今年の「環境情報学の創造」はTwitter上で「#意識低下学の創造」という批判を書きこむハッシュタグができるなど様々な話題を呼んだ。今回、この授業のセッティングを担当し、授業運営を引っ張っていた斉藤賢爾政策・メディア研究科講師に授業についてお話を伺った。聞き手:田中瞳(環1)、西岡瞭(環2)

去年より、すごいものを

田中:去年と異なり、今回ゲームを実装させる課題を出したのはなぜですか?

斉藤:最終回のビデオレターで述べられていたように、村井さんの頭の中にはみなさんにコンピューターをツールとして使えるようになってほしいという想いがあります。「コンピューターをツールとして使う」ということはコンピューターの能力を引き出しながら自分たちの活動に活かすということです。

 実は去年の時点で村井さんは実装まで行こうと言っていたけれど、結論としてそれは困難だろうということになりました。そこで出てきたのがペーパープロトタイプを作ること。コンピューターのロジックを紙で表現することまではできるのではないかと思い、妥協案として採用しました。

 そして去年を踏まえた今年、村井さんはどうしても実装までやらせたかったようです。もう1つ大きな要因は東日本大震災。生活に対して圧力がかかっている状態、生活が困難を抱えている状態で去年と同じことをやっても去年を超えられず、むしろレベルが下がってしまう。だから授業のレベルを引き上げる必要がありました。この点からも「今年は実装させる」という結論に至りました。

逃げ出したくなるメンタルブロックを乗り越えて

田中:今回の授業でプログラミングができないなどという理由で、授業を諦めてしまう人、投げ出してしまうような人が多かったと思います。おそらく講師側にもTwitter上の「#意識低下学の創造」というハッシュタグによって情報が届いていたと思いますが、そういう学生がいることをどう思われましたか?

斉藤:どんな授業にも授業と単位を諦めてしまうひと人はいると思います。もちろん投げ出して欲しくないなとは思っていたけれど、投げ出す投げ出さないは本人の自由なので、それは本人に任せます。大学生だしね。

 しかし、投げ出す必要は全然なかったのではないでしょうか。「自分はプログラミングできない」という自覚があるなら、HTMLページだけで作ればいいでしょう?

 本当はできる、やればできるのに「できない」と思ってしまうことをメンタルブロックと言います。自分の心理で自分自身をブロックしてしまうのです。しかしそれは自分で乗り越えて欲しかった。大人である大学生に対してこちらから働きかけるということはしませんでした。

「環境情報学」と「環境情報学の創造」の違い

斉藤:この授業は「環境情報学」ではないのです。「環境情報学の創造」という授業なのです。

 普通「○○学」という授業があったら、偉い学者さんたちが19世紀・20世紀と時間を費やして確立したものがどのようなものであるかを教えますよね。

 しかし「環境情報学」というものは確立されていない。だから、それをみんなで「創造」するんですよ。その中にもう1年生から入っていくんです。

 できることやわかることを課題として出しても「環境情報学の創造」としては無意味ですよ。やり方さえ分からないところに放り込まれて、自分でなんとかすることが出来なければ、環境情報学なんて作れないですよ。

いきなりぶつかってみた後で、またやってみたっていいじゃないですか

田中:今回プログラミングを頑張った人とかは、必修プログラミングを超えた部分まで独学しています。なので「この後必修のプログラミングですか?」という声も聞かれました。

斉藤: ゲームを作るためにはプログラミングに限らず、いろいろなことをやらなくてはなりません。マネジメント・ディレクション・デザイン。そしてそういうものの一部として、コンピューターで動くもののロジックを組み立てる、イコール「プログラミング」ってことがあるわけなんです。

 そしてそのそれぞれ、これからの大学で学ぶかもしれないことをいきなりやってもらいました。いきなり飛び込んでみることによって、「自分はデザインができるのかな」とか「僕はプログラミングをやってこうかな」とか「人の能力を引き出すことに興味があるのかな」とか、そういうのを見つけてくれればいいんですよ。いきなりぶつかってみた後で、またやってみたっていいじゃないですか。

 環境情報学の創造ってのは、そういうのをトータルで体験してみるっていういわば導入の授業なので、その後いろんな専門的な授業が続いてもおかしくないのです。

まずかったのは、プログラミングがきついから?

田中:すると今回、プログラミングが特に学生のあいだでやり玉に挙がったのは、やはりプログラミングだけ敷居が高かったというだけなのでしょうか。

斉藤:「だけ」なのかもしれないけど、今の日本の教育、義務教育とか高校教育があまりコンピューターになじみがなく、これによって生まれた問題だったと言えるでしょう。

 これも最終回のビデオレターで村井さんが述べられていたことですが、コンピューターってのは非常に強力なツールです。現代の非常に大きな困難を解決する上で、我々はコンピューターを使いこなしていく必要があると思うんですよ。

 だからそのスキルを身に着けなくてはなりません。でも大学、SFCで行っている過程と小中高のコンピューターの授業とのバランス・進度がまだあまりよくないのかもしれない。でも全然身構える必要はないと思うんですよ。

田中:私はプログラミングをやってみよう思って、とりあえず使ってみたら、案外できるものでしたし、達成感も結構ありました。たぶん同じくデザインやった人だって同じだったと思います。

斉藤:そういうものだと思います。やってみること、メンタルブロックを解くことが重要だと思います。

頑張った人へ

田中:最後にこの授業でプログラムに限らず、様々な分野で苦労して頑張った人に対して、何かねぎらいの言葉がありましたらお願いします。

斉藤:もちろんあります。必ず困難を乗り越えたという体験は、みなさんの力となるはずです。なのでこの授業を乗り越えたということを、自信をもって、生きていってください。

西岡:問題発見から解決までを、シリアスゲームで解いていくというのがこの授業だと思います。この環境情報学の創造の授業で、1年生に最も伝えたかったことはその苦労ということですか?

斉藤:それが1つです。もう1つは村井さんがいつも言っていることなのですが、仲間が大事だということです。グループワークで作るという事には、これから4年間あるいはそれ以上、長い付き合いになる仲間を作って欲しいという願いが込められています。一緒に一つのことを突き詰めて考えたり、ものを作ったり、ゲームしたり、遊んだり。そういう仲間を見つけて、大切にしてほしいというのがこの授業の大切なメッセージの1つです。

西岡:SFCは多様性が価値だといわれていますが、みんなが持ってるデザインやマネジメントなど、そういうスキルを最大限に生かしていくうえで、シリアスゲームを作るという手法があり、それを今回授業としてやったのは、そういう多様性を生かすところにも意義があったのでしょうか。

斉藤:その通りだと思います。

田中:ありがとうございました。