3月8日(土)、文京シビックホールで、ゲーム音楽を演奏する日本BGMフィルハーモニー管弦楽団(以下、BGMフィル)のコンサート「THE LEGEND OF RPG -でんせつの めいきょく おんがくかい-」が行われる。

 ゲーム音楽を演奏するオーケストラは日本初。公演1ヶ月先に控えるも、チケットはすでに完売しており、話題性の大きさがうかがえる。

 そんな今回のBGMフィルのコンサートを支えるプロデューサーはSFC卒業生の泉志谷忠和(みしやただかず)さん。今回の「復刻! CLIPAgora」では、泉志谷忠和さん(12年総卒)にプロデュース業や、学生時代にSFCで得た学びについて、お話を聞いた。

bgmphill1泉志谷忠和さん(JAGMO提供)


– BGMフィルの公演プロデュースをすることになった経緯を教えてください。



 BGMフィルは、ゲーム音楽・BGMを演奏するオーケストラで、2012年の7月から活動しているプロオーケストラです。

 友人のヴァイオリニストが、BGMフィルのコンサートミストレスを務めていたこともあり、面白いオーケストラがあると噂は聞いていました。今回、様々な巡りあわせがあり、BGMフィルの代表理事であり、ゲームデザイナーの遠藤雅伸さんから本公演プロデュースについてのお話をいただき、引き受ける運びになりました。

 BGMフィルの持つ「日本初のゲーム音楽プロオーケストラ」というコンセプトは素晴らしいものです。ただ、2013年10月に開催された第1回公演の際、興行的に苦しい結果であったらしく、活動の継続にはプロデューサーが必要だとお聞きしました。自分の力が文化の発展に繋がるならと思い、参加を決めました。

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増田有華さんと小田桐奈々さんを司会に起用したことでも話題に (JAGMO提供)



–音楽や芸術のプロデュースをされる際、どうした心持ちで取り組まれるのですか?



 僕は、SFCのAO入試で、 「エンターテイメントビジネスの社会的可能性」についてをプレゼンテーションし、合格をいただきました。音楽をはじめとする文化・芸術には、人の心を大きく動かすエネルギーがあります。そこに、適切な形でビジネスが掛け合わさると、その方向性が規定され、時にダイナミックな変化を起こし、時に作品が深く根付き、"残るもの"となって歴史になります。資本主義社会である現代において、それらの複合的理解によるプロデュースは、社会問題の解決に繋がると考えていました。今でも、ただのお金儲けに興味は無く、そのような「可能性」がある仕事に従事するよう努めています。


— BGMフィルでプロデュースされる際に大変だったことはありましたか?



 去年の2013年12月上旬に、プロデューサーとしての就任が決定しました。外部から、それもプロデューサーとして組織の中に入るということは、なかなか大変なことです。組織内からすれば、よそ者がやってきた、という警戒心も生まれます。

 また、就任が決定した時点でわかっていたことは、「公演日時の2014年の3月8日」と「3600席で満員」という情報のみ。つまり、公演まで3ヶ月足らずのタイトなスケジュールなのにも関わらず、現状把握から始めなければならないという状態でした。


–プロデュースでは実際にどのようなことをされるのですか?



 まずは、出来る限りの情報をかき集めました。前回の公演のデータ、スタッフのプロフィール、楽団員の状況、経営状態、キャッシュフロー、ステークホルダーなど、知り得る限りの情報を収集しました。これらの情報を分析した結果をもとに現状の問題点に関する解決策の模索を行い、そして公演企画立案に入ります。

 今回は、日程と会場キャパシティが既に決まっていたので、その制約条件と現状の整理から、企画コンセプト、楽曲選定、マーケティン戦略、プロモーション戦略などのプロジェクト基盤を設計していきます。それに伴い、チーム編成などの人事、予算設定、スケジュールを構築し、企画の全体像を描き出し、実行します。そんな頭デッカチな仕事に加え、スタッフが絶対的に足りなかったこともあって、チケット3600席分の発券手続きを手動でやったりもしました。

 プロデュースは泥臭い仕事もたくさんあり、今回のようなケースで言うと、領域構わず公演成功というミッションに向けて、寝る時間を削りながらなんでもやっています。

 本公演の集客目標は、前回公演の集客成果の約5倍でした。なので、より明瞭な企画コンセプトで、デザイン・グラフィック面を強化することはもちろん、楽曲選定が重要なポイントでした。タイトルの通り、日本の伝説的なRPGである「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」「ポケットモンスター」「クロノ・トリガー」の、名曲中の名曲を選曲しました。結果、WEB上で大きな話題となり、予定を大幅に前倒しして、1月29日で完売御礼にすることが出来ました。面白いことに、10万部の配布を予定していたフライヤーを刷る前に売り切れてしまいました。オーケストラコンサートでこの様な例は珍しく、どこに話しても驚かれます。


