ORF2007では、メインセッションと3つのキャラントを会場に、2日間に計40近いセッションが開催された。内容も顔触れもSFCらしく多様なものとなり、例年以上の盛り上がりを見せた。そのうちの幾つかを紹介する。


● 毛利さんが来た
 22日(木)13時からは「地球の科学技術を考える」をテーマに、宇宙飛行士で日本科学未来館館長の毛利衛氏、竹中平蔵元総務大臣・現義塾グローバルセキュリティ研究所所長、村井純環境情報学部教授らによるセッションが行われた。
 アカデミーヒルズと日本科学未来館が鮮明な映像による双方向中継で結ばれ、日本科学未来館の展示品を毛利館長自身が解説する場面もあった。竹中氏はそれらの展示品を例に可視化の重要性を示し、「技術はわからなくても実感を持つことは重要だ」述べた。
 さらに竹中氏が、技術と政治経済の関係性について「技術を社会化するプロセスは非常に複雑」と述べると、対して毛利氏は「科学者や技術者そしてビジネスや政治の世界が一体となって、グローバルに物事を解決すべきだ」との見解を示した。村井氏は議論の全体を通して、「ドメスティックな発想ではなく、グローバルな視点で考えることが重要である」との意見を述べた。
 毛利氏は、福沢諭吉の言葉『事をなすに極端を想像す』をORFのテーマである"toward eXtremes"と引き合いに出し、「150年前に先生が認識していた世界観は、地域や日本といった小さな枠組みでしかなかった。150年後の今、果たして地球や宇宙規模で物事を考えているだろうか」と述べ、より広い世界観の必要性を示した。その上で毛利氏は、「地球全体を考えられるリーダシップのある人材を、SFCがどれだけ養成できるかが重要だ」と述べ、SFCに対する期待感を示した。
 セッション後半には質疑応答の時間も設けられ、中継で結ばれた日本科学未来館からも質問が飛び出した。注目されていたセッションだけに会場は満員となり、立ち見も出るほどの盛況ぶりであった。
● 湘南藤沢学会セッション
 23日(金)には、湘南藤沢学会によるセッション"SFC学生の研究・活動発信「見てください・教えてください・一緒にやりましょう」"が開催された。これは、同名の展示・デモンストレーションと連動して行われた企画で、「成果、作品を発表したい」「アドバイスが欲しい」「一緒にコラボレーションしたい」という11組の出展者がプレゼンテーションを行った。

作品の実演を交えて「音声(音声言語)のリアルタイムデザイン」の発表を行った市原隆靖さん(政・メ)は、「音声は何かを伝えるために生まれ、発達してきたはずです。現代はネットやメールなど、文字言語を使ったツールが発達していますが、そのことでもしかすると人は、以前よりもコトバを発することが少なくなったのかも知れません。この研究を通じて、コトバを出したくなる楽しさを再発見すると共に、私の最終的な目標は、方言の魅力を音楽にデザインすることです。この発表をご覧になって、何かを感じた方や、アイデアのある方ぜひ私と一緒に、面白いこと、楽しいことをやりませんか。」と語った。

また、「経営とデザインを統合するコンサルティングスタジオをつくりませんか?」の発表を行った岩田崇さん(政・メ)は、「経営とデザインといった一見、異なるものをつなげるとビジネスチャンスがある。ポリシーは、ひとりひとりが自分の頭で考えて行動できる環境をつくること。ここにいる方々と、一緒にやりましょうという流れができるとうれしい。」と語った。
● 新しいモノづくり、新しいおしゃれ
 22日には、安村研究室によるセッション「モノ2.0-新しい人間観による新しいモノづくり-」がキャラントC1にて開催された。パネリストは安村通晃環境情報学部教授、田中浩也環境情報学部専任講師、渡邉恵太さん(政・メ博士課程)、またSFC卒業生である伊賀聡一郎氏(株式会社リコー)と塚田浩二氏(産業技術総合研究所)の5名。「発想と実装の現場から」というテーマで、インタラクションデザインのアイデアをどこから得るか、またその実現方法についてそれぞれ語った。
 アイデアは実装してはじめて他人に伝わるようになる、といった実装の重要さや、技術力が無い人のユビキタスインタフェース実装を支援をする「日曜ユビキタス」といった概念の紹介、さらに組織内におけるモノづくりや実装などが話題に上がり、「まずは実装ありき」の安村研究室を体現するような内容のセッションとなった。また田中専任講師は、生活や趣味と研究を極力分けない自身のスタイルを紹介し、モノづくりには「誰も見たことが無いものを作ってやる」という気概が必要、と語った。

