200号を記念して、現編集長の桂山奈緒子(総4)と、初代編集長の千原啓(03年環卒)の対談をお送りする。なぜ5年間続いたのか、なぜ続けているのか、という点を中心に2人に訊いた。そこで明らかになったのは、「ゆるいつながり」という組織モデルと、独自スタンスの、読者・取材者との新しい関係を構築しようとする新しいメディアという、CLIP独特の性質であった。


 コーディーネーターは、現代表の渡辺裕作(環4)が務めた。

CLIPが誕生した経緯
桂山:もともとSFC CLIPは、どういう経緯で作られたのでしょうか。
千原:当時のSFCは、情報ネットワークがインフラとして普及している割に、人脈を超えた情報共有の手段がありませんでした。そこで、学内情報を共有で きるWEBサイトやメールマガジン(メルマガ)があったら良いのではないか、と考えたんです。
渡辺:具体的に、その考えは、個人の思いつきだったのでしょうか。それとも、何らかのミーティングで提案されたものなのでしょうか。
千原:当初は、中島洋研究室の成果を発表するための「中島研通信」的なメルマガを想定していました。しかし、作っている側が一方的にプロモーションするためだけのメルマガではつまらない。もう少し広く、SFCの学生一般にニーズがありそうなもので、みんなが読みたい情報を発信しよう、という議論が起こりました。
 当時研究室では、情報流通やインターネットを絡めたジャーナリズムを研究するグループがあり、記事編集の技術を身に付けることはもちろん、情報流通の新しい形をこのプロジェクトで実践しながら考えていくことに議論が落ち着きました。
桂山:当時、「メルマガ」は一般的でしたか。
千原:そうですね。そこそこ普及していて、ちょうど小泉内閣メルマガが話題になっていた時期です。
桂山:では、それらの先行事例を参考に、SFC CLIPの原型はつくられていったのでしょうか。
千原:いえ、参考にしたのは、むしろ普通の新聞です。
 「大学内の情報共有をしよう」なんて誰もが考えるアイディアですが、なかなか実現されないことが多い。そこで、とりあえず叩き台として「SFC CLIP」をつくってしまえば、その方法を議論したり実験したりすることができる。そう期待して第1号をつくりました。
5年続く組織とは
渡辺:ところで、なぜ、CLIPが5年続いているのか、そしてなぜ続けているのか、お二人に聞きたいと思います。
千原:SFCに、こういうものがありそうでないからではないでしょうか。あとは編集委員に個人的なキャラクターがいるからとか(笑)。面白い人のところには、面白い人が集まる、という感じです。お金ももらえないし、単位ももらえないし、サークルでもない。そんな活動は「楽しみ」がなければ続かないでしょう。
桂山:あるCLIPのOBは「CLIPのような情報の集積点にいれば、SFCの一番早い流れに乗っていける。そう思って編集に関わることを決めた」とおっしゃっていました。そういった個人的なメリットも実感できますね。
渡辺:確かに。桂山さんが続けられた理由は?
桂山:のびのびと自立して活動できるからです。実は一般的な運動系のサークルには入ったことがないので、詳しくはわかりませんが、よく聞くのは、精神的なつながりが良くも悪くも非常に強固であること。その点、CLIP編集部は、個々が良い意味で「自立」している。そして互いにゆるくつながっている、つまり「束縛しないけれども助け合うときは助け合う」という雰囲気がありますよね。
渡辺:確かに、ドロドロしたところはないですね。
桂山:金曜日に集まって配信、という定期的にクリアしていく目標があることや、1週間に1度という無理のない活動スタイルが良いのかもしれません。
千原:私もそう思います。ドライにスマートに活動できるのは、メーリングリストなどの各種情報ツール、そして魅力的なメンバーがいるからでしょう(笑)。やはり大学においては、人のつながりが一番大きいと思います。
桂山:学生の活動には停滞や自然消滅がつきものです。CLIPは、ゆるく長く、という感じで5年間ちゃんと続けることができている。この5年間の蓄積は財産だと思います。
 というのも、おそらく大学側でも5年前の細かなSFCの様子をきちんと記録されている資料は持っていないと思うからです。もし資料があったとしても閲覧ししづらかったり、学生には公開されなかったりするでしょう。5年目を迎えたSFC CLIPにはSFC「公開アーカイブ」的な側面が出てくると個人的には考えています。
渡辺:5年間続けられた理由としては、SFC自体が面白くなってきているから、とも言えます。設立から十数年経ち、今はちょうど変革期でしょう。
 マンネリ化してしまったような大学やキャンパスに較べて、ネタに困らないんですよね。
桂山:確かに、SFCが常に変化しているからこそCLIPも変化しながら続けられている、という側面はあると思います。
独自スタンスのCLIP
桂山:もう一つ、続けられた理由をあげるとすれば、他のメディアとのスタンスの違いがあげられると思います。CLIPは既存のメディアの方法論には従わず、 読者や取材相手との新しい関係を模索しています。その一貫として、ウェブログのような形式を採用し、センセーショナルでない話題にも積極的に取り組んできました。
千原:これは個人的な考えなのですが、他の学内メディア紙というのは、いわゆる「がんばっちゃってる系」の学生が読みたがるような内容だと思います。CLIPはそれらとは違って、学生の大半を占める「大学のことなんて興味ないですよ」という普通の人が、気軽に読める点で良いのではないかと思います。学生団体系の盛り上げちゃおうぜ、的なノリが個人的にいやなので。
桂山:そうですね。具体的なニーズのある特定のターゲットに向けた記事を書くのも「大学のことなんて興味ないですよ」という人にも読んでもらいたいからですよね。
CLIPに足りないこと
渡辺:今のCLIPに足りないところは、何だと思いますか?