— 今回のBGMフィルコンサートへの意気込みはいかがですか?


bgmphill3今回のコンサートタイトル(JAGMO提供)



 ひとつの目標であった、興行的成功、完売御礼はクリア出来ました。ですが、ショービジネスとはここからが勝負です。今は舞台制作、当日の会場デザインのつくりこみを行っています。会場に足を運んで頂いた全てのお客様に感動を届けるべく、日々深夜まで打ち合わせが続いています。

 長期的にはゲーム音楽を、娯楽商品であるゲームのBackground Musicから、1つの音楽ジャンルや文化として確立したいと考えています。今回の選曲は、ゲーム音楽ファンのひとりとして、「こんなコンサート夢のようだ!」と思うプログラムに仕上げました。既に海外では数多くの質高いゲーム音楽コンサートが開催されていますが、その発祥国として、先の未来をつくっていきたいと思っています。本公演プロデュースを機会に、JAGMO(Japan Game Music Orchestra)というチームを立ち上げたので、今後は海外展開も視野に入れて活動をしていきたいと考えています。


— 泉志谷さん自身は、これまでにどのようなプロデュースをされてきたのですか?



 音楽プロデューサーとしては、ポップス業界で下積みをしていたため、その流れで新人アーティストのプロデュースなどを手がけていました。また、株式会社内田洋行と協働でプロデュースした日本の伝統音楽と先端技術を融合させた音楽ライブでは、Ustreamで生放送を行い、全世界で視聴者を獲得し、ヨーロッパから大きな反響を頂いたこともあります。他にもいろいろ、領域は音楽だけに限らず、広義にプロデューサーとして活動しています。


— SFC生時代はどのような学生生活でしたか?



 SFCでは、"人"から多くの学びを得ました。最も影響を受けた先生をあげると、坂井直樹さん(コンセプター、元環境情報学部教授)、井上英之さん(政・メ特別招聘准教授)です。新たな価値を開発するために必要な技術・姿勢を学びました。特に坂井さんには、後に弟子入りすることになる音楽プロデューサーの方を紹介して頂くなど、卒業後もお世話になっています。そこでプロデューサーとしての技術を飛躍させることが出来たから、今の自分があると思います。

 外部での活動も積極的に行っていて、1年生の時に外資コンサルティング会社のMckinsey&Companyのインターンプログラムに参加したことは、今回の公演プロデュースにも大きく役立っています。問題発見・解決、プロジェクト進行の基礎力を養い、世界トップレベルのビジネスマンと交流を持てたことで視野が大きく広がりました。また、3年生の時には電通・博報堂主催のコンペティションで賞をとることが出来、その機会を通じて、国内のプロモーションやマーケティングについての仕組みを深く学び取ることが出来ました。

 SFCという場所は、学びたいことがビジョン先行型で自由に学べる環境が整っています。恐らく、僕がプロデューサーとして徐々に成果を残せているのは、SFCという莫大な自由を提供してくれる環境の中に身を置け、方向性を自己決定し、それに必要な授業をとり、その場その場でインプット・アウトプットの方向性を舵取りするというトレーニングを経験出来たからだと思っています。SFCに入学してから身についた習慣として、常に、「自分は何をしたいのか」、「それはなぜか」、「目指すべき場所はどこか」、「そのために必要なものは何か」ということを考えて、実行するようになりました。


— SFC生にメッセージをお願いします!



 SFCを卒業して痛感したことがあります。それは、「SFCは桃源郷だったのだ」ということです。ビジョンを持つ人は皆が応援し、ポジティブで建設的な意見が飛び交い、それに必要な知識は各々先端で活躍する先生の授業から獲得出来る。こんなに自由で、恵まれた環境は他にありません。意思さえあれば、このキャンパス以上に学びが得られる場所は日本には無いと思っています。是非、この湘南の僻地に現れた桃源郷での4年間を存分に活かし、楽しんで下さい。

 また、リスクを取る役割がある大学だとも感じています。東京大学や慶應大学の三田キャンパス、早稲田大学には無い、「創造的な"危うさ"」がSFCにはあります。新たな価値、未来というものは、そのようなイレギュラーな存在から生じるものです。少なくとも僕はそう思うので、その役割を担おうと思っています。