21日(金)10時からは、「世界の新しいパワーバランスと日本の安全保障」をテーマにセッションが行われた。神保謙総合政策学部准教授がモデレーターを務め、外務省顧問かつ慶応義塾大学特別招聘教授である谷内正太郎氏、防衛大学校教授の神谷万丈氏、衆議院議員・民主党副代表の前原誠司氏、参議院議員・前防衛大臣の林芳正氏、阿川尚之総合政策学部教授、東京財団会長である加藤秀樹総合政策学部招聘教授が登壇した。


 阿川総合政策学部長と東京財団会長である加藤氏による挨拶から始まり、続いて谷内氏と神谷氏による15分ずつの基調講演、続いて前原氏と林氏の講演に対するコメントがあり、そのコメントを受けての谷内氏と神谷氏による返答というものだった。

セッション

谷内氏は、アメリカのパワーは侮れるものではないが、世界的に見ると相対的には低下してきているとし、逆にEUが勢力を強めていき、それにブラジルやインドといった近年著しい経済発展を見せている国々も追随していくだろうと述べた。
 
 日本の外交・安全保障政策については、日本はアジアの中でリーダーシップをとるべきだが、それに加えて関係大国との友好な関係づくりが必要であると説明した。また、日本は世界第2位の経済大国としての役割を果たすと同時に、日米安保に対等性・双務性を持たせるようにしていくという「攻めの外交」の必要性も主張した。
 そして、世界を相手にしたマルチな外交と並行して、日中韓や日米豪といった関係諸国とのミニラテラル外交も積極的に進めていくべきであり、日本は世界における自らの座標軸を明確にした上で意見を主張すべきであると述べた。
 それに続き神谷氏は、日本の国益がグローバルに展開している今、外交安保戦略においてグローバルな視野を持たなければ今の豊かさは保てないとし、その際に直面する脅威が多様化していると同時に、平和と軍事力の関係の考え方も変容したと言う。かつては軍事力は戦争を行うためのものであると考えられていたが、近年は世界的に、軍事力は平和を作り出すためのものであるという発想転換が進んでいる。
 そして、経済が弱体化し、同時に少子高齢化という大きな問題を抱える日本が、新たなパワーバランスの中における主軸の国家となり得るのかという問題を提起。これには多層協調的安全保障戦略が必要であり、根本は自助努力であるとしても、同時に国際協力が必要であり、アメリカとの協力やその他の国家との接続が重要であると主張した。
 同時に、防衛省による自衛隊の再編成や装備の改革が必要であり、また現代においてはもはや安全保障は軍事のみに頼ることはできなくなっているので、多面的な安全保障態勢として「オール・ジャパン」的体制の必要性を主張した。
 最後に、「協力というのは一方通行では出来ない。しかし平和のために軍事を使うという流れに取り残され、国際平和活動や非軍事面でも最近はあまり協力できていない日本に他の国々は協力したくなるだろうか。こういう状況でいいのか?」という問いで締めくくった。

セッション

2つの基調講演を受けて前原氏は、世界はドル基軸から地域の通貨基軸に移行しつつあることを示し、日本も現在は麻生首相がドル基軸を進めているが、いずれは独自の通貨基軸が必要だと主張した。
 また、世界的に問題とされている環境やエネルギーに関する問題についても言及し、これらの問題を解決するにはアメリカに依存するだけでは解決することはできない、今後は外交の幅を考えていくことの必要性を示し、その点については神谷氏の多層的な外交関係が重要だという意見と一致すると述べた。
 そして、情報収集や自衛隊の装備を作るための技術はアメリカに依存している現状を指摘し、日本はアメリカに頼り切るのみではなく、アメリカ以外の諸国とも協力していくことが重要だと強調。日本が国際貢献をしていく時に、どのような思想で、どう能動的に国際社会に関わっていくかが重要だと述べた。
 林氏は、麻生首相のドル基軸による経済政策は、ドル権威を暗に示しているという点においては評価していると述べた。そして、民主党政権となったアメリカはアジアとの関係において財政面でさらに影響力を強めていくかもしれない、という可能性を示した上で、その時どうするべきなのかという問題に日本は直面していると主張した。
 
 また、そういう状況を日本は黙って見ているだけでなく、積極的に自国の意見を主張していくべきだとし、さらにはそのような時に積極的に協力したいと思える国に日本はなるべきであり、そのためには環境立国であることを前面に押し出し、日本はいかにして環境と調和しながら発展してきたかを示す必要があるとした。

セッション

そして最後に谷内氏は日本が国家として、世界の頼りになる大国をめざすことと、そのための体制整備の必要性を繰り返し、神谷氏は今の政界には実際に今日のような話を出来る人が少ない、実行力がないという日本の欠点をあげ、日本が自律していくことが大切だとコメントし、この日最初のセッションを終えた。