SFC Open Research Forum 2006の1日目、22日(水)14:00-15:30に、丸ビル7階丸ビルホールにおいてメインセッションとして日中韓インターネットシンポジウム「北東アジアの危機と安全保障」が開催された。昨年の「日韓インターネット対論」と同様にインターネットによるリアルタイム中継を使い、中国・韓国のパネリストが遠隔参加する形となった。


 シンポジウムは神保謙総合政策学部専任講師を司会として進められ、中国からは復旦大学国際問題研究院副院長の沈丁立氏が、韓国からは延世大学東西問題研究院院長の金宇祥氏が参加し、日本側のパネリストは、主催者である小島朋之総合政策学部長に加え、基調講演者として小此木 政夫法学部長、外務省総合外交政策局安全保障政策課長の新美潤氏が務めた。
 催しはまず、小島学部長の挨拶に始まり、小此木学部長の基調講演、その後に沈丁立氏、金宇祥氏、新美潤氏の順に各パネリストが、「北朝鮮の核問題」を中心に北東アジアの安全保障について、それぞれの国の立場から意見を述べた。講演後の質疑応答は終了予定時刻を15分ほど延長して続けられるなど、白熱したものとなった。
 また、質疑応答の途中、インターネット中継が不調で映像・音声ともに機能しなくなり、中国側のパネリストが参加できなくなるという場面があった。会場がざわめき、司会の神保氏の表情が青ざめる中で、沈丁立氏は中国側からメッセンジャーやメールで回答を試みるという執念の対応を見せた。
【各パネリストの発言内容要旨】
「小此木法学部長」
●体制維持のための核武装なので、北が発射するのは体制が崩れる時である。そう考えると日本やアメリカが核を持っていようがいまいが関係ない。
●北朝鮮の行動習性は極めて単純である。「まず何か大胆な行動を取り(核実験など)、その次に粘り強く交渉をする(6カ国協議に復帰など)」、という小国の外交手段の典型を辿っている。
●韓国は隣国であり、何かあったときには直接被害が伝わりやすいので、穏健に宥和政策に走るのも理解できる。
●アメリカはBush政権の任期が残り2年弱と少ないので、あえて行動に出るかもしれない。
●日本はとにかくまず北朝鮮の原子炉を止めなくては危機は肥大していくばかりであり、独自の制裁を検討するのも妥当だろう。
「中国の沈丁立氏」
●侵略理由であった大量破壊兵器が存在しないと判明してからも謝罪をしないアメリカに対して、北朝鮮が強く警戒してしまうのはごく自然なこと。北朝鮮が今のBush政権に核問題解決に向けて話し出す気がないのも当然。彼らはBushの後を告ぐ政権に期待しているのだろう。
●中国の立場としては、実際に想像される犠牲(兵士の命・費用など)を考慮して、なんとしても武力的解決は避けたい。アメリカも同様に、戦争になった場合の莫大なコストを払う余裕がないはずだ。
●現行の国連による経済制裁は事実上効果をなしていない。経済制裁で本気に攻めるなら、世界が北朝鮮と完全に貿易を止めるくらいの事が必要なのでは。
●日本に関して言えば、核を持っていなくても某国の強力な核の力の傘の下にいるので、その抑止力を利用していることになる。
「韓国の金宇祥氏」
●各国の「能力・やる気・考え方」という常に変化している3項目に注目しなければならない。アメリカは最近いよいよTalkでなくMoveの方で進行する気配が出てきた。この動きはBush政権が交代して民主党政権が生まれてもも引き継がれるだろう。
●経済制裁・武力行使などの様々な解決策が提案されているが、どれを採用するにしろ、ロシア・中国・韓国・日本・アメリカというプレーヤー全員が協働しないと意味がない。
「外務省の新美課長」
●北朝鮮は体制維持のための核武装を目指し、周辺国は核放棄のための体制維持の保障しようとする、という全く逆の前提条件に基づいて双方が行動しているのが問題である。
●北朝鮮とアメリカの間に信頼関係は全く存在しないので中国が上手く両者を繋ぐ架け橋になってくれることを期待している」
 セッション後半では、各国のパネリストが「ここから先は、私の国や組織は一切関係なく、あくまで私の個人的な意見だが」と断って話し出すなど、議論はより一層白熱した。
 特にその中で、小此木教授は「北朝鮮の核問題は突破口が見えていないどころか、その手がかりすらつかめていない」と参加者の中でも最も悲観的な視点を示し、外務省の新美氏は「やたらに同盟を増やしては、国が危険に巻き込まれる可能性が高まるが、逆に日米同盟だけを軸にしていると、簡単に捨てられる危険がある。」と現行の体勢を危惧する独自の意見を漏らした。
 小島学部長は最後に「体制維持という言葉が頻繁に用いられるが、体制維持とは今の北朝鮮政権の維持なのか、北朝鮮という国の維持なのか、はっきりしていない」と指摘した。