「CLIP Agora」が寄稿コーナーとしてリニューアル!今回はローランド・リチャードさん(環3)に寄稿していただきました。

近年ますます注目されつつある情報技術「ブロックチェーン」。発展途上にもかかわらず、情報革命をさらに促進すると関心が寄せられている。仮想通貨として応用した「ビットコイン」はすでに金融界を賑わせており、今後も多方面での応用が期待される。

この新技術の発展について議論するべく、5日(火)、デジタルガレージ社本社ビル(東京都渋谷区) で「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2016 TOKYO 【Day1】 ブロックチェーンの真実」が開催された。本イベントには、村井純環境情報学部長も登壇。村井学部長がブロックチェーンを語った。

ホストの伊藤さん 「ビットコインがブロックチェーンというインフラを世間に認知させた」

本イベントホストの伊藤さん。 本イベントホストの伊藤さん。

本イベントのホストはMIT Media Lab所長で、SFC研究所主席所員でもある伊藤穰一さん。「オープニング」の挨拶でステージに登った伊藤さんはインターネット黎明期を振り返りながら、現在のブロックチェーンの盛り上がりについて話した。

「かつてインターネット普及に貢献した電子メールのように、ビットコインがブロックチェーンというインフラを世間に認知させた」と語る。分散型の台帳としてセキュアな情報交換を可能にし、すでに投資額がインターネット黎明期を超えている。そのため今後は設備の拡大がさらに進むと予想した。

村井学部長、ブロックチェーンを語る

その後、村井学部長が「ブロックチェーンの歴史的位置付け」というテーマで話した。「インターネットは分散型情報共有を実現した。しかし、通信方式や互換性を保ちながら拡大できたのは、最終的に意思決定を統一するコミュニティがあったから」と分析する村井学部長。これまでブロックチェーンは権力分散の思想を分かち合う有志によって開発されてきたが、更なる発展のためにはインターネットと同様に意思統一が必要になることを示唆した。

「アカデミアの役割」と題したセッションでは、「かつてインターネットの発展を支えてきた大学機関は、今後ブロックチェーンの進展にも不可欠だ」と合意。実例として、かつて困難だった医療、著作権管理、金融への応用を進めているMITの仮想通貨の研究機関をあげた。アカデミアだからこそ実現できる研究のオープン性、中立性、そしてリスクの低さをアピールした。

同時に、SFCでブロックチェーン・ラボの創立を発表した。

村井学部長に独占インタビュー! SFCが先導するブロックチェーンの未来

筆者は、登壇後の村井学部長を直撃。ブロックチェーンラボの設立から、SFCの役割、そしてブロックチェーンの可能性について話を聞いた。

—— SFC研究所でブロックチェーン・ラボ設立に至った経緯を教えてください。

ブロックチェーンは、インターネットがやり残した信頼のある分散型システムを作っていくきっかけになると考えていました。そして、伊藤穰一と大学の役割について話す中で、日本でもMITと連携する研究体制を作りたいと思いました。

—— すでにベンチャー企業や金融機関がブロックチェーンの研究を進めています。アカデミアならではの役割は何でしょうか。

リスクをとれることですね。日本では国が発展に規制をかけがちです。企業が実験をする場合、金融庁のお墨付きをもらう必要があります。しかし、大学では成功するか分からないような研究を進め、発表する場の提供が可能です。

SFCでは未来創造塾を含めさまざまな研究を行っていますが、ブロックチェーンを応用できる分野の一つに「デジタルファブリケーション」があります。将来的に自分たちでものを作って流通させる新しい社会が来たら、対価の払い方、信頼の担保、法的なコミットメントなど責任所在や知財の問題が発生します。

そのように、現実社会とサイバースペースが融合した時、ブロックチェーンはその接点になります。こうしたデジタルファブリケーションの発展した未来とブロックチェーンの関わりについてアプローチすることは、ファブキャンパスSFCのアドバンテージであり、責任でもあるでしょう。

—— ブロックチェーンの概念は興味深いですが、実感が湧きにくいところもあります。MITではビットコイン100ドル分を学生に配布する等して認知度を上げてきました。SFCでも同じような取り組みを実施しますか?

まだわからないですが、具体的な施策を行うことは大事ですね。あと注意しなければならないのは、作ったものが人を傷つけないかどうか。

ブロックチェーンは、お金や経済だけではなく、多様な分野に貢献できるプラットフォームになると思います。SFCでは遠隔教育のプラットフォームももっているので、分散型台帳を使って学事手続や成績管理、そして卒業証明書などに結びつけられるか試すことも大切です。

—— ビットコインが発展した背景に、反権力や暗号化推進の活動があります。日本ではそのような流れはあまり見られません。国内ではどのように普及すると予想されますか?

国内では、反権力とは逆のプロセスが見られると思います。かつてSFCでインターネットを進めていた頃、規制違反状態を解消しようと当時の加藤寛総合政策学部長(1990年~94年)が元学生の総務大臣に電話してくれたことがあります。厳密にはインターネットは電気通信事業法に違反していましたが、今は誰も文句を言わない。良いことを進めていけば、ある程度実験的でも社会に受け入れられます。

「間違っていた」と言うのも研究の一部です。SFCでは様々な人たちの力を借りられます。理屈と情熱があれば多少受け入れ難い新しい概念を前に進められるでしょう。

近い将来に社会を支える「信頼のインフラ」、ブロックチェーン。SFCでラボが立ち上がり、今後もますます盛り上がるだろう。「New Context Conference」では一足先に未来を見学してきたが、SFCにいる「未来からの留学生たち」にぜひ実現してもらいたい。

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