インタラクティブセッション「世界から孤立する日本-サバイバルへの道」。情報、医療、環境、政治、経済、それぞれの分野で活躍する5人のパネリスト、日本のガラパゴス化を議論。


■パネリスト
・James P. Butler氏(ハーバード大学医学部准教授)
・川本裕子氏(早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授)
・薬師寺泰蔵氏(應義義塾大学名誉教授)
・渡邊頼純総合政策学部教授
・清木康環境情報学部教授
・鎌江伊三夫健康マネジメント研究科教授
※バトラー氏はハーバード大学の研究室から遠隔参加。

日本の「マインドセット」は変えられるか

薬師寺氏は、日本全体の内向き志向を国家の「マインドセット」と指摘。国外に目を向けない姿勢が国全体に染みついてしまっていてると批判した。研究者や学生が積極的に海外に出ていこうとしないせいで発想が硬直化してしまい、それが日本の凋落の原因になっていると述べた。
 薬師寺氏は、その問題解決のために発展途上国との共同研究を推奨。日本は世界有数の支援国家だが、これをただの金銭的支援ではなく「共同研究」に切り替えるべきと主張。発展途上国が日本の技術やノウハウを自国の問題に適用することによって、新たな発見が生まれる。そしてその発見を日本の研究に生かすという循環を作り出そうというアイディアだ。韓国など、この方法によってすでに大きな効果を上げている国家もあり、日本でも導入すべきと説いた。

縮小する経済と海外を目指す日本企業

次に国際経済の専門家川本氏が日本経済の現状を「資金は流入しない、企業は流出する、しかし日本人は外に出ない」と表現。その中で、日本人が海外に出ない理由として日本企業のグローバル人材を評価しない仕組みを挙げた。日本企業はいままで語学力や海外経験を考慮した人事評価を下してこなかった。日本のガラパゴス化を食い止めるためには企業の人事制度を改革する必要があると川本氏は述べた。
 

国際協定でも出遅れる日本

SFCで国際問題に関する研究を行っている渡邊教授は、アジア諸国に対しても貿易協定の締結に向けた交渉で遅れを取っている日本の現状を鑑み、日本は農業を開放するべきだと強く訴えた。貿易協定を締結する際の障壁と言われるのが日本の農業政策であるが、日本よりもセンシティブな農業問題を抱えていながらも、EUとのFTA正式署名に至るなど積極的に通商戦略を展開している韓国の事例を引き合いに出した。日本が国際通商のなかで孤立しないためには、今よりも積極的な通商戦略を展開すべきだという立場を終始貫いた。

情報技術開発で、世界との連携を

清木教授は、日本独自の技術や研究が国内で成功しても海外で失敗してしまうのはなぜかをテーマに、ICT分野での日本のサバイバルをガバナンスの面から解説。
 ガバナンス面では2つの問題点を指摘。一つは、理念を持って事業を始めてもすぐにその理念が形骸化してしまう点。もう一つは、教育の国際化の遅れ。ICTの分野で海外で成功するためには国内向けの規格を海外で普及させようとするのではなく、事業開始時から国際的な連携や共同開発を見据え、そのための語学能力などの国際適応力を鍛えなければならないと説いた。

バランスに関する4つの問題

最後に、バトラー氏が日本が抱える4つの具体的な「バランス」に関係した問題を指摘した。1点目は、日本から留学していく人数と日本に留学してくる人数のバランス。2点目は、研究者、特に医学者にとっての診療と研究のバランス。日本では診療に充てる時間が長く、逆に研究に割ける時間は短いため、医療技術の分野でも世界との差が開いてしまう。3点目はサラリーマンのワークライフバランス。4点目は、日本の英語教育における座学とコミュニケーションのバランスの問題だ。翻訳中心の英語教育では使える英語は身につかないとバトラー氏は主張した。

セッション全体を通して見えてきた、日本の問題点

今回のセッションでは、5つの視点から日本の地盤沈下に関する分析が行われたが、そのほとんどで指摘されたのが日本の内向き化である。日本人の留学生は学生・研究者ともに減少傾向にあり、また国家全体としては新しい貿易協定の締結にも消極的であるなど、内向きな姿勢が強く感じられる。そういった態度が日本の硬直化を生み、衰退の原因になっているというのが、会場全体のコンセンサスのように思えた。
 このような意見は、日ごろからメディアなどで良く聞くことができる。日本はすでに世界有数の経済大国になり、戦後の高度成長期のようなハングリー精神はもうないだろう。自らが恵まれた国になったため海外に目を向ける必要がなくなったのかもしれないが、そういった態度が日本の地盤沈下の原因になっているという1面は確かにあるようだ。