6月27日(金)τ12にて、18時から2時間にわたって、モバイル放送株式会社のマーケティング統括部統括部長附 衛星・周波数担当シニアマネージャーを務める山口慶剛氏が講演を行った。昨年10月に放送を開始した同社のサービス「モバHO!」は新たなモバイル向け衛星放送サービスとして注目されている。また、これに合わせて、τ館1階ではモバHO!の受信端末のデモが行われた。


 2004年10月20日にサービス開始したモバHO!は、既存の衛星デジタル放送や地上波放送と違い、移動時でも速度の影響を受けず音声も映像もクリアに伝えることができる。また、パラボラアンテナが必要ないため、モバイル端末でも受信することが可能になった。さらに、衛星波が直接届かない場所でも、地上に再送アンテナを介して受信することもできる。
 講演の前の挨拶で、村井純環境情報学部教授が自らがモバHO!のユーザーであることを明かした上で、「デジタル放送が衛星を介して空から降ってくることは大変面白い」と語り、さらにSFCでこの技術の紹介が行われることには、多くの意義があると述べた。
 続いて、モバイル放送株式会社の代表取締役社長の溝口哲也氏が登場し、「SFCの最初の共同購入機種としてdynabookを選ばれたことで、その後全国の教育機関でのシェアが高くなった」という、自身が東芝でラップトップの販売を担当していた頃のエピソードを紹介した。その上で、モバHO!の普及にあたっても、SFCが先導的な役割を果たすことを期待していると述べた。

モバイル放送株式会社は構想段階から合わせるとほぼ10年の歴史を持っており、株主は90社にも及ぶ。衛星や地上施設のインフラへの初期投資を、民間資本で賄っているのが特徴だ。
 同社は総務省より放送衛星局免許を認められており、一般的なNHKのような放送局としての機能を持つことができる。また、アジア太平洋地域でのモバイル向けデジタル放送の帯域である2.630GHzから2.655GHzまでの25MHzを、日本では一社で確保している。
 端末は、最大で12の信号を受信することができ、高い受信安定性を保証している。有料サービスである以上高い受信率でなければならない、という同社の意志が表れている。
 現在の放送内容は、映像、音声、データの3種があり、音声はMPEG-2、映像はMPEG-4を符号化に利用している。圧縮技術の改善により、帯域が広まることがなくても、放送内容を増やしていくことが可能。デコーダーのアップグレードは、データ放送を利用して自動で行うシステムにしているため、ユーザは端末のアップグレードを行う必要がない。このようにして、放送されるコンテンツを増やしていく予定だ。
 モバイル放送のビジョンとして、携帯電話の次世代情報端末としての位置付けを掲げ、BS・CSよりも移動体向け、ラジオよりも広域向けという性質を前面に押し出している。特にテレビ50周年を迎えても、日本にテレビの電波が届かないエリアがあるということに、巨大なマーケットがあるのではないかという見込みを持ったという。
 災害時にモバHO!を活用することも提案されている。通常、BS・CSは地上波地方局との権利上の関係で、地上波放送と同じ内容を放映することはできない。しかし、大規模な地上インフラを必要とせず、雨による減衰もない衛星放送のメリットを活かすために、モバHO!ではNHK総合を災害時にそのまま放映する。この実績は中越地震の際や、台風の上陸時に実証済みとのこと。
 多様な活用法の実践として、ANAの航空機で受信するサービスを今年中に開始予定。地上と全く同じ放送が機内でも確保される。他にも、JF全漁連と共同で、漁船でのモバHO!の利用により陸上と全く同じ高品位なサービスを提供している。
 なお、類似サービスとして、地上デジタル放送の1セグメント移動体向け放送がある。地上波デジタルのチャンネルは13のセグメントに分割され、1つのセグメントで低解像度・低ビットレートの番組を配信することができる。この低容量の放送は通称「1セグ」と呼ばれ、携帯電話などへの搭載が予想されている。
 しかし、モバHO!は固定の大型画面での鑑賞に耐える品質の映像を、小型端末にも配信している。そのため、品質の面での差が大きいと考えられている。
 さらに、基本的に地上波デジタル放送全体が、地上波アナログ放送という現行規格の移行に過ぎないため、新たなサービスが進出しにくい面があり、それが1セグに対するモバHO!の優位性につながる。
 
 また、日韓共同プロジェクトとして推進されているのも特徴で、衛星も日韓で共同所有している。また、アジア地域では同じ帯域でサービスが提供可能なため、その発展性も注目されている。
 なお、韓国では既に携帯電話にこのサービスの機能を組み込んだ一体型端末が発売されており、人気を博しているとのこと。現在、日本では専用携帯端末、車載端末、PCチューナー端末の3種類の端末が販売されており、将来的には携帯電話への組み込みも計画している。他にも液晶画面を持った様々なAV機器への導入が可能だ。
 既に日本全国の高速道路、国道、県道の95%以上(トンネルの除く)で受信可能になっており、山手線でも99%で受信可能。首都圏・関西圏の主要路線でも95%以上の受信可能性を確保している。
 ソフト面では、映像9ch、音声30ch、データ放送1ch60タイトルの放送を行っている。映像では、CNNなどニュースチャンネル、MTV、グリーンチャンネル(競馬)など、音声ではラジオから音楽、語学番組を放送している。また、データ放送チャンネルは、ニュースや天気予報、経済情報から、趣味娯楽まで幅広い内容を放送している。標準的には月2,500円程度契約になる。
 講演後には質疑の時間では、積極的に質問が出て、「B2Bによる収益とB2Cによる収益はどちらが多いのか」という質問に、山口氏は「現段階では視聴料収入が全てなので、B2Cが100%。ユーザが数百万まで増やさなければ広告収入は見込めない」と述べ、「今後、B2Bを増やすことで視聴料を安くしてユーザ数を増やして、放送としてのポジショニングを高くしていきたい」と抱負を語った。
 また、「確保できる帯域を増やして、委託した方が、充実するのではないか」という質問には、「全く新しいサービスなので、借りることができないし、帯域もこれ以上確保するのは難しい」と答えた。
 さらに、「RSSで行われているようなサービスをデータ放送の形式で行ってはどうか」という提案や、バックアップ衛星の構想を問う質問、また、市民メディアとして活用するための手段が問われたりした。
 最後には「慶應で1chのコンテンツを製作することはできないだろうか」というテーマでの議論は盛り上がり、コンテンツ方式が映像だけではなく、音声、データと選択肢が多いため、多様なコンテンツに対応できるというメリットを活かす方法にまで、議論は及んだ。
 τ棟のロビーには受信端末のデモ機が展示され、講演の前後には多くの学生が立ち寄り、担当者に積極的な質問をしていた。なお、モバHO!では、今回のSFCでのデモに合わせて、SFC生向けのアカデミックプライスでの提供を7月末まで行っており、通常価格より、若干低い価格設定となっている。