまいました。

休講になったと言っても、それらに相当する分野がなくなったわけではありません。14学則では、まず1年生でJavaScriptをやった後、Web系をやりたいのか、OS系をやりたいのか、などのそれぞれの目的に応じて、縦にコースが並んでいます。今期から休講になった分野は、それぞれのコースの行く先で修得する仕組みになればよいなと考えています。例えば、ゲームはアプリケーションのコースでやってもらえればよいのです。
 つまり、プログラミングパラダイム(「オブジェクト指向」や「関数型」などのプログラミングの主要な考え方、目標実現の手法)で整理をしたということです。「ゲーム」をつくるという目的をベースにして進めていくと、それを達成するための手法がいくつも出てくるので、この言語を学んでいたのにあの言語になっちゃったということが頻繁に起こってしまいます。それよりは、見えやすい縦の一本道で進めていった方がよいだろうという設計です。
 今年から「プログラミング言語総合講座」という授業もやっています。開講されているプログラミング科目について、こういう言語を学ぶとこういうことができますよ、ということをイメージしてもらうための授業です。
 

学部の差がなくなった―SFC生の学び方は

— 07学則のプログラミング科目は、総合政策学部が4単位、環境情報学部は8単位がそれぞれ必修でしたが、14学則ではともに4単位で総環で差がなくなりました。言語コミュニケーション科目も同様です。受験生の立場からすると全く差がないように見えます。

これに関する議論は確かにワーキング・グループの中でもありました。じゃあ、総合に行った人が全く情報技術を知らなくてよいのか、環境に行った人が全く語学をできなくてよいのか。いや、そうじゃない。だから、ベースは同じにしようということです。
 ベースが同じになった以上、やはり「学習計画」を自分で立てることが重要でしょう。自分が学びたいものはこういう分野で、こっちをベースにするけど、あっちの授業もたくさんとれるので、じゃあ、こうしようか、ということですね。
 1年生から研究会に入ることができるし、教員にどのような履修計画を立てるべきかを聞くのもよいと思います。今年度から導入されたアスペクトからは、少なくとも教員が示すガイドライン、目的に合わせた学習計画がわかるわけです。それらを参考にして、4年間の学習計画を組み立てていきましょう。
 
 他にも、これまでの卒業生を見ていると、自分の学部に対しての思い入れが感じられます。たとえ両学部で同じ授業をとれるとしても、情報技術を学んだのに自分の卒業した学部を総合政策学部と書くのに違和感がある人、その逆の人もいる。在学途中で転部する学生もいます。SFCはいわゆる必修が少ないので、学部ごとの特色がカリキュラムからは見えにくいのです。受験生が学部を選ぶ際には、カリキュラムのほかにこういった視点もあわせて考えてみてはいかがでしょうか。

植原准教授はとても柔らかい物腰で語ってくれた。「授業調査では出てこない意見が受け取れて良かった」という言葉もあり、こうした学生側の意見をフィードバックとして教員側に提供できたことは、今回の取材で有意義だった点だと言えるだろう。
 14学則の導入によって、SFC生の学びも変わってきている。ベースとしての必修も学部の差がなくなり、プログラミング科目もより抽象的なテーマの授業が多くなってきた。これからのSFC生は、これまで以上に自分がやりたいことは何か、そしてそのために何を学ぶべきなのかということを強く意識し、自ら探っていく必要があるのではないだろうか。