ORF2日目の24日(火)、セッション「情報社会の近未来ビジョン」が行われた。少子高齢化によって労働人口が減り、社会負担が増えるという暗い未来を連想されがちな日本社会における、未来のITや情報社会についての議論がなされた。


■パネリスト
・濱野智史氏(批評家、株式会社日本技芸リサーチャー)
・村井純環境情報学部長
・新保史生総合政策学部准教授
・田中浩也環境情報学部准教授
・司会:神成淳司環境情報学部専任講師

これからのIT、情報社会

少子高齢化により労働人口が減り、社会負担が増え、団塊ジュニア世代は60歳を過ぎても働かねばならない。日本という国の価値がどんどんなくなっていくと言われている。そんな中、今後10、20年というスパンで、社会というものをどのように作っていくべきか、今後のITの利用価値とはどのようなものなのか、といったテーマでセッションは行われた。

なんでも厳しい世の中に

高齢化社会になると、あらゆることが厳しくなっていく。そう語ったのは自らを悲観論者という新保准教授。少子高齢化社会になることで労働力が減り、納税者の減少は税収の減少につながる。そうして、国を維持することがどんどん難しくなっていく。
 そこで必要なのが徴税率の飛躍的な向上や、社会保障制度の効率的な提供、ワントゥワン徴税等の実現。可能な限り徴税をする枠組みを作っていかなくてはならない。新保准教授は、ITによって「払いたくないけれども払わなくてはならない」ような社会が作られてしまうのではないか、という懸念を示した。

3枚の極論カード

新保准教授に対して、楽観論者的立場から意見を出したのが濱野氏だ。濱野氏は極論とも言える3枚のカードを例示し、それらを使っていこうと提案した。
 最初のカードは政治の未来「民主主義2.0」。ウェブ上に発展してきた新しいコミュニケーション・アーキテクチャを政治プロセス(合意形成・意思決定)の刷新のために用いる、という主張だ。今の政治家は不要で、ヴァーチャルなキャラによる政治でもいいのではないかと濱野氏は述べる。
 次に提示したカードは経済の未来「ニートを増やそう」だ。主力産業を日本型の創造経済にし、ニートにコンテンツを作らせることで産業として成り立たせよう、という提案だ。非日本的ゆえに世界に普及する日本のサブカルチャー、つまりマンガ・アニメ・ゲーム。そしてニコニコ動画的アヴァンギャルド。これらの活用が重要である。
 問題はニートたちをいかに大量に確保するのか、だ。ニートたちを大量に確保するためには、ニートたちの生活を保障しなければならない。そこで、電子マネーで公平かつ公正なベーシックインカムの実現が必要だという。
 最後のカードは人間の未来「ポストヒューマン」だ。少子高齢化が問題視されているが、そもそもバイオテクノロジーやサイボーグ技術で解決してしまえばいい、というものだ。しかしこれには、やりすぎてしまうと「人間の境界が揺らぐ」という問題もある。

歴史は連続的かつ断続的

歴史は連続的かつ断続的だ。そう述べたのは田中准教授。人口が確実に減っていき、2050年頃までに、2回、ターニングポイントのようなものが訪れる。そしてそのターニングポイントに関わりたい、と田中准教授は言う。
 田中准教授がメディアアートを研究しているのは、インターネットの基盤づくりなどといった、エンジニア的に面白い所を年上に持って行かれてしまったため、また違った角度でイノベーションを起こしたいからだという。そしてそのイノベーションとは、3次元プリンタではないかと予想している。3次元プリンタを普及させ、職を引退された方々に高付加なコンテンツを作ってもらう、といった事ができれば面白いのでは、といった考えも示した。

皆さん、素晴らしい考え!

皆さん素晴らしいね。仰る通りだよ、と3人の意見を聞いて発言したのが、村井学部長。これらの話は全部実現可能で、例えば選挙は初音ミクでできる。メッセージを伝えるキャラというのは現時点で既に存在するものだ、と述べた。
 一方で、情報社会において、人間の知能・頭がどこまで辿り着けるのか、といった問いを提起。これについて村井学部長は、人間の知能はネットワークで繋がり、人間がうれしい、おいしいという情報を共有できるようになる、と論じた。

次の世代を信じる

なぜ村井氏は多くの苦労を重ね、インターネットを日本に広め、日本語が使えるようにしたのか。そんな疑問がパネリストから出た。
 村井氏はその疑問に対して「自分では手の届かなかった研究がある。そこで、次にやりたいことがある人がいたらその人の手が届くようにしたかった。そうすることで、次の世代の創造性を助けることができる。情報社会とはまさにその意味を持っており、その創造性をもって旧世代が解決できなかったことを解決してほしい。次の世代を信じて、次の世代のためにやることをやる。そうすれば、何か新しいものが生まれるのだろう。」と回答。
 この言葉に対して、司会の神成専任講師は、そのような相乗効果が生まれることが重要で、それを実行していかなくてはならない、と述べた。
 最後には、新保准教授が「Just do it! Liverty and Justice for all!!」というメッセージを客席に投げかけセッションは終了した。