インタラクティブセッション「『地域メディア』としての大学」には、加藤文俊環境情報学部教授を中心に4人のパネリストが集まった。それぞれ違った立場から、大学が地域に対してどのような役割を持っているのか、大学をメディアとしてとらえた時にどのような特徴があるのかなどについて語った。


■パネリスト
・相原憲一氏(静岡大学大学院教授)
・馬渡一浩氏(一般社団法人DSIA/早稲田大学大学院非常勤講師/文京学院大学非常勤講師)
・加藤文俊環境情報学部教授
・松家仁之総合政策学部特別招聘教授

人と人との仲立ちという大学の役割

馬渡一浩氏

馬渡氏は、まず地域のメディアの役割を、地域の価値を高めることだと定義。地域にある人のつながりという財産を、メディアがその人々の仲立ちをすることによって高めていくことができる、と主張した。
 ここで馬渡氏は、仲立ちの役割をするものの中で、大学は非常に優れていると提言。その根拠として、大学が多種多様な研究を扱っていて、たくさんの人の興味を集められるという点、その地域におけるシンボルという役割を担っている点、毎年若い新入生が入り、人を集める機能を持っている点の3点をあげた。
 具体的な大学の地域貢献の形として、「コペルニク」というサイトを例に挙げた。このサイトでは「発展途上国の市民団体」と「テクノロジーを持つ会社や大学」と「一般個人」の三者をオンラインでつなぐ仕組みを提供しており、それぞれあるプロジェクトに対して寄付、製品情報の提供、進捗レポートなどを行うことができる。
 この仕組みにヒントを得て、地域の中での興味や需要のマッチングをするモデルを提案した。メディアとしての新聞が人と人とを繋げる力、情報編集力、情報発信力をフルに使いつながりのきっかけを作る。その後大学が受け皿となってそのつながりを研究に発展させ、イノベーションを起こす。さらに新聞が成果を地域に浸透させていく、というモデルである。大学が地域というモノを軸に様々な意味の文脈を融合させていくことで、地域と大学両方にメリットがあるのではないかとまとめた。

知恵の源泉、スピルオーバー

相原憲一

相原氏は、社会人に対して授業を行う大学院で教員をしており、大学院には地域の知恵を創出する源泉としての役割があると解説。そのためには、情報や知識が広まっていく仕組みを作る、橋渡し役の存在が欠かせないとした。
 現在のところ大学からの知識の広まりは、ネットワークの普及で量の点では足りているが、そこから信頼関係や恊働につなげていくという質の点で足りないのではないかと疑問視。最終的に恊働が活発になることで共感が生まれ、信頼し合い価値創造をする恊創という段階まで行かなければ、地域貢献とは言えないと主張。また大学が情報を伝えることしかしない、情報を集めて論文にするだけの学術偏向だと批判した。

大学は暖炉のように

松家仁之教授

新潮社で編集長としても活躍した松家教授は「大学と『暖炉の火』」という題を掲げた。暖炉の火をよく燃やすためには、ほどよい暖炉の広さと、組み木の組み方が重要だという。暖炉の広さは、広すぎると空気の循環が緩慢になってしまい、組み木も、木と木の間隔を多くとり過ぎてしまうよりは、わずかにだけ間を空けておく方が空気の流れがよくなり燃えやすいという。
 大学も4月にたくさんの人が入ってきては、4年であっという間に出て行ってしまう。この様子を暖炉の中での空気の入れかわりに重ねた。
 そうした時間的な意味でも、空間的な意味でも、同年代の学生ばかりが集まっているという点でも、大学は限定的な場所だと言える。この点から、メディアとしての大学について考えたとき、マスメディアの真似をしてもしょうがないのでは、と松家教授は主張した。

大学としての地域、地域の面白いことを伝える

加藤文俊教授

加藤教授はSFCの情報リテラシーやプレゼンテーション能力という特徴について触れた後、大学の教員は地域に対して何ができるかという話題に移った。
 プロバノという、弁護士が休日に無償で法律相談などを行う活動がある。加藤教授は、こうしたものを大学の教員がやるとしたらどんなものだろう、と考えたという。プロバノが普及した要因には、仕事とは違う面白いことに参加できるという魅力がある。
 そうした点をふまえて加藤教授が現在取り組んでいるのが墨東大学というプロジェクトだ。これは大学と地域をつなげるというよりは、地域を大学というメタファーでとらえ、地域から学ぼうというプロジェクトであり、メディアとして地域を伝える役割を果たしているともいえる。
 セッション終了後、松家教授に感想を伺ったところ、「大学という場所に関わっている人たちが、地域という話題に関心を持っているということが改めて分かった。今後、面白くなりそうだと思う。」とのコメントを頂いた。