先週に引き続き、対談の様子をお送りします。今年度秋学期に開講された「日本研究概論」。日本研究概論1を終えて、先生方はどんなことを考えていたのか、自由に対談していただきました。参加していただいたのは、土屋大洋政策・メディア研究科教授、加茂具樹総合政策学部准教授、清水唯一朗総合政策学部准教授(以下、敬称略)の3名。

海外に出て実感する「日本」への知識不足

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土屋:
 僕は学部3年生の時に初めてアメリカに行きました。そのとき一番驚いたのは、そこら中に星条旗(合衆国旗)があるし、彼らは何かあると胸に手を当てて国歌を歌い始めることです。しかも、とても楽しそうに歌っているし、自然に行われていたことに驚きました。
 それを見ながら、もしこれを日本でやったら、極右って言われるんだろうなと思って。日の丸は祝日にならないと出てこないでしょ。でも、アメリカでは国旗を掲げることが全く自然なこととして行われています。
 3.11(東日本大震災・2011年)の時も、日本は「日本の社会を守ろう」などの言葉は出てきましたけど、そこで「愛国心」と言う言葉は出てきませんでしたし、君が代を歌う人も出てきませんでした。
 でも、トモダチ作戦(Operation Tomodachi: 東日本大震災に対し、アメリカ軍が実施した救助・救援・復興支援活動)のとき、米軍の人たちが軍服に着けてくれたワッペンには、ちゃんと日の丸と星条旗が入っていました。彼らにとって、そうやって国旗を掲げることは自然なわけですよ。では、なぜ日本はそういうことが起きないのか、ちゃんと言葉にしておかないといけないと思います。

加茂:
 中国に行く場合、まず歴史の話になりますからね。一番良いエピソードは、9月18日でしょうか。
 9月1日に入校して、2週間目には9.18がきます。そこで、「今日は何の日か知ってる?」て聞かれるんですけど、日本人は全く知らない。そうすると、中国人は、日本人がなぜ9.18を知らないのかとびっくりする。(1931年9月18日、柳条湖事件が発生。それに端を発した満州事変は、中国では九一八事変と呼ばれる。)やっぱり日本は歴史を学んでいないんだ、となるんです。
 僕も今回の日本研究概論1で、日本人の中国に対する意識を考えるために、竹内好先生(日本人中国文学者・1910-77年)の本を読みましたけど、前の世代の先輩たちがどう見ていたかということを知った上で、自分の知識を積み上げていくことが重要ですね。

触媒としての「日本研究概論」

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加茂:
 僕は他にも、この授業にはおもしろい見方があると思います。
 僕は中国を研究していますが、それを予測するにはいろんな方法があります。科学技術と、社会の変化政治の変化は関係しているとすれば、最先端の技術が何なのか、というのを学べば中国の将来像を理解する助けになるかもしれない。
 田中浩也環境情報学部准教授のFabLabとか、技術の話を聞いておくと、自分の専門とは直接関わってないように見えることでも、中国の未来を理解する助けになります。この授業はそういう楽しみ方もあるんだなと感じました。

清水:
 それは学生にも言えますね。話を聞いていると、この日本研究概論を1年生は研究会紹介のイメージで受けている子が多い感じがします。一方で上の学年になると、それぞれ自分の専門に引きつけて、まったく関係がない先生の話のところで、新しいひらめきを持って帰って行く学生が多いと毎回の感想を見て思うんですよね。そういうところを見ると、各学年のそれぞれ違うニーズをこの授業では満たせているのかな、と思います。
 やりたいことがまだ見つからない、という学生にとっては、考える入り口になるし、やりたいことがある学生にとっては、それをもっと増幅させていく、触媒になるような授業になっています。

日本研究概論1の反省

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土屋:
 この日本研究概論1は、今年度が初の試みだったということで、狙い通りにいかなかった部分もあると思います。
 まず、この授業は概論だっていうことをわかってない人も多いと思うんですよね。これはただのイントロダクションで、その先は、他の専門的な授業や研究会で開拓しなければならない。でも、この授業で全部答えをくださいという人が、とくに1年生なんかは多かったんです。そこをちゃんと説明しなかったことは失敗でした。

加茂:
 この授業は、入学して研究会に入るまでの橋渡しなんですよというのが、制度を作っている我々からすると自明です。だから、あえて強調して説明しませんでした。ただ、そこを伝えなかったから、さまよっちゃった人も生まれたのかもしれないなという気がしましたね。

土屋:
 予備校や高校のころの「はい、コレ覚えて!」の延長で受けている人は、この授業で何を覚えりゃ良いの? って思ってしまうのかな、と思います。
 問題発見、問題解決っていうぐらいだから、問題を発見してほしいんですよね。これが問題ですよ、と僕たちがいうのは簡単だけど、そうじゃなくて、色んな話を聞きながら、自分にとって問題は何か、というのを見つけてほしい。

清水:
 そういう意味では、毎回最後に書いてもらうコメントを「感想」という言い方をしないほうが良かったかもしれないですね。「この授業を通して考えたことを書いてください」としたほうがいいかも。
 まだまだ授業を聴いて教わるって感覚は強くて、それを払拭するのはもう一工夫必要なのかもしれないですね。

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土屋:
 人数も多過ぎでしたね。こんなに多くの学生が履修すると思ってなかったです。

加茂:
 そうですね。当初の想定は200人だったのが、蓋を開けてみれば400人。でも、200人でも多かったなと思いますね。

土屋:
 総合政策学の創造、環境情報学の創造の次にとってもらう科目としては、それくらいのキャパシティは考えておかなければいけないとは思います。とは言っても、出席していれば単位が来るような科目にしちゃいけませんよね。ちょっとそこは来年度考えないといけませんね。


 日本研究概論は、ただ授業を受けるだけでなく、自分自身で考えれば考えるほどおもしろくなる授業のようです。次回は、来学期から開講する日本研究概論2・演習についても語っていただきますのでご期待ください!