新年度から始まったNHKラジオ・フランス語講座の入門編を古石篤子・総合政策学部教授が、NHK外国語・フランス語会話を國枝孝弘・総合政策学部助教授が担当講師を務めている。
 SFC CLIP では、前回の平高教授に続き、古石教授、國枝助教授に、講師をするにいたった経緯からSFCの外国語教育までに関してお話を伺った。


※國)は国枝先生を、古)は古石先生を表しています。

● 古石先生がNHKラジオの、國枝先生がNHKのフランス語会話の講師をすることになった経緯を教えてください。

國)最初は古石先生のところに来た話なんです。それで、古石先生がラジオならいいわよということで最初は古石先生だけだったんですね。それで、NHKの担当のディレクターが「では、(TVの方を)誰か紹介してください。」と言い、じゃあうちに若くてピチピチしたのがいるからということで私を紹介してもらい、ディレクターの人に会って、結構何度かディスカッションして、決まったということですね。
古)ラジオはね、前にやっているんですよ。92年と94年に2度やっているんですよ。私は生まれたときからラジオをやりたいなと思っていたんです(笑)。小学生のときからラジオ講座ファン。うちの父がラジオ英会話を聴いていたんです。私がすごく聴きたいと言ったら、ちょっと難しいから基礎英語のテキストを(父が)買ってきてくれて、小学校5・6年生の時に聴いていたんです。そのころからいつかラジオやりたいなと思っていたわけじゃないけど、なんか憧れのようなものがあった。あと私は小さい頃はラジオで育った世代なんですよ。だからというわけじゃないですけど、たまたまある先生からラジオやってみませんか、と言われて。

●NHK(TV)の収録について何か苦労話などありますか

國)やはり普通に授業やっている自分とTVで違うのは、やり直しがきかないということです。やり直しがきかないというのは2つ意味があって、失敗してももう一度やり直せばいいというのが1つ。2つ目の意味は、授業というのは学生の顔を見てインタラクティブにやっていくから、「ああ、わかってないな」と思ったら違う表現を使って言ったり、相手の様子を見ながら引いたり、教える量を少なくしたり、もっとたくさん応用的なことを教えたりとかが、その場でできるわけですよね。
でも、TVはやっぱり一方向だから、決まったフレーズで言わなければいけない。だから大変ですね。だからといって、台本を覚えてしまったら、しゃべっているようには通じないから、説明口調になっちゃって講義のようになってしまう。それは避けなければいけない。だからその具合が難しいですね。だからTVのほうが最小限のことを予め想定して、決めたせりふをそのまま言わなければいけない。しかも、あたかもその場でしゃべっているようにいわなければいけない。決められたせりふなのに、せりふじゃないように今話しているように言わなければいけない。それはやはり難しい。

●収録は一ヶ月に何時間くらいかかるのでしょうか。

國)本当は2時間で撮るべきなんですが、1本。今のところはご迷惑おかけして、3時間半くらいかな。

●それが月4本あるわけですよね、とうことは1日に6時間くらい?

國)もっとかかりますね。台本読みがあるし、休憩があるし、セッティングもあるので、大体9時半に入って終わるのは7時くらいですね。

●緊張はされましたか?

國)最初はやっぱり緊張しますよね。だいぶ慣れてはきましたけど。緊張というのは、TVだから緊張するというよりも、TVっていうのはすごい多くのスタッフがいるのでね。つまり、たとえばスタジオだと他のメンバーもいるし、ディレクターもいるし、カメラマンもいる。それからスタジオを収録するほうには、デスクがいてプロデューサーがいて、全員がいるわけです。だから、衣装さんも合わせれば10人強の人を、自分のミスが拘束してしまう。という意味での緊張はあります。だから失敗すると本当に多くの人に迷惑がかかる、という意味での緊張があります。

●NHKのフランス語会話で一緒に講師を務めているルロワ先生もSFCの先生ですが偶然ですか。

國)偶然です。 (一緒のほうが)やりやすいですね、しょっちゅう2人で、「あそこがだめだ、ここがいかん」と改善点を話すことができるし、質問も気軽にできる。僕にとっては良い偶然でしたね。

●文法事項など、番組の進め方は先生に任されているのですか。

國)はい、フランス語に関しては全部僕がやってます。もちろん台本はディレクターの方が書き、それをチェックする方式です。

●古石先生と合同研究会で、教材のほうをやってらっしゃいますよね。その合同研究会とTVの内容で互いに生かせている点などありますか。

國)フランス語の授業に関しては、相互効果があります。そういう意味では、広く僕たちのやっていることは、具体的なシチュエーション、要するに読み書き、昔のようなテキストを読んで訳すようなそういう学習スタイルでは全くないんですね。具体的な生のシチュエーションがあって、そのシチュエーションの中でどういう表現が出てくるか、っていう形でやっているんですね。だから、SFCでは会話という形で会話重視してやっているんだけど、会話って言うのはいったい何かというと、今言ったようにどんなシチュエーションだったらどういうような反応をするか、というのがやっぱり大切だと思う。単にフレーズを覚えるだけではなくて、例えば今もSFCでビデオ教材を使ってますね。それも具体的なシチュエーションをつかむ為に見るわけです。そういう中で出てくるフレーズを覚える、ということが大事だというのがTVとインテンシブの授業では共通していると思います。

