11日(土)、SFCでKBC実行委員会が主催する「第1回 KBC Academia」が開催され、「失敗力」というテーマでパネルディスカッションが行われた。元LINE代表取締役社長・現顧問で、現在C Channel代表取締役社長の森川亮氏、SFC卒業生でカヤック代表取締役CEOの柳澤大輔氏、ウィルゲート代表取締役の小島梨揮氏、起業支援家でSFC-IV インキュベーションマネージャーの廣川克也氏の4名のパネリストに迎え、夏野剛氏(政・メ特別招聘教授)の進行のもと、失敗の本質や、その失敗の経験によって得られた学びについて議論がなされた。

■モデレーター
夏野剛
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授

■パネリスト
森川亮
元LINE株式会社 代表取締役社長CEO・現顧問、C Channel株式会社 代表取締役社長
柳澤大輔
株式会社カヤック代表取締役CEO、環96年卒
小島梨揮
株式会社ウィルゲート代表取締役、経卒
廣川克也
慶應藤沢イノベーションビレッジ(SFC IV) インキュベーションマネージャー

左から、夏野氏、森川氏、柳澤氏、小島氏、廣川氏

起業家には失敗している人が多い

夏野教授の進行により、登壇者の自己紹介を経てパネルディスカッションがスタートした。
 森川氏は、LINE代表取締役社長CEOを1日付けで退任。動画ファッションマガジン「C Channel」を創業したことを発表した。若い女性をターゲットに、動画発信者(クリッパー)となり、日本のカルチャーを世界に伝えるねらいだ。著名なモデルやタレントがクリッパーの先駆けとなり、さっそくおすすめの店を動画で紹介した。「私たちは新しいカルチャーを作ります、そして世界的なスターを生み出します」と森川氏はアピールした。

カヤック代表取締役CEOである柳澤氏は、ソニー・ミュージックエンタテインメントを経て、1998年に大学時代の友人3名と同社を設立。柳澤氏は「面白法人カヤック」と表し、「日本的面白コンテンツ事業」を展開する会社であると説明した。実際に世に提案したコンテンツのなかで、失敗例を取り上げて、おもしろく紹介をしていたのが印象的だった。貧乏ゆすりを電力に変えるアイデアから「YUREX」が生まれたが、予想以上に電力が発生しないために、あえて貧乏ゆすりをカウントしてランキングにするシステムに変わってしまった話が出ると、会場は大きな笑いに包まれた。

ウィルゲート代表取締役である小島氏は、18歳でネットビジネスを立ち上げ、20歳で同社を設立した。まもなくして組織の内部崩壊に直面し、一時1億円の借金を背負って倒産危機に陥るという壮絶な過去を語った。しかし、逆境を乗り越えたことで、挑戦していくという根本的なスタンスの重要性を実感したという。

SFC-IVインキュベーションマネージャーである廣川氏は、住友銀行退職後、2005年よりSFCに着任し、起業家志望者の事業計画や販路拡大などの支援に取り組んできた。国際学生ビジネスコンテストにアドバイザーとして参加し、チームを世界一に導くなど、起業家育成に意欲的な姿勢をみせている。2013年より財団法人SFCフォーラムの事務局長に就任し、産学連携や研究支援をしている。自身の経験を振り返り、SFCから起業家になって失敗した人とともに、成功を果たしている人の存在を強調。その上で、「ベンチャーなのに安定志向」「未来に投資しない」など、失敗するベンチャー企業やプロジェクトの例を挙げると、来場者は大きくうなずく様子をみせた。

