シラバスだけでは分からない研究会の実情を、SFC CLIP編集部が実際に研究会に赴いて調査する「CLIP流研究会シラバス」。第11回は統治機構の研究を行う、松井孝治研究会を取材した。

官僚、政治家経験者と学ぶ 「統治機構研究」


 統治機構研究会は、松井孝治総合政策学部教授(以下、松井教授)が担当し、今期から新しく開講される。国会や内閣、官庁など統治機構に関する文献を輪読しながら理解を深め、その問題点・解決策などを模索していく。長年官僚・政治家として実際に行政や政治に関わってきた松井教授は、「本に書かれた知識だけではなく、様々な統治機構の中に身を置く中で得た経験を学生に伝えていきたい」と語る。

松井先生1研究会中の松井孝治総合政策学部教授


オリエンテーションは「七人の侍」


 取材をしたのは第1回の研究会。初めに参加者の自己紹介が行われた。今期初めて研究会に参加する1年生から、既に別の研究会で専門的な研究をしている4年生まで、政治に興味のある様々な学生が集っていた。
 自己紹介が終わると、オリエンテーションとして黒澤明監督の「七人の侍」を視聴し、松井教授が農民と武士の関係や登場するキャラクターを例にとりながら、統治機構論、リーダー論、組織論について語った。
 「七人の侍」は上映時間が3時間以上ある大長編だ。要点をかいつまんで見ても2時間ほどの視聴時間だったが、参加者達は熱心に映画と解説に耳を傾けていた。
 この映画を上映した理由について松井教授に聞いたところ「あの映画は統治について学ぶ良い教材だった。また、知識や社会経験の面で経験値が違う人達が集まっているので、彼らが、お互いの経験を語るための感性的な共有体験を得るため」とのことであった。
 今後の活動については「1年生から4年生まで、統治機構そのものに関心がある人や、個別の政策との関わりに興味がある人など、多くの興味関心が集まっている。多様な学生が集まったのはとても良いこと。最終的な成果物に関しては、慎重に決めていく予定だ」と語った。
 

松井先生3研究会について楽しげに話す


「政治家を辞めた後は教育を」


 政治家の引退表明をした次の日に、上山信一総合政策学部教授から「至急会いたい」との連絡があった。これが松井教授がSFCで教えようと考えたきっかけである。「もともと政治家を辞めた後は教育をしようと思っていた」と話す松井教授は、「統治機構改革は、大きな変化があった際に、一気呵成に行わなければ、骨抜きになってしまう。そのための30年間の中で、出来たこともあれば、出来なかったこともある。出来なかったことは、次の世代に託そうと思っている」と語る。

自分の人生をシェアする


 「通常の講義では、基礎的な知識を主観を入れすぎないように教えなければならない。逆に研究会では、時間の面でも人数の面でも濃く付き合える。私自身が官僚出身の政治家として見てきた、現在の統治機構の限界や課題について語っていくつもりだ」と松井教授。「既存の制度のどこが不十分なのか。改革を試みたが、志半ばで果たせなかった過去の人間は、どんな悔しい思いを持っているのか。どうすれば変わらないものを変えられるのか。知識だけではなく、そういう自分の人生の経験をシェアし、伝えていきたい」と語った。

松井先生2教育への思いを熱く語る


 知識の詰め込みだけではなく、個人個人が持つ思いや現場の経験を伝えようという、松井教授の教育理念が明確に感じられた。

9月28日(土)編集部追記

  本文中にて、松井孝治総合政策学部教授の職階を「総合政策学部専任講師」と表記しておりました。総合政策学部教授に訂正致します。松井孝治総合政策学部教授ならびに、読者の皆様に深くお詫び申し上げます。