●ところで、フランス語の授業体系が変わりますよね。なぜ、まず新インテンシヴ外国語というものを設立したかということをお聞きしたいのですが。最後に一言お願いします。

古)私から簡単に説明しますけど、これはまず慶応全体でのグランドデザイン、その中でも特にSFC全体でVersion2.0というのが動いていますよね。つまり最初の段階が終わり第2段階っていうことで、それぞれのセクションがそれまでの反省を踏まえて、新しい出発をしました。だからフランス語だけというのではなくて、全部の言語が新しい「グランドデザイン」という枠組の中で、新しい方向の模索を始めているわけです。その中の一つの柱が外国語の「戦略言語」としての位置付けです。つまり、それぞれの言語で高度なスキルをもった人材を育てようというわけです。けれども、フランス語セクションとしてはその「戦略」という呼び方が、なんとなく物騒な気がしたので別の言い方はないものかということになり、「新インテンシブ」と呼んではどうかということになったのです。だから言語によっては「戦略言語」という名称のままです。では、これまでの「インテンシブ」と「新インテンシブ」と、どこが違うかというと、単に名前が変わっただけじゃなくて、今までの反省の上にのっとって新しい段階にいくということです。どこが一番の反省のポイントかと言うと、今までは初級とか中級くらいまでは日本でもけっこう有数のいい教育をしてきたと私たちは自負しているんだけど、問題はその上。中級の後半から上級にかけてあんまり人が育っていなかったかな、という反省があるわけです。それは多分ほかの言語もそうで、今までカリキュラム的にもその辺は保証されてなかったのですよ。2、3年前に少し新しいカリキュラムになって、コンテンツモジュラーというのができました。たしかに今まで上級というのはあったけれど、「外国語」としてカウントされる数が限られていましたよね。完全に自由科目でした。それが今、上級になれば、コンテンツが取れて、コンテンツは講義科目、クラスター科目としてとれるわけですよね。だから、「外国語」として履修できる科目は20単位でも、コンテンツは別のものとして履修できるわけです。だから合わせれば30単位くらい外国語がとれるようになったの。つまり中級くらいのレベルしかなかったら、社会に出て役に立たないわけ。使わなければ忘れるし。で、それだけでは意味がないので、ほんとに社会に出ても、役に立つ、実践的に使える人をここから出していこうという考え。やる気のある人は、バンバン育てよう、と。

●今までの会話レベルより上を目指すということですねありがとうございました。

古)会話レベルというのも誤解があって、世間一般である誤解ですが、コミュニケーションというとオーラルコミュニケーション、会話とイコール結びついてしまうけど、コミュニケーションの方法っていっぱいあるじゃない。新聞を読んで知識を得るのでもそうだし。だから単に日常会話とイメージしてもらっては困る。4つの力、読む・聞く・話す・書く。それを今までも平均して伸ばしてきたつもりだったけど、レベルは中途半端なところで止まっていた。つまり、それはカリキュラム的にも保証されてなかったというのもあるし、私たちの意識の中でも希望的には伸びてほしいというのはあったけど、あまりそこの部分をすごく意識してはやってなかった。

●今学期は言語文化総合講座が休講になっていますが、入学してすぐに何かの言語をインテンシブとして選ぶか決めることになったということですか。

古)「総合講座諸国語概説」の意義ですが、たいていは、みんな高校・大学受験でくたびれていますよね。そういう頭を休ませて、大学というところで新しく言語に対する世界観を変えてもらおうという意識があったんです。そのまま連続でくると、外国語イコール英語、という感じで取っちゃうし。それでは困ると思ったのです。例えばマレー・インドネシア語を取らないとしたら、こんなに面白い言語があるのを知らないから、という理由が大きい。知らないから取らない、というのは別に取りたくないから取らないというのではないのですよ。だから入学後すぐに外国語を始めないということには、最初は大きな意味があったのです。

●その言語文化総合講座が、休講になっているのはどうしてですか

古)私達はとても面白い経験をしています。入学直後に1期生、2期生とかに何語をやりますか、とアンケートを取った。大体90%近くの学生が英語やります、と答えたわけ。ところが、総合講座をやって6月の語種選択のときに希望取りますよね、それがたしか50%くらいまで落ちたのです。半分はやはり英語なんですが、残りはほかの言語にうまくばらけたんです。それで、こちらが揃えたクラス数にピッタリだったのです。信じられないくらい。このような現象が3、4年は続いたでしょうか。でも、だんだん最初に英語を取るという人の割合が減ってきて、総合講座をやってもやらなくても、最終的に落ち着くところがあまり変わらなくなってきたんです。ということは、そういう文化が出来上がってきたのかな、と思ったわけです。
また、それとは別に、(総合講座が)お祭り騒ぎ的になってきたところもあって、あまり、知的な科目ではなくなってきた。だから、あまり効果が上がらないんじゃないか、SFCに入学してくる学生は入学前から既に、「中国語をやろう」とか「朝鮮語をやろう」とか思って入ってきているのかな、という感じですね。

●ところで、フランス語が目指す具体的に高いレベルというのはどの程度なのでしょう?

