1月10日に行われた、森川富昭研究会(以下、森川研)の「えんそく。プロジェクト」にSFC CLIP編集部が同行取材を行った。トヨタマーケティングジャパンおよび博報堂と共同で取り組む同プロジェクトは、免許を取得していない若者が、 集団でツーリングする楽しさに触れることによって免許取得への動機付けにすることを目的としている。

車湘南台文化センター前に実験に使用した自動車が並ぶ



 この実験は、旅を通じて行われるインタビューと心拍数の測定によって、被験者のクルマや免許取得に対する意識の変化を読み取る。一般的な「ドライブ」ではなく「ツーリング」と表現されているのは、「集団でクルマを楽しむ」という意味が強く込められているからだ。

 当日は、被験者を乗せる自動車を3台、企画者と取材陣を乗せる自動車を1台、計4台で実験を行った。今回は、SFC CLIP編集部員もその実験に参加した。

 今回取材に同行したのは、現在免許を持っていない雀部、浅香、由谷の3人だ。実験前の免許取得に対するそれぞれの思いは、「特に必要性を感じない(雀部)」「時間が許せば移動手段としてほしい(浅香)」「地元はクルマが便利なのでほしい(由谷)」と、さまざまであった。

 朝9時に湘南台文化センター前に集合すると、色鮮やかなクルマが出迎えてくれた。4台一緒に湘南台駅を出発し、茅ヶ崎ICから高速道路に入ってしばらくすると、日の光で眩しく輝く海が視界に広がり、車内は大盛り上がり。11時頃に小田原城に到着し、周囲を散策したり衣装を借りて撮影を行ったりした。

小田原城小田原城にて集合写真を撮った



 小田原城を出発し、続く目的地は箱根湯本だ。目的地手前の山道を走行していると、視界が曇り始めた。昼食のためにクルマを降りると、辺りは霰(あられ)で白く染まっており、気温は急激に冷え込んでいた。

 寒さに耐えながら坂を登って着いたレストランでは、温かいものを口にして自然と笑みがこぼれていた。別の車だった人同士で食卓を囲んでいたところもあり、旅の話で盛り上がっていた。

 食事を堪能し、向かった先は温泉「てのゆ」。その頃には天気も回復し、それぞれ旅の疲れを癒やした。温泉から上がる頃には、朝に初対面したばかりとは思えないくらいに打ち解けていた。

昼食後ミーティングレストラン中央に参加者が集まる



 日も暮れ、最後に向かったのは江ノ島だ。澄んだ夜空に映えるイルミネーションを目に焼き付け、ついに旅は終盤となった。満足げな被験者を集め、企画者は最後にこんな問いかけをした。「この旅にどのくらいのコストがかかったと思いますか?」

 実は、旅行にかかる一切のコストは企画側の負担となっており、旅行を終えた被験者の満足度で今回のツーリングにかかったガソリン代(トヨタ自動車のハイブリッド車AQUA)と高速代の価格を予想させたのだ。なんと、一人あたりたったの800円だと言う。最後に、実際の満足度とその価格とのギャップを実感させることで、クルマに対するハードルを高く設定していたことを被験者に気づかせた。

江ノ島日の暮れた江ノ島にて



 丸一日かかった実験の後、免許取得に対する意識に変化はあったのだろうか。調査の結果、「友人とツーリングする楽しさを知ったのでぜひ取得したいと思った(雀部)」「クルマを単なる交通手段としてだけではなく多様な可能性を秘めたものと捉えるようになった(浅香)」「実験前から免許取得に憧れていたが、初めてのツーリングを体験して自分も運転ができるようになりたいと強く思うようになった (由谷)」と回答した。また、ツーリングの感想を調査したところ、「集団で自由に観光が楽しめるところがいいと思った(雀部)」「複数台で同時行動している姿は新しく面白い体験だった(浅香)」「家族以外の人とクルマに乗ることが今までにあまりなかったため新鮮で楽しかった(由谷)」と回答した。3人とも、取材を通して、クルマや免許により興味関心が沸く結果となった。

3カーブ山道で取材車の後部座席から撮影



 このプロジェクトのリーダーを務める石垣達也さん(総1)は「私達、若者は共感世代。だからこそ、車内の空間を共有するだけではなく、それに続くクルマも連鎖して感動を共有できたら、きっと新しい車の使い方を提案できる」と語る。森川研「えんそく。プロジェクト」の目標は、100台でプロジェクトを実行し、若者の間でツーリング文化を流行らせることだと語っていた。ぜひみなさんも、クルマでツーリングをする楽しさを味わってみてはいかがだろうか。