千原:もう少し、速報性があったほうがいいとは思います。人員の面で難しいとは思いますが。
 それから、CGM(Consumer Generated Media)的な、編集者側ではない人たちが参加して、情報を投げ込める仕組みが実現できないでしょうかね。
 さらに、例えば「ぐるナビ」のように条件を指定して、学校の中の授業情報、湘南台近辺の食事情報、就職セミナーなどの情報を調べやすくすることはできないんでしょうか。記事を時系列で並べる以外にも、もっとユーザーが使いやすいWEBサイトをつくることができると思います。
桂山:同感です。私も、記事の「見せ方」を変えたいと思っています。CLIPには埋もれてしまっている良い記事がたくさんあります。知りたい人、知らせたい人に確実に情報が届く仕組みを考えられればと思っています。例えば、おすすめの記事だけで構成されているページがあっても良いですよね。
千原:CLIPにはSFCの便利サイトになってほしいと思います。「便利なもの」って人によって価値基準があまりブレないものだと思いますからね。
渡辺:より読者を惹き付けるために、見せ方でもう少し遊びたい、という気持ちもあります。過去には「SFC地盤まで沈下?」とか、「ベッカムよりおもしろい」など、タイトルに遊び心を込めてきました。
千原:そういう方が、読者は見たい、と思いますよね。
桂山:一点、付け加えたいのは、「便利なもの」はもちろん重要ですが、SFCのコミュニティを活性化させる役割をもっと果たしたいなとも思っています。
 違う考えを持っている学生同士、教職員と学生が、出会うチャンス、話すチャンスをCLIPが提供できればと思います。SFC創設当初には、例えばメディアセンターの職員と学生が友達みたいに話している光景がよく見られたそうですが、最近の学生と教職員の間にはもう少し距離があると思います。そのどちらかの背中をポンと押してあげるような仕掛けも、「便利なもの」とは別に、盛り込みたいと思っています。
千原:CLIPに対して、いろいろな人が、いろいろな思いで参加することは良いことだと思います。問題はそういう組織をどう作っていくか、ということになりますね。
 様々な視点を取り入れるという意味では、CLIPだけに専念している人よりも、いろいろな活動をしているうちの1つとしてCLIPに参加する人が大勢いた方が、面白いコンテンツをつくることができると思います。
今後の抱負
渡辺:今後の抱負を教えてください。
桂山:近い目標としては、今SFCに通っている学生のCLIP購読率とCLIP認知度をもっと高くしたいと考えています。現時点では、若干、卒業生や教職員の割合が大きいと感じています。
 また、昨年連載したAO入試の記事への反響の高さから、受験生にもニーズがあると知りました。最近の受験生は、WEBで情報収集を行っていますからね。試しに、「SFC」という単語で検索したところ、5件目には「SFC CLIP」が登場していました。今後は受験生向けコンテンツにも気を配っていこうと思います。
渡辺:受験生や学生のニーズに応えるといえば、私たち制作者の学年があがるにつれて、新入生の動向がわからなくなってきますね。
桂山:ですよね。読者ともっと話してニーズを聞き出す必要が大いにあると思います。街頭インタビューでも良いから、とにかく多くの読者にヒアリングしま しょうか?(笑)
渡辺:それは面白い(笑)。本日はありがとうございました。