7日(土)、第23回七夕祭にて「激論マイナンバー 古川元久国家戦略担当大臣とSFC学生との『社会保障・税に関わる番号制度(マイナンバー)』トークセッション」が開催された。

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 講演に先立ち、國領二郎総合政策学部長による主催者挨拶が行われた。國領学部長は「非常に大きなメリットがある制度だが、考えるべきこともたくさんある。SFCは技術と政策を一体にして考えるので、社会のことを理解して社会に技術を取り組むことを得意とする。この重要な局面で我々が動いていくのだ、という思いで是非議論に参加して欲しい」と述べた。続いて古川元久国家戦略担当大臣(以下、古川大臣)が登壇した。



 マイナンバー制度は、国民にマイナンバーを割り振り、これまで制度毎に管理されてきた個人の情報をまとめて利用できるようにする制度だ。法案が成立すれば、2014年秋にマイナンバーと法人番号を割り振り、2015年1月からの利用開始を予定している。

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 国家が国民を管理するための制度ではないか、という意見がよく聞かれるが、そうでないと古川大臣は言う。行政に存在する自分の情報にアクセスしてチェックできる、国民のための制度であると考えて欲しいと述べた。



 番号制度の仕組みは、付番、情報連携、本人確認で成り立っているという。個人や法人、日本に在住の外国人等に唯一無二の番号をつけ、住所情報、税金、年金といった情報を連携させていく。同時に、本人を確認するために写真入りのカードを配布するという。また、マイナンバー制度は安全安心に使えることが大前提であり、その為の制度、システム設計を現在進めているという。



 今後は、現在提出している番号制度に関する法案の成立を目指すという。現在様々な議論が行われているが、与野党問わず番号制度の必要性は認識されているようだ。また、今後医療や介護といった分野の機微な情報を取り扱う可能性も考え、厚生労働省などの省庁と議論を重ね、特別法を提出する予定だ。



 最後に古川大臣は、政府や行政機関と国民との関係を変えたいと述べた。全ての情報を行政機関に任せている現在の状態を、番号制度を導入することで自分の情報がどのように扱われているのかを確認できる新しい関係を作っていきたいと述べた。また、この制度を作る中で税や社会保障の制度のあり方を、ぜひSFC生のような若い人にも考えてもらいたいと述べ、講演を終えた。



続いて、SFC生5人と、会場からの古川大臣への質疑応答が行われた。



■登壇者

・古川元久国家戦略担当大臣

・SFC学生



■コメンテーター

・阿川尚之慶應義塾常任理事

・國領二郎総合政策学部長

・村井純環境情報学部長

・徳田英幸政策・メディア研究科委員長

・金子郁容SFC研究所所長

・神成淳司環境情報学部准教授兼医学部准教授



司会: 新保史生総合政策学部准教授



最初に、学生から古川大臣への質問が行われた。

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Q.マイナンバー導入で一番変えていきたいことはなんですか?



 まず、国民の皆様と行政機関との関係を変えたいと考えています。今までは全てを行政任せにしてきたので、行政機関がどのような情報を持っているのかわからなかったの、もし問題が発生したら行政機関にお叱りを入れるという関係でした。マイナンバーが導入されれば、マイナンバーで紐付けされている情報を自分でチェックすることができます。何か間違いが発生していれば、把握することができます。

 ただ、行政機関で利用されている自分の情報を自分でチェックできるため、これからは行政機関に関心を持って接していく必要が出ると思います。社会と政府との関係性がこれまでと変わっていくということを期待しています。


Q.マイナンバーという名前の由来は何でしょうか?



 マイナンバーという名前は公募した中から決定しました。800件程の応募があり、その中から有識者の方々で、制度の名前にふさわしいものを検討しました。マイナンバー制度は、行政機関が国民を管理するための制度ではなく、あくまで国民が中心で、自分の情報をチェック、コントロールすることができるという制度です。様々な候補がありましたが、そのような思いがあったので、マイナンバーという名前が選ばれました。


Q.マイナンバー制度に反対する人は確実にいると思います。そのような中、制度を考案、審議していくことにどう思いますか?



 マイナンバー制度を理解してもらうためには地道に説明していく必要があります。この制度は既に所有している番号の中で、社会保障、税、防災に限って番号を連携させて利用していこうというもの。突然番号を割り振られるのではなく、既に別々で管理されている番号を連携していくという話です。また、これらの番号に紐付けされる情報は自分でチェックできます。自分でチェックして、勝手なことをされないようにするのが、この制度の目的です。

 反対する意見の中には、情報漏洩を危惧する話もあります。そういったことに対する罰則やシステム構築は、神成准教授の協力を得ながらしっかりとやっていきます。


Q.情報漏洩の罰則は、現在のものよりは厳しくなっていますが、情報に罰金以上の価値をつけられてしまうと、売買に加担する人も出てくるのでは?



 懲役刑になったことがないから分かりませんが、4年間の懲役は大変だと思います。また、仮に売買をして儲けがあった場合、犯罪収益という扱いになって売買利益は全て徴収されてしまいます。見つかった場合には、罰金や懲役のみならず、犯罪収益を払えということになります。そこまでのリスクをもって売買に加担する人はあまりいないのではないでしょうか。


Q.マイナンバーに似たようなもので、住基ネットがあります。住基ネットはあまり使われていない印象ですが、そのような状態でマイナンバーを作って使われますか?



