安村通晃環境情報学部教授主催のトークセッション「旅とインタラクション~路上観察学からの旅の発見」が23日(火)、ORF2日目に行われた。今夏開催された安村研究会の展示会テーマ「旅とインタラクション」に関連して、「旅」と「路上観察学」を主軸に置いたトークが繰り広げられた。


■パネリスト
・松田哲夫元筑摩書房編集長
・安村道晃環境情報学部教授
 ゲストの松田哲夫氏は、前・筑摩書房取締役で現在同社の顧問を務める。テレビ番組「王様のブランチ」の本の紹介コーナーでコメンテーターとしても出演されている。
 「路上観察学からの旅の発見」というテーマに沿い、安村教授が「旅」の歴史などを語った後、トークが始まった。

「路上観察学」とは、全国各地、世界各地の街中でカメラを片手に、気になるもの、面白いものを発見・記録する活動。セッションでは「路上観察学」の説明として、「ROJO」と題したムービーの一部が上映された。さまざまな模様のマンホール、αの形をした木、途中で途切れた階段、半分に切られてしまったかのような家。全国各地の面白い風景を写した様子が、路上観察学会メンバーの会話とともに流れると、場内は笑いに包まれた。
 松田氏と同じく路上観察学会の中心人物であった作家・赤瀬川原平は、路上でふと見つけた、全く意味は無さそうだが面白い風景="無用だが美しいもの"、を「超芸術トマソン」と名付けたという。松田氏は「路上観察学は、見方によってはくだらないものだが、よそから来た"異人"として各地を訪ね、その土地の人には当たり前に見えている変わった所や趣を発見し、切り取るという意味がある」と語った。また、見つけた風景に対して想像力を膨らませ、なぜそのような風景が生まれたのか言葉で解釈したり、何かに見立てたり、名前を付けたりすることも面白い、と語った。

安村教授は「安村研究会でも、それぞれの学生が"観察"から研究を始めており、人が無意識に行っている行為から着想し、インタラクションデザインを行っている」と語った。
 「路上観察」と「旅」には、ふとした出会いがある。研究活動の過程にも、旅に似た出会いがあるといえるだろう。フィールドワークで偶然、変なものや気になるものに出会い、そこから着想すること。すなわち、「フィールドをベースとしてものを考えはじめる」ことの大切さを改めて感じさせられた。

近年急激に広まっている「電子書籍」の是非についても話が及んだ。編集者としての立場から、松田氏は電子書籍に対して、少し否定的。一方安村教授はインタラクションデザインの一線に立つ身として、電子化は避けられないという見方。明確な結論にたどりつくことは難しく、議論はセッション終了時間間近まで続いた。
 松田氏は「IT技術が進歩し、動かずとも色々なことの疑似体験ができてしまう中、生の空間に出ていき、触れていくことの面白さを忘れないでほしい」というメッセージを参加者に送った。

小さな部屋で、終始和やかな雰囲気だったトークセッション。遊びとしてだけではない「旅」の意義について考えさせられる1時間半であった。