12日(水)、幕張メッセにて、インターネットとデジタルメディアの専門イベント、INTEROPが開催され、World Wide Web Consortium(以下W3C)の創設者であるティム・バーナーズ=リー氏(以下ティム氏)と村井純環境情報学部長(以下村井学部長)による基調講演が行われた。


 講演は、ティム氏と村井学部長の対談形式で行われ、両者がHTML5やWEBの展望を語り合った。

 ティム氏は、World Wide Web(WWW)を考案した開発者である。今では当たり前に使用されている、複数の文書を相互に関連付けるハイパーテキストシステムを実装・開発した人物である。

 講演は、ティム氏の独演によるWEB黎明期のエピソード、および現在の自身の取り組みに関する話で幕を開けた。


ティム氏、村井学部長1




「World Wide Webが世界を変える」WEB誕生から、現在までの取り組み


 1989年当時、ティム氏はCERNという研究所に在籍していた。そこでNeXT Computerというマシンを使い、Interface BuilderというアプリケーションとObjective Cを用いて、WEBブラウザ “WorldWideWeb”を開発。このブラウザには、「世界を変える力があった」とのこと。
 その後、WEBの可能性についてよりアカデミックな視点から研究をするため、CERNからマサチューセッツ工科大学(MIT)に移籍し、1994年にW3Cを創設。現在W3CではHTML5を含むOpen Web Platformの策定作業に取り組んでいる。1996年には慶應義塾大学がW3Cのホストに加わり、SFCでW3Cの運営が始まった。
 HTML5では、HTMLはただのWEB上に置かれた文書ではなくなり、プログラマブルになる。HTML5やその周辺技術によって、「WEB自体が従来型のネイティブアプリ(端末内部の処理装置で演算処理を行うアプリ)と同じ役割を担うようになる」と語る。
 また、オープンデータについて、「より多くの人に積極的に携わって欲しい」と語った。オープンデータとは、様々なデータをネットワークプラットフォーム上で利用可能にする情報公開の取り組みのことで、現在アメリカをはじめとする多くの国や都市が参画している。ティム氏は、「それぞれのデータはより国際的に、多くの人間からアクセス出来るようにしていかなければならない」と熱く語った。

インターネット界の二大巨頭が描く将来のWEBの形


ネイティブアプリとWEBアプリについて


村井学部長「現在、スマートフォンが巷にあふれ、多くのアプリがApp Storeを通じてネイティブアプリの形で販売されている。WEBアプリよりもむしろネイティブアプリを好む開発者もいるが、その点についてどう考えるか」

ティム氏「たしかに、特段に重い処理を行う必要がある場合、現状ではネイティブアプリに軍配が上がるだろう。しかし、そこを差し引いたとしても、ユーザー及び開発者の両者にとって、WEBアプリケーションのメリットは大きい。ユーザーから見れば、アプリをいちいちダウンロードする必要は無くなり、また開発段階でデバイスの差異を考える必要も無くなるのだ」

ティム氏「今後、HTMLを発展させていく中で、より多くのことが可能になるだろう。スマートフォンからPCまで、どんな環境でも動くというのは、WEBアプリの揺るぎない強みだと思う」

オープンデータについて


村井学部長「日本は政府の持っている情報をオープンデータとして公開するという取り組みについて、現在急ピッチで作業を進めてはいるが、かなり遅れていると思う。ところで、オープンデータの取り組みは、今後どのように進めていくべきか」

ティム氏「まず、公開への懸念の少ないデータはすぐに公開し、残りを段階的に公開することが大切。懸念の多い、個人情報を含むデータは、プライバシーに考慮して公開すべきだ。一方で、為替の動きや、国や都市の人口統計等のマクロデータは特に積極的に公開するべきではないか」

村井学部長「それは非常に良い考えだ。出来ることはすぐやって、二次利用が可能な形式や、より二次利用しやすいデータの公開に向けて、段階ごとに進めるべきだ。実際、日本が大きな地震と津波に見舞われた際、公開データの重要性が改めて認識された。被害状況や、原発事故の状況などの正確なデータを、誰でもすぐに入手できるというのはとても重要なことだ」

ティム氏、村井学部長2



インターネットの今後の発展について


村井学部長「最後に、日本をはじめとする中国・韓国などのアジアの国々が、インターネットの発展において貢献できることは何か」

ティム氏「それぞれの国や文化圏を尊重し、WEBサイトへのアクセスを確保することだ。例えば、アメリカでは問題の無い表現でも、日本やその他の国では法律上、倫理上の問題になることもある。同様に、言語も重要な論点だ。異なる言語や方言で人々はコミュニケーションを取っている。それによって、それぞれのコミュニティに独特の文化が保たれているという面は大きい」

ティム氏「グローバル化の波は止まることを知らない。ただし、その一方でインターネットの世界に文化的多様性を確保することも極めて重要である。自らの責任で、母国語、自国の文化を世界に向けて発信していくべきだ」

 インターネット・WWWの発展に大きく貢献した2人が顔を揃えた今回の対談。約40分という短い時間だったが、非常に熱い議論が交わされた。WWWをはじめとしたインターネットの仕組みは、いまや私たちの生活に欠かすことの出来ない存在である。この巨大なインフラが、今後も進化を続けていくことを、2人は力強く印象づけた。