 住基ネットの場合は、名前と性別、住所といった情報を扱います。しかしマイナンバーは、社会保障、税、防災という情報を紐付けしています。社会保障制度と密接に関わってくる番号なので、住基番号とは根本的に違うと考えています。デメリットも考えられていますが、様々なメリットも生じると考えています。

 ある自民党の方は、社会保障制度を変えるため、カフェテリア方式というものを提案しています。カフェテリアで自分の食べるものを自由に選ぶように、あなたはこれだけの金額の社会保障を使えるのでお好みに選んでください、とする方式です。マイナンバーを導入すれば、そういった自由に選択できる方式も包括することができます。


Q.ICチップ付きのマイナンバーカードを配布するということでしたが、費用対効果はどうなりますか。また、今後インフラの革新が起きたらどうするのですか?



 コストはかかると思いますが、それに応じたメリットも大きなものになると考えています。行政機関が利用するITシステムも日々更新を行なっています。ただ、従来は番号ごとにシステムが違い、二重三重の投資となっていました。

 マイナンバーを導入し情報が連携すれば、行政機関の効率化、人員の省力化につながり、コストの削減が可能と考えています。省力化で、更新も容易になります。配布や新制度導入にコストが掛かることは間違いないですが、同時にコスト削減が可能です。

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Q.古川大臣にとってのマイナンバーは、どのようなものでしょうか?



 社会保障は、国家の安全保障と並んで非常に重要かつ大事なものと考えています。社会保障が安心安全であることが、国民の皆様の生活の安心安全へとつながります。そうした安心できる生活が、大きく変化する今の時代の中で新しいことにチャレンジできる環境を整えることにもつながります。

 今の日本に必要なのは、新しい産業や企業が生まれるということです。そのため、最低限のセーフティネットを整備し、安心してチャレンジできるようにしたいのです。その為に、私は社会保障の問題に取り組んできました。そして、新しい制度のためには、マイナンバーが非常に重要です。マイナンバー制度で、これまでの社会保障制度では出来なかったこともできるようになります。



 続いて、会場からの質疑応答に移った。ここでは、古川大臣のみならず、神成准教授や新保准教授による回答も行われた。


Q.内部的な脅威、例えばシステムがダウンした時などには、責任は誰が取るのですか? また、どうするのですか?



神成准教授の回答:

 ハードの欠陥についてももちろん考えています。内部の人員が危険な行為を行うといったことについても、制度やシステム面で対応するつもりです。誰が責任をとるのかといったことは検討中でここでお話することではないと考えてますが、脅威に対処することは、我々は非常に重視しています。また、バックアップについてはよく考えられていますが、その復元についてはどうするのかという話もあります。その点は現在もしっかり議論を重ねています。



新保准教授の回答:

 制度の面では、事前と事後で様々な対策を重ねています。事前では特定個人情報保護評価、プライバシー影響評価を行います。これは、他の分野で環境アセスメントと呼ばれているものです。事後の対策では、個人番号情報保護委員会という第三者機関を設置します。これは、公正取引委員会や国家公安委員会の様な強力な機関になります。また、そもそも何か悪いことをした人は、その人自身に責任をとってもらいます。


Q.マイポータルの認証はどのようなものにするのですか? IDとパスワードでは、意図せず漏洩してしまう場合があるのではないですか?



神成准教授の回答:

 認証については複数の手段を考えています。ただセキュリティを高めると、並行して使いにくくなるのではないかという話もあるので、その点は議論を重ねていきたいです。その他マイポータルへのアクセス方法などを含め、どのような認証や制限を行うかは検討中。ただ、アクセスした場合には必ずアクセスログが残るようにします。IDとパスワードのみ、ということはないです。



会場からの質問は2つで終了した。そして、徳田委員長による質問が行われた。


Q.様々なデータがマイナンバー制度に紐付けされるが、そのデータのオープンデータ化が進めば、新しい産業の創出につながるのでは?



 マイナンバーの範囲を拡大すると利便性は向上しますが、一方で情報漏洩のリスクも高まります。特に、医療情報などの機微性が高い情報は保護する必要があります。現在考えているマイナンバーと連携する情報は、所得情報に関すること。所得情報を把握することで、様々な負担や給付を公平公正にすることができます。オープンデータ化というわけではありませんが、所得情報をきっかけに、今後制度の信頼と安全性を確保して、情報の範囲を広げていくのが好ましいです。



続いて金子所長が、医療方面から制度設計に関わっているということで、今後の活動に対する古川大臣へのアドバイスを行った。


金子所長のアドバイス



 マイナンバーについては、税金や社会保障より、医療関連について話したほうがより身近に感じると思います。若い人でも病気になって医療のお世話になります。自分の医療の情報がどのようになるのか、お話すべきだと思います。

 また、今医療情報の管理について非常に厳しい議論を重ねています。そんな中でも制度制定につなげるためには、国民の皆様がこの制度に関心を持つことが重要です。ぜひ、古川大臣には、今後身近な医療の情報についてもアピールを重ねていただきたいです。



金子所長のコメントの後、古川大臣は退室した。会場からは、惜しみない拍手が起こった。そして、最後に村井学部長からのコメントが行われた。


村井学部長のコメント



 マイナンバー制度のような重要な議案は、SFCは非常に得意な分野だ。加藤寛慶應義塾大学名誉教授がSFCの学部長だったころ、消費税に関する議論を学生と行ないました。そういった、未来を作っていくことがこのキャンパスの得意分野です。今日議論したことが、5年10年たってこの会場にいる人達の将来を作っていくことになります。

 また、このキャンパス出身者は世界で活躍している人が多いです。日本にある個人の情報を、世界で活躍している時にどのようにアクセスするのかを今後ぜひ議論したいです。世界で安心して活躍できる日本人の基盤となります。そういう意味でもマイナンバーは非常に重要なのです。今回、この貴重なタイミングの議論をすることができたことはとても嬉しいことです。古川大臣並びに会場の皆様、そして企画をして下さった新保准教授にはお礼を申し上げたいです。