新丸の内ビルディング10階、エコッツェリア。様々な環境への取り組みを紹介するスペースであるここには、田中浩也研究室のプロダクトが常設展示されている。グッドデザイン賞も受賞したこれらのプロダクトを、制作にまつわる話を交えて紹介する。


■ エコッツェリア

 エコッツェリアは、新丸ビルの中でもショップやレストランのある商業施設ゾーンとは別のオフィスゾーンにある。警備員の立っている正面入り口から入り、オフィス用エレベーターで10階まで向かう必要がある。商業施設ゾーンのエレベーターでは、7階までしか到達できないので注意。
 ここには植物を生かしたプロダクトや、旧・新丸ビルで利用されていた材木やガラスを再利用した家具などが多く置いてあり、「エコ」を体現したスペースとなっている。
■ 植物インターフェイスと栽培メディア
 そんな中で、展示してある田中研究室のプロダクトは『Plantio』、『PocketPlantio』、『Merririum』の3つ。

 Plantioは、植物の反応を光で表すプランター。植物の中に流れている微弱な電流をセンサーで感知して、光に変えている。この電流は生体電位といって、人間の脳波のようなものだ。そのゆらぎに合わせて光の色も変わる、という仕組み。周囲の環境変化や、水をやったりすることで、プランターが色を変えながら光る様子を見ることが出来る。『PocketPlantio』は、この『Plantio』を小型化し、持ち歩けるようにしたもの。

『Merirrium』は、英単語「merriment(=陽気なにぎわい)」と「aquarium(=水槽)」の2つを合わせて出来た名前。棚と水槽合わせて1つの作品で、周囲のにぎわいの度合いによって水草が光合成し、水槽内に気泡ができるというもの。にぎわいで水草を育てると同時に、にぎわいを水槽に記憶させるというコンセプトだ。
 
 「にぎわい」という曖昧なものは、周囲の音量と動きによって規定した。マイクとモーションセンサーを水槽の上下に設置し、音量の大きさに比例して水槽にLEDで光を与え、センサーが動きを検出する度に二酸化炭素水を水槽に落とす。こうして人工的に与えた光と二酸化炭素によって、水草の光合成を促す仕組みだ。光合成が行われると水草は成長すると同時に酸素を放出し、それが水槽内の気泡になる。その気泡の量や水草の成長具合が、にぎわいの量を表している、という訳だ。

水槽の横に取り付けられたマイク

赤外線で動きを感知するモーションセンサー
■ 植物だから、伝えてくれるもの
 田中研究室で『Merririum』の制作・メンテナンスを進めてきたメンバーの1人である、外池千尋さん(環3)にお話を聞いた。

棚の内側には、電気回路が内臓されている
 成長した水草やたくさん出来た気泡を見て、「ああ、今日はここ、にぎわっていたな」と1日を振り返る…といったふうに、「その場所の記憶・思い出を呼び起こすキッカケになるもの」を作るのが、このプロジェクトの目的。反応が即時に返ってくるものではなく、長い時間をかけることで反応が見えるものにしたのは、成長した水草を見た人に何かを感じてもらえるようなものにしたいからだ。
 だが、植物や水といった自然物を使っているが故の苦労もある。外池さんは「何もわからないままこのプロジェクトを始めて、試行錯誤を重ねてきた」という。水は機械との相性が悪く、上手く分離しないと、湿気で機械が壊れてしまうことがある。また、水槽にずっと同じ水をためているので、水アカが付着するなど、見た目の綺麗さを保ちにくいという問題も。1,2週間に1回水槽を洗い、水を換える手間をかけなくてはいけないのだ。植物に関しても、太陽光とLEDの光では、やはり後者の方が光合成の量が少ないという悩みがあるそうだ。
 それでもなぜ植物を使うのか。「植物は生活に溶け込みやすいし、無機物に比べて愛情を抱きやすいから、難しくても植物にこだわりたい。植物だから伝えてくれるもの、があるような気がするんです」と外池さんは語る。多くの苦労を経験しながらも変え難いこだわりが、そこにはあるのだ。