ORF2013、1日目セッション「3Dプリンタとファブリケーションの未来」が行われた。今年の流行語大賞にも入るかのような勢いを見せた3Dプリンター。この機械の登場によって人類にFabLifeがもたらされるのだろうか。産業を変える波になるのだろうか。このような疑問を軸に、セッションが開始された。


■パネリスト

小川秀明 オーストリア Ars Electronica Futurelab

小林茂 情報科学芸術大学院大学准教授、IAMAS,F.Laboプロデューサー

田中浩也 環境情報学部准教授

脇田玲 環境情報学部准教授

水野大二郎 環境情報学部専任講師



 脇田准教授の「みなさんどんどん質問をして下さい。シャイな方は『#orf_fab』というTwitterハッシュタグを活用して下さい。多様な議論が生まれる場にしましょう」という言葉でセッションは始まった。登壇者による議論が行われる傍らで、聴講者もTwitterを利用して議論に参加できるように工夫されていた。


3d脇田玲環境情報学部准教授


ファブリケーションとは?

 まず、登壇者各人が「今感じているパーソナル・ファブリケーションとは何か」「どのような場が生まれているか」「モノづくりが身近になったことによる変化」などについて5名それぞれのプレゼンテーションが行われた。

 パーソナル・ファブリケーションとは、コンピュータやネットワークを取り入れた個人によるモノづくりのこと。コンピュータによってさまざまなツールを自動化しつつ、ノウハウをインターネットで広く共有する。これによって、個人がより容易に、高度な創作に取り組むことができる。

3d3田中浩也環境情報学部准教授


土地ならではの色を出すファブリケーション

 小川秀明氏は、在籍するArs Electronica Futurelabについて紹介した。Ars Electronica Futurelabは、「短時間でいかにクリエイティブなものを生み出すか」という試みのもと、オーストリアのリンツで2009年より稼働している。市民のモノづくりの拠点として開放されており、普段から市民主導によるモノづくりが行われている。市民を巻きこんだ大規模なデザインのイベントも行われているそうだ。

 続いて、小林茂氏がプロデューサーを務めるIAMAS,F.Labが紹介された。IAMAS,F.Labは岐阜県大垣市にあるモノづくり工房である。市民を対象とし、オリジナルボタンづくりなど、様々なモノづくりが行われている。その他にも、市民が一からイスを作り上げて、プロダクトとしての完成度を競うコンテストを行うなど、ファブリケーションの技術や知識を持たない人にも、モノづくりを身近に感じてもらうための試みがなされている。
 Ars Electronica FuturelabとIAMAS,F.Lab、その両方のプロジェクトの中では「さまざまなつながりを生みながらも、その土地ならではの色を出す」というテーマが共通して見られた。
 特別な技術を持たない普通の人のアイディアを支援するための仕組みづくりこそ、パーソナル・ファブリケーションの目的だ。

(無題)



3Dプリンタは産業を変えるか

 来場者からの「先生方は産業を変えたいと考えていらっしゃるのですか?」という質問に対し、田中浩也教授は「僕は大学の教員なので、新しいモノづくりを学んだ卒業生が社会で活躍できるような産業を作りたい」と答えていた。
 この問いから議論が進む。現在の産業ではいまだ、旧来の価値基準や仕組みの中でのモノづくりが行われているため、新しいモノづくりのトレンドは完全には受け入れられていない。今生まれているパーソナル・ファブリケーションは、社会に浸透していくプロセスで価値が決まってくる。本当の意味での変化を起こすのはマシンではなく、やはり人である、とまとめられた。