 23日にはキャラントC1にてセッション「おしゃれ展-私をキレイにするユビキタス-」が行われた。これは、安村研究室が来年2月に開催予定の「おしゃれ展」と連動して行われたセッション。安村通晃環境情報学部教授、山本貴代氏(博報堂生活総合研究所)、児玉哲彦さん(政・メ博士課程)がパネリストとして登壇した。
 
 おしゃれ展は、未来のアパレルショップを体験できるような展示会として来年2月に都内にて開催される。セッションでは、まず安村教授がおしゃれとITの関係についての考察を述べた後、児玉さんが、おしゃれ展の背景である日本のファッションコーディネートの複雑・困難化や、ユーザー中心のサービスを実現するための生活コンピューティング研究について語った。また、山本氏は日本のOL分析を通しておしゃれを語り、日本女性のファッションに対する心理の変遷などが紹介された。
 安村研究室の展示ブースでは、セッションと連動した展示「モノ2.0」や、おしゃれ展のプレ展示も行われ、来場者は様々な展示物を実際に触って体験することが出来た。

● 放送と通信の融合
 22日(金)に行われた「通信と放送の融合をデザインする」では、総務省が進める通信と放送の融合に関する法改正をテーマにしたセッションが行われた。これはSFCと経団連21世紀政策研究所が中心になって行っている国際共同研究プロジェクトの中間報告の一環で、ゲストには通信と放送の融合議論が進む英国と韓国からの有識者が招かれた。
 日本経団連の産業第二本部情報グループ長である上田正尚氏は新法をめぐる動きを「ユーザーの視点にたった枠組みを作っていく良い機会」とする一方で、「誰が規制するのかということがあまり議論されていない。誰でも同じような理解が出来る透明性が求められている」と述べた。またエセックス大学のChristopher T. Marsden氏は「地球規模の規制を作るのは難しいが、コンテンツは既にグローバルになっている」としてグローバルな枠組みの必要性を説いた。
● Digital Art Awards 2007
 23日にはキャラントC3にて、Digital Art Awards 2007の授賞式、及び特別講演が行われた。Degital Art AwardsはSFC研究所による学生デジタルクリエイターのための国際コンペティションで、今回で7回目の開催。
同コンペティションは高校生部門・デジタルシネマ部門・インタラクティブ部門・デジタルミュージック部門の計4部門に分かれ、それぞれ一般公募された作品の中から優秀作品を決めるもの。今年より高校生部門グランプリに輝いた受賞者は、2008年4月入学者対象のSFC両学部AO入試C方式の1次選考が免除される。
 今回グランプリに輝いたのは高校生部門より山本千晶さんの「WIN MIN」、デジタルシネマ部門よりドンスー・シンさんの「Wasabi」、インタラクティブ部門より角田哲也さんの「First Person Space」、デジタルミュージック部門よりマヌエラ・ブラックバーンさんの「Kitchen Alchemy」。これら受賞作は会場ブックカフェに設置してあったプラズマディスプレイで繰り返し上映された。
 また特別講演は「ラップトップ・ミュージックの可能性」と題され、音楽家でRAKASU PROJECT.ととして活躍されている落晃子さんと、サウンドアーティストの有馬純寿さんが登場。ラップトップ型マッキントッシュに内蔵されている光センサーやモーションセンサーを使った、今までのDTMにはなかった新たなラップトップミュージックのあり方を紹介した。