ORF2010最後のプレミアムセッション「これからのKEIOを考える-慶應義塾大学SFCのゆくえ」では、国内外の高等教育を先導してきたパネリスト達が、SFCの立ち位置、SFC生に何を求めるのか、これからどのように変わっていくべきなのかについて語った。セッション後半は会場にいた総環両学部長を中心に、SFC設立当初の様子や、SFC生の基礎学力について活発に意見が交わされた。


■パネリスト
・北城恪太郎氏(慶應義塾評議員/日本IBM最高顧問/経済同友会終身幹事)
・余語麻里亜氏(1994年総合政策学部卒)
・黒川清環境情報学部特別招聘教授(前日本学術会議会長)
・藤原洋環境情報学部特別招聘教授

全体の雰囲気

セッション後半は質疑応答が積極的に行われ、予定時間より30分延長することとなった。会場には総環両学部長・研究科委員長、SFC研究所所長をはじめ、複数の学部長・常任理事経験者、評議員など義塾有力者が揃い、彼らも積極的に意見交換を行った。

SFCへの期待

北城さん

北城氏は、世界の問題を解決するために、SFC生はグローバルな視点と、起業化精神の2点を持ってほしいと始めに言及した。現状として留学生の数が少ないことを指摘。グローバルな視点を持つためには、もっと海外から優秀な学生や教員を入れ、またSFCからも海外に出て行く必要があるという。次に、近年日本の起業した会社の実績が思わしくないことを受け、新しいことを始める気風をSFCから発信してほしいと期待を示した。日本の持続的発展のため、福澤諭吉先生の「独立自尊」「自我作古」「気品の泉源」の3つの言葉を挙げて、SFC生の心得を説いた。さらに最後に豊田佐吉翁の「障子を開けてみよ。外は広いぞ」という言葉を使って、海外にも意識を向けるよう、SFC生を鼓舞した。

第4の産業革命に活路を見い出せ

藤原さん

藤原氏は、資源問題の側面からSFCの考えるべき未来を語った。SFCに期待することは新産業の創出。日本の抱える問題として「輸出依存型経済の崩壊」「エネルギー自給率の低さ」「食料自給率の低さ」「首都圏一極集中」の4つを挙げ、その問題解決の鍵は第4の産業革命たる、地産地消型環境エネルギー革命にあると説明。そもそも日本はエネルギー関連の技術に長けており、その効率的な利用を可能とするインターネット的なものの考え方は、SFCの得意とするところで、SFCの目指す目標はエネルギー革命を起こすことに見い出せると発表した。

モチベーションを見つける大学教育とは

黒川さん

最近出版された「異端の系譜」を手に取って話し始めた黒川氏は、「この本を読み、何がSFCであるかを考え直す時期に来ていると感じた。始めの10年は目立っていたSFCも、最近ではほとんど目立たなくなっているのではないか」と口火を切った。学生に何をしたいのかを気付かせてあげる教育こそが重要だという。どうしたら若者が、将来自分の生き方に納得して生活をすることが出来るのか。そのためには外国に出て、外から見た日本を、そして自分を見るのが良いと黒川氏は語る。外国に行くことで、文化の違いに直面してたくさんの刺激を受け、そこで自分が本当にやりたいことを見つけるきっかけになる。また最近の出来事は全てグローバルなもので、外国人と一緒に仕事を行わなければならないが、日本の大学には日本人ばかりで日本語が充満している。言語は文化を反映させているため、日本語を用いている限り思考が縦で、横の広がりがないとも語った。そこで「休学のすすめ」を黒川氏は唱えている。これは大学4年間のうち、一年は休学して外国に行くというすすめ。いろいろなことを柔軟に考えられ、まだ就職もしていないことでどこにも縛られていない学生の時期に行くからこそ意味があるという。これからのパートナーは外国人であるため、英語化を進めない限り、SFCは日本の中でさらに存在感が薄くなってしまうと危惧した。

 しかしネットで外国と繋がっていられる今の時代、自分たちが国境を越えたネットワークを使い、自分たちの世界を作って行く事を進めるのがSFCだと黒川氏は締めくくった。

ー質疑応答ー

SFC生の意欲について

会場からの質疑で、SFCに必ずしも挑戦する意欲のある学生のみが集まるとは限らないのではないかという質問が出た。

 これに対し会場にいた村井純環境情報学部長は、AOや小論文に重きを置いた入試で、意欲のある学生の選抜には既に注力しており、さらに来年度からはGIGAプロジェクトなど新たな施策を取り入れるとし、入り口はしっかりしていると主張した。

 一方、同じく会場にいた國領二郎総合政策学部長は、全てのSFC生の意欲が高いわけではないという認識を示し、海外からレベルの高い学生を招いて、SFC生に喝を入れることができれば良いとし、その実現のために、宿泊施設などの基盤の充実を訴えた。

SFCの基礎学力は?

質疑応答の中で、SFCの基礎学力への取り組みについて疑問視する意見が出された。

 この問いかけに対し國領学部長は、SFCは基礎学力を身につけるための講座は設置しているとしつつも、問題意識を持たない学生が自ら基礎学力を身につけるのは難しいことは認め、そのような学生に対して必修として基礎科目を課すべきか悩んでいることを明かした。また既存の学問の基礎を修めるべきというような会場の意見に対し、SFCにおける基礎とは「ひろい意味でのリテラシー」つまり、言語などのコミュニケーション能力と、プログラミングなどのモノ作りの能力、ベーシックな調査手法など研究の能力だと言及し、それについてはしっかり指導したいと答えた。さらに基礎学力のない状態で入学し、3年生になれば就活に追われる現在の4年制大学のあり方を鑑み、SFCの教育も抜根的な見直しが必要があると発言した。

若い力をどれだけ発揮できるかがSFCの課題

セッションの最後にコメントを求められた村井学部長は、学生自身が持つ力をどれだけ発揮できるかが、SFCの大事なポイントだと語った。
 その中で、教員の終身雇用についての議論がされていることに言及。SFCと若い教員や卒業生たちの関わり方についての課題に取り組んでおり、具体的な内容は示されなかったが、人事に関して様々な検討がなされていることを示唆した。