3月11日の震災を受けて、SFCに立ち上がった「気仙沼復興プロジェクト」。ORFでも注目のブースの1つとなった。今回、気仙沼復興プロジェクトのブースで、緒方伊久磨さん(政・メ)と酒井麻里さん(環3)にお話を伺った。

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様々な分野の研究会が協力する気仙沼復興プロジェクト

気仙沼復興プロジェクト開始のきっかけは、宮城県気仙沼市出身のSFC生、清水健佑さん(環3)の実家が3月11日の東日本大震災で被災したことだった。清水さんの所属する一ノ瀬友博研究会を中心に4つの研究会、教員・学生合わせて約100人が集まり、気仙沼を復興するための活動を開始した。
 気仙沼復興プロジェクトは7つの班からなる。一ノ瀬友博研究会のざんぞかだり班、情報発信班、産業班、厳網林研究会の高台移転班とGIS班、中島直人研究会の歴史・文化班と池田靖史研究会の建築班という構成。それぞれの研究会が得意分野を生かした活動を行なっている。こうして全く違う分野の研究会が協力して、1つのことに取り組めるのはSFCの大きな強みと言えるだろう。
 今回は主に情報発信班とざんぞかだり班についてお話を伺った。

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フェーズと共に変わるニーズに対応、情報発信班

・酒井麻里さん(環3)

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情報発信班は震災の直後、2つの力が必要だと考えました。ひとつは被災者が何を求めているか情報発信してもらう「情報発信力」、もうひとつは被災者が逆に現状把握のために情報を受け取る「情報受信力」です。そして情報を受け渡す手段として震災直後に活躍したTwitterやFacebookに注目しました。
 もちろん被災地には高齢者が多く、Twitterなどを使える人は多くありません。そのためまずはサービス自体を知ってもらい、使いこなせるようになるために、6月と8月に2回のTwitter講習会を開催しました。参加者は高齢者の方が多く、電子機器への親しみも少ないため、理解して頂くのに時間がかかりました。ですが、みなさんやる気がすごく高く、粘り強く習得しようとしてくれたので教えているこちらとしてもやりやすかったです。Twitterを使えるようになっていただき、被災者の方々が現地の情報をより多く発信できるようになったと考えています。

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しかし、最近になってニーズが変わってきました。今までのニーズ、情報を発信したり受信したりすることも引き続き重要なのですが、それはある程度達成されたと考えられます。代わりに出現したのが、地域のコミュニティを切らない、というニーズです。もともと若者が出て行ってしまう過疎地区だった上に、震災を機に、更に他地区や他県へと転出された方もいるというのが現状です。そのような状況であっても人間関係を切らないようにしたい、という思いがあります。そのために考えたのはFacebookのようなSNSの地域版です。SNSなら実際に地域にいなくても地域のコミュニティの中へ入っていくことができます。現在はこの地域SNSを具現化すべく動いています。また、きっとこれからも復興のフェーズに合わせてニーズも変わってくるかと思います。2ヶ月に1回は気仙沼に足を運び、現地の人達の意見を吸い上げるのを忘れないようにしたいと思います。

気仙沼の井戸端会議「ざんぞかだり」、ざんぞかだり班

・緒方伊久磨さん(政・メ)

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「ざんぞがたり」という言葉にはあまり馴染みが無いかと思いますが、気仙沼あたりの方言で「井戸端会議」という意味を持っています。私たちはまちづくりのための意見を集める場を作り、会議を開いています。日本のまちづくりはそこに住む人、つまり住民票がそこにある人のみの意見でなされています。しかし、気仙沼はそうはいかないのではないでしょうか。情報発信班も言っているように、過疎化と震災が相まって出ていった若い人も多い。ただ、お墓や実家はこちらにあって、正月には地元に帰ってくるよ、という人もいます。この人達をまちづくりの考慮に入れなくて良いのかという意識がありました。
 町にいなくてもその地域のコミュニティに入っていくということをしてもらうにはSNSが非常に便利です。私たちはFacebookを利用して、「3.11から気仙沼をデザインする」というコミュニティを作りました。ここに気仙沼出身の方を招待し、気仙沼の未来について語ってもらう、ということをしています。現在の参加者は660名ほどです。ただし、顔を合わせない議論は意見が飛躍しやすく、現実と若干の乖離が見られる議論になってしまうと考えました。そこで実際にFacebookの議論に参加してくださっている方に集まっていただき、顔を合せて話をしてもらおう機会を設けました。これが私たちが「ざんぞかだり」と呼んでいる復興まちづくりワークショップです。

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「ざんぞかだり」は7月に東京で開催しました。東京やその周辺に住んでいる方を中心に約30名の方が集まって下さいました。東京で開くことで気仙沼から今は離れてしまっている方の意見も聞くことができました。その後気仙沼でもワークショップを行い、逆に現地に居る方の意見も聞くこともしています。これからも定期的に、気仙沼と関東圏の双方で「ざんぞかだり」を開催する予定です。
 このプロジェクトにはまちづくりを専門とする研究会、先生や学生も参加しています。まちづくりはきっと彼らがうまくやってくれると信じています。だから私たちざんぞかだり斑はこれからも対話という視点でまちづくりとは別にコミュニティの形成をやっていきたいと考えています。

「震災」という途方も無い壁を前に

「現地に行くと本当に頑張らなくてはと思えるんです」と語る彼らの言葉に嘘や虚勢は感じられなかった。現実の問題と向き合う実学を体現するSFCの前にいきなりそびえ立った震災という途方も無い壁。しかしながら彼らのようにひたむきに自分の学んできたこと、できることを一歩づつやろうとする意思こそ、その壁を打ち破るのではないだろうか。被災者と共にできることを頑張っていますと2日間ORFで説明を続けた「気仙沼復興プロジェクト」ブースは一段と輝いて見えた。