2007年度からSFCに導入が予定されている新カリキュラム。改定作業を担うカリキュラム委員会の委員長をつとめる萩野達也環境情報学部教授にインタビューを行った。第3回目は、いよいよ卒業プロジェクト必修化に関する話をお届けする。


[卒業プロジェクトの必修化]
–卒業制作(新カリキュラムでは「卒業プロジェクト」)を必修にするという案があるそうですが。
 はい。それはすでに決定していて、必修になります。
 
 もともと、このカリキュラム改定は2006年度から実施する予定でした。それがなかなか最終的にまとまらず、1年のびたという経緯があります。おそらく、「卒業制作が必修になるらしい」という噂が長い間流れているのは、そのためです。
–卒業制作の必修化はどのような経緯で決定したのですか。
 現在のカリキュラムでは、やりたくない人はやらなくても良いという風になっています。必修にしてしまうと、やりたくない人もやらざるをえなくなり、形骸化するのではないかとの懸念がありました。従来の大学のあり方への反省から、これまでのVer.2.0では必修化を見送ってきました。そのかわり,やれば4単位もらえるという、魅力がつけられていたはずです。
 ところが、やはり必修にしなかったせいか、最近のSFCの学生の6割は卒業制作をやらずに卒業をしています。大学としては、4年間学んだ事を何らかの形で残してほしい。研究プロジェクトを1度以上履修している学生は9割います。しかし、4年生の秋学期に取っている学生の割合はぐんと下がってしまうのです。これは、非常にもったいない。
 必修化すれば、やる気のない学生を指導する教員の負担が増えるのは確かです。しかし、現状はその負担以上に、学生にとってもったいない状況にあると思います。それを改善するため、卒業制作必修化とともに「学士候補」つまり「学士をとるための条件がそろったので卒業プロジェクトをとってもよいですよ」という制度をとりいれる予定です。
–卒業制作が必修になるということは、全ての学生がその「学士候補」の条件を満たさなければならないんですね。それは、従来とくらべて、卒業が容易でなくなる、ということになりますね。
 まぁ、現在の卒業要件を少し早める程度のものだと思ってください。
–SFCのなかには、卒業プロジェクト(現在の「卒業制作」)は必修でないからやらない。だから4年生はのんびりできて良いなぁ、という風に認識している学生が相当数いると感じます。現在の1、2、3年生は卒業プロジェクトが必修化されるとなると、そういう意味で戸惑うと思うのですが。
 なるほどね。でも、新カリキュラムが適用されるのは2007年度に入学してくる新1年生からの予定です。今年度の在学生には、特例として、新カリキュラムのなかで従来のカリキュラムの要件を満たしてもらえれば卒業できるようにと配慮します。入学年度によって卒業要件が変わるということです。不利にならないよう、考慮します。
 ですから、卒業プロジェクトの必修化が実質的にスタートするのは3、4年先のことになりますね。
[研究メンター制度で履修指導]
–現行のカリキュラムを見て入学してきた現在の大学1年生は、入学して2年目でのカリキュラム改定に戸惑うかもしれません。
 現在の学生の中には,汎用科目をたくさんとる学生もいますね。それから,私たちが意図しているのとは逆の順序で、まずクラスターや専門科目を必修単位だけとってから、あとは汎用科目で埋めるというパターンが見受けられます。本当は汎用科目をとってから、専門、クラスターと積み上げるのが一般的ではないかと思うのですが。上に行けば行くほどとれる科目の幅は狭いんですがね。
 3、4年生がその学期にどんな科目を履修しているのか、一度統計をとったことがあるんです。相当数、汎用科目を多く履修している学生がいましたね。バランスが良いとは言えませんね。その結果から見て、逆に汎用科目に必修の単位数を設定したほうがいいかもしれない、という意見も出ました。
 学生一人一人がちゃんと考えて科目を履修すれば何も問題は起こらないんだけれど、そうはなっていない。だから、研究メンター制度をつくることになった。正しい科目のとりかたを指導しましょう、という意図です。
–学生の裁量に任しておくからには、カリキュラムに関する説明を徹底するということですね。
 はい。極端なことを言うと、履修申告の際に教員の承認をもらわないと申告できないようにしたほうがいいかもしれないですね。
 ただし、そのような研究メンター制をどう運用するかがまだ未定で、課題です。今のような履修申告期間では研究メンター制は不可能でしょう。一人一人の学生に限りある教員が対応しなければならないわけですから。
 私としては、そういった運用面の問題もクリアにして現在の単なる集まりであるアドグルをやめて、研究メンター制をやりたい。本来のアカデミック・アドバイザー、つまり学習の中身についてのアドバイスを学生たちは必要としています。
–なるほど。今後の改定作業の行方に注目したいと思います。本日は長時間ありがとうございました。
 全3回にわたってお伝えしてきた萩野教授へのインタビュー。カリキュラム改定の実際の作業はこれからが正念場。今年末までには、おそらくその全容が明らかにされることだろう。SFC CLIPでは、引き続きカリキュラム改定を追う。