古)実用フランス語検定試験だったら2級は当然ね。準1級くらいかな。あともうひとつフランス政府の検定(DELF、DALF)があって、あれだったらDELFくらいかな。DELFというのが下に6段階あり、上にDALFというのは4段階あって、DALF全部とは行かなくてもDELFは最低全部ほしいですね。DALFもどれか1つ受かってほしいな。(詳しいことは、フランス語セクションのHPを見てください)

●今までは、2級を取れる学生はどれほどいたのですか。

古)そんなにたくさんはいなかったですね。でもやる気のある学生は2級を取っていた。1学年にどれくらいいたかな。
國)10人くらいじゃないですか。
古)それを、30人くらいにしたいと思っています。2級をとっても社会では通用はしないだろうなと思います。つまり、2級の知識があれば、それで磨けば、例えばフランスに半年いるとか、そうすれば実用に通用するかな。そのまま社会でプロフェッショナルレベルには行かないでしょう。
國)よく勉強したね、くらいかな。武器にはまだならない。

●語学の履修システムが移行期ですが。

古)例えば、フランス語では、春学期やらなくても、秋に思いついた学生は秋にベーシックを取れば、春に新インテンシブに入れるわけですよ。だから、毎学期インテンシブの1・2・3があるようにしたい、と思っているわけ。
今までのように、今回語種選択に漏れたから1年待たなければいけない、とか、インテンシブの2を落としたから1年待たなければいけないということはないわけ。だから、やる気のある人はガンガンやって、やる気のできたときにやれる。今回ベーシックやって秋の選抜試験にもれても、がんばってベーシック2をやれば、春にはインテンの2に入れるわけ。
國)選抜試験に合格しさえすれば行ける。ベーシック1は必ずしも受けなくてもいいんですよ。
古)高校でフランス語をやったことのある既習者なら、別に最初はスペイン語とかを取って、秋に選抜試験受けてはいるとか、あるいは自分でTVとラジオで勉強して夏に日仏学院とか通って選抜試験に受かれば秋から入れるわけです。別にベーシックが絶対というわけではない。
あと、コンテンツは2単位だけど、スキルは1単位なの。これを今年中に2単位化しようということを考えています。というのはフランス語の履修者はどちらかというとコンテンツの方が多かったりするので。だから、スキルとコンテンツの内容を全面的に見直すことと、スキルを2単位化しようということを考えています。

●最後に国枝先生から、SFCの学生対して一言お願いします。

國)TVは一般視聴者向けなので、なるべく広くお年寄りから若い高校生まで誰でも通じるようにやっています。でも自分が思うに、本質ではやはり授業だと思うんですね。何よりも授業ではインタラクティブにやっているから学生と常に一緒に授業を作っていく。僕としてはそういう風に習っている人と教える人が一緒に授業を作るという方がより重要であると思っているので、フランス語をやりたい方は授業に来てほしい。しかもフランス語セクションの先生たちは、我々専任が自信を持って推薦する人なので、きちんとしたクオリティで生き生きやっています。

●同じく古石先生から、フランス語教育に関して一言お願いします。

古)今年の言語ガイダンスで語ったんだけど、もしやるなら使えるレベルまでやってほしいという事ですね。その言葉が話されている国に行くとか、その言葉を使っている人たちと、接触を持ってそこで生身のコミュニケーションをしないと、自分の価値観を揺るがされるような、そういうことが起こるはずはないので、本当に意味で他者に出会ってほしいな思います。それをやるには、できる道具として使い物になるところまでやらないとできない。
もう1つは、やはりフランス語だけじゃなくていいけれども、慶應大学の学生って今後の日本を背負っていく人たちなのだから、日本というのは外国語教育に関してはかなり特殊な世界にいるということを意識してほしいなと思います。つまり、中高で英語しかやっていない。正式なカリキュラムでは1つの外国語だけ。これは世界的に見てもかなり異常です。ふつうは、大学に入るまでに2つの外国語には触れてくるんですよ。
今回のイラクの事でも、日本の態度というのがすごくアメリカべったりというか、そういうのをみんな感じたと思うのね。それと外国語とは直接関係ないけど、もう少し多極的な外交とか展開していくとしたら言葉というのは最低限必要ですよ。情報を得るにしても、今、外国のメディアだと、みんなCNNだとかABCだとかアメリカ系のものばかりですよね。みんながそういうところからだけ情報を得るとものすごい偏ってしまいますよ。少しほかの言語をやっていると、その言語のニュース聞いただけで全然世界が違って見える。だから若い人には、日本語と英語以外の世界を見る眼のツールを絶対身につけて欲しいと思います。ここは強調したいです。

―お忙しい中の取材でした。ありがとうございました。