ORF1日目のメインセッション「e-ケアとソーシャル・キャピタル」では、情報技術と医療の関係を、5名のパネリストが具体的な事例を交えオムニバス形式で紹介。後半ではオンライン・オフラインの今後とe-ケアに対する意見交換が行われた。


■パネリスト
・ Kasisomayajula Viswanath氏(ハーバード公衆衛生大学院准教授)
・ 木下剛氏(シスコシステムズ合同会社専務執行役員テクノロジー担当)
・ 鈴木寛氏(文部科学副大臣 参議院議員)
・ 金子郁容政策メディア研究科教授
・ 竹ノ上ケイ子看護医療学部教授
・司会:太田喜久子看護医療学部教授、宮川祥子看護医療学部准教授
 このセッションは、SFC研究所のヘルスケア・インフォマティクス・リサーチ・ラボが2002年より実施している、e-ケアプロジェクトの集大成として開かれたもの。まずは5名のパネリストが、オムニバス形式で自らの考えや事例紹介を行った。

e-ケアプロジェクトパネリスト

インターネットがもたらしたものとは?

まず始めに、Viswanath氏が「ソーシャル・キャピタルとヘルスケア」に関する講義を担当。アメリカにおける研究成果に触れ、インターネットを利用することで、情報の共有やコミュニティの形成、ソーシャル・キャピタルの増加が図れると主張。だが一方で、情報の多さとアクセスに関する格差を改善するべきだということも述べた。

e-ケアプロジェクトの可能性

続いて竹ノ上氏が「e-ケアプロジェクトの事例とe-ケア型社会の形成」の講義を行った。竹ノ上氏はプロジェクトの中で、流産や死産を体験した人々の相互支援に関する研究を行ってきたという。流産や死産を体験した人々が情報を交換し合い、インターネットを介したケアを通じて体験者と相談者が相互に社会復帰を促進させるコミュニティを紹介。また対面でのケアとネットでのケアを相互補完し、従来の医療現場では難しい、暮らしに根ざしたケアの在り方をe-ケアシステムで補うことができると述べた。その他、様々なインターネットを介した医療に関するプロジェクトを紹介した。

法改革で医療制度を立て直す

鈴木氏は法的なサポート、制度に関しての講義を行った。法制度改革によって、現状の医師不足の改善を図るとともに、現状を乗り切るにはチーム医療とコミュニティ医療の両立が大切だと主張。ソーシャル・キャピタルの促進により医療コストを減少させた例を紹介し、高齢化社会によって崩壊している医療制度を、ソーシャル・キャピタルやe-ケアによって改善していくべきとした。

ICTがソーシャル・キャピタルを育む

木村氏は、ソーシャル・キャピタルを育むためのICTについて講義を行った。高齢化によって医療コストの上昇が予測されることをふまえ、ICTはそのコストや時間の減少に寄与できると述べ、結果、生活の質や幸福度につながるはずだと主張した。

遠隔医療の必要性

金子氏は「遠隔医療のあり方とコミュニティ形成のあり方」を講義。金子氏は奥多摩などの医師不足が深刻な場所で、遠隔医療プロジェクトを展開。医師は東京などの都市部に居たままで、診断はモニターを介して行うというものだ。金子氏は対面医療だけではない新しい医療の必要性を述べた。

オンライン・オフラインの今後とe-ケア

講義後の意見交換では、登壇者に「オンラインとオフライン、それぞれのコミュニケーションをどのように活用していけばより効果的になるのか」という題が提示され、ディスカッションが行われた。
 最初に、竹ノ上氏はオンラインのみのケアに対する危機感を示し、「オンラインだけではそのオンラインを活用している人たちだけがお互いに癒し合うことになってしまう」と主張。また鈴木氏は、要介護者である自分の父を話題に上げ、「人々の中には、オフラインコミュニティを拒絶する人もいる。オンラインのコミュニティにずっと属している人々や、ソーシャル・キャピタルの恩恵を受けられない人々も考慮に入れて、色々な研究が進めばいい」と述べた。
 一方Viswanath氏は「オンラインとオフラインという区別はもはや意味が無い」と主張。木下氏はこの意見に同意し、オンラインかオフラインかは選択できるものとした。「オンラインで自分の診断ができれば、手間やコストの削減ができる。オンラインは信用度が高くなっており、使い分けが大切だ」と述べた。