「創のbazaar」をテーマとして開催されている今年のORF。Aエリアでは、『高信頼情報社会 -ユビキタス・インフラ・通信・技術-』をテーマにして、ブース発表が行われている。


 SFC CLIPでは今回、SFCの情報系研究会が集まるAエリアのなかから、徳田・高汐・中澤研究会(以下、徳田研)のブース発表を取材した。徳田研では、徳田英幸政策・メディア研究科委員長兼環境情報学部教授(以下、徳田教授)、高汐一紀環境情報学部准教授、中澤仁環境情報学部准教授が合同で研究活動を行っている。

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いつでも好きな香りを呼び出せるFRAGWRAP

 今回お話を伺った中澤准教授の一押しとも言えるプロジェクトが、「FRAGWRAP: 香りとイメージの物的マッピングシステム」だ。
 これは、薔薇やオレンジなどの好きな香りを音声で伝えると、その香りが注入されたシャボン玉が作られ、割れたときに香水のような感覚で匂いをつけられる、というアロマテラピーシステムだ。風や電気を用いてシャボン玉を好きな位置に誘導出来るほか、シャボン玉にインタラクティブなアニメーションを映し出すことも出来る。香りをシャボン玉に閉じ込めて飛ばす、今までなかった斬新なシステムだ。
 展示担当の興野悠太郎さん(政メ2)は、「これからはウェアラブルな時代だと思い、ORFではウェアラブル型のFRAGWRAPのデモもしています。帽子型のデバイスに脳波を送るとシステムが起動して、どこでも好きな香りを呼び出すことが出来ます。来場者の方々にも、ぜひこの帽子をかぶって体験してもらい、テンションをあげてもらえたら、と思っています」と語る。

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永久に空を飛び回ることが出来るEverCopter

 徳田研ではFRAGWRAPのほかにも、「永遠の命を得た空中飛遊物体たち」をテーマとしたEverCopterを展示している。
 「従来のラジコンヘリコプターは10-15分飛ぶと落ちてしまうんですが、EverCopterは電源ケーブルをつないだままiPhoneで操作して飛行させることで、永続的に飛ばすことができます。もちろんケーブルから切り離して普通の飛行もできるし、再充電も出来ます。EverCopterにはカメラ・温度センサー・気圧センサー・GPSなどの色々なセンサーを取り付けて、好きな機能を追加できるんです」と興野さん。
 近い将来、1日限りのイベントなどで、防犯カメラを複数台設置しなくても、カメラを搭載したEverCopterを空に飛ばすだけで、監視ができるようになるかもしれないという。「もともとは、研究室からサブウェイまで飛ばして、サンドイッチを買って帰ってくるようなラジコンヘリコプターを考えていたんです」と話す興野さんは、とても楽しそうだ。

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街中から情報をセンシングするCloud of Things基盤技術

 徳田研ではさらに、スマートシティを実現するための「ClouT(Cloud of Things)」プロジェクトが動いている。社会から色々なものをセンシングして情報を集め、それをサービスとして人にフィードバックしよう、というものだ。
 担当する米澤拓郎さん(政策・メディア研究科特任助教)は、「日本の藤沢市と三鷹市、スペインのサンタンデール、そしてイタリアのジェノバという都市で、IT関連の共同研究をしています。サンタンデールという街には2万個ものセンサーが張り巡らされていて、どこの駐車場が空いているのか、など様々な情報をリアルタイムで知ることができるんです。その情報を集めて、何かしらのサービスが提供できないか、と考えています」と話す。
 街のなかのセンサーだけではなく、TwitterなどのSNS内に集まる情報をセンサーとして使うことによっても、都市で起きていることについての情報を取得出来るという。例えば、リアルタイムで悪天候に関するツイートと位置情報を取得することで、ゲリラ豪雨の進行方向がわかる。機械だけではなく、人までもがセンサーになるのだ。

 徳田研ではこれらのほかにも、「サイバー空間と実世界情報の連携技術」、「ユーザセントリックな次世代ライフログプラットフォーム」、「参加型センシングにおけるプライバシ保護技術」、「適応的参加型センシング – “そこのあなただから分かるはず。” 人間を『高度なセンサ』に – 」、「モノとインターネットとフォグコンピューティング」、「オープンデータの仮想化及び蓄積技術に関する研究」、「公共ディスプレイとのインタラクション技術とその応用」といった、興味深いプロジェクト発表を行っている。研究プロジェクトの数の多さも、徳田研ならではだ。

来場者の方々に「未来」を見せたい

 ORFでの研究発表を通して、来場者の方に「未来」を見てほしい、と中澤仁教授は言う。
 「今の世の中は、ものとお金を取り替える経済の上に立っている。市場に流通する財は基本的にはものだけで、社会からセンシングされた情報は無償のものとして提供されています。例えば、Googleで検索すれば、いろんな情報をただで見ることができますよね。でも、情報とは本来価値があるものだと私は思っています。社会にあふれる様々な情報を仕入れて意味のある情報を作り、それを他の人に売ることができる。そんな価値を持った情報を『情報財』と呼びますが、これからは情報の価値が金銭的に評価されて、市場に情報財が流通するようになるんじゃないかな、と。空間のなかに埋没してしまって入手する手段もない情報が流通すれば、生活がより便利で豊かなものになると思う。そうすれば経済の規模も今の2倍近くになる。そういう社会が実現するのがきっと2050年の未来で、ORFでは、そんな未来を見せたいなと思っています」

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 Aエリアでは、今回取材したブース以外でも、未来を見据える最先端の技術を体験することができる。ORFは明日23日(土)まで開催しているので、興味を持った方は足を運んでみてはいかがだろうか。