登壇者の自己紹介を受け、夏野教授は、学生が起業するのはもはや珍しいことではなく、むしろ起業家には失敗している人が多いということを提示した。

自身の失敗例を紹介する柳澤氏

学生のうちに失敗経験を積むべき

夏野教授が登壇者に学生時代の失敗談を聞くと、大きな失敗をしている人と、さほど失敗はなかった人に分かれた。
 まず、小島氏が1億円の借金を負った大きな失敗を語る。「高校時代の友人とビジネスを立ち上げたもののまったくうまくいかず、自身の傍若無人な態度がチームの崩壊につながった」と自責の念を明かした。さらに、ウィルゲート創業時は、年配の従業員から若社長呼ばわりで信頼を得られず、1億円の負債を抱える泥沼状態を生々しく語った。夏野教授が「普通の学生はサークルやクラブ活動で失敗するのに、カネで失敗するなんて壮絶ですね」と話すと、登壇者に苦い笑みがこぼれた。
 一方、「もっと無茶すればよかった」と切り出すのは廣川氏だ。経済学部出身のいわゆる「お利口さん」で飛び抜けてない学生だったと告白した。柳澤氏も、学生時代はこれといって失敗はなかったというが、社会人になってからは、失敗から成功体験が生まれることを実感した。「ぜひ学生のうちに失敗の経験を積んでもらいたい」と会場の学生に呼びかけた。

1億円の借金を背負った当時を語る小島氏

そもそも成功とは?

続いて夏野教授は、成功の定義を議論に挙げた。通常、カネや地位を持って成功とする人が多いなか、登壇者にとっての成功とは何かが問われた。
 森川氏は、「好きなことを好きなときにできる」ことが成功のイメージだと答えた。柳澤氏は「目標を失うと弱くなるから、ある程度目線を高くして進んでいる状態が一番成功を感じる」と語った。小島氏も「慶應義塾高校に入学することで目標を達成してしまった結果、逆に喪失感があった。目標や意思に向かっていくことで充実感が得られる」と続いた。廣川氏は「ゴールがあり、それに向かう状態がよい。例えば、夏休みに何をしたらよいか相談されることが多い。でも本当は、夏休み後にこんな人間になりたいから、そのためには何をしたらよいか、と聞いてほしい」と学生への思いを語った。
 議論を踏まえ、夏野教授は、「誰々よりいい大学や企業に入った」は何ら成功ではないと学生に語りかけ、「目標値は他人との比較ではない」とまとめた。

つい先日退社した理由も好きなことをするためだと語る森川氏

失敗を恐れない秘訣

とはいえ、学生は失敗を恐れるものだ。それに打ち勝つ秘訣を教えてほしいと夏野教授は登壇者に問いかける。
 廣川氏は「失敗か成功かは自分で決めるものだから、まずやってみないとわからない」と答えた。小島氏も「目標がないとそもそも挑戦できない。まずは行動がすべて」と同様に主張。これを受け、夏野教授は「アイデアだけでは不十分。失敗があったとしても、本当に動いた人だけが成功を手にする」と行動の重要性を強調した。
 柳澤氏は「何に恐れているのかを丁寧に言語化するとよい。分解してみると実は不安なんてなかったこともある」と提案。森川氏は、「不安でやらない人こそむしろ失敗なのではないか」と厳しい指摘をした。
 「挑戦は怖いものだったり、面倒なものだったりする。(きょうのように)土曜日に大学に行くのも面倒だと思うけど(笑)、こういう機会を毎回大切にしている人としない人では、1年後には全然違う人間になっている」と夏野教授は締めた。

学生時代の時間の使い方について議論する廣川氏(右奥)と夏野氏(手前)

学生の質問タイム 「とにかく動け」登壇者がアドバイス

最後に、学生から質問を募ると多くの手が挙がった。

— コンテンツがどのように消費されるのか、今後のおもしろいコンテンツについて知りたい(環2)

森川氏:
 もうコンテンツというパッケージで見るのが古い。関心のある人がリーチできるかどうかが勝負。可視化するか否かで、コンテンツになるのか単なる出来事で終わるのか、変わってくる。
柳澤氏:
 コンテンツという領域が広がってきている。たとえば、カヤックは会社のすべてがコンテンツだと思っているので、給与をサイコロで決めている。(会場、笑い)

— 世の中のプレッシャーを受けて孤独になったときに、どこに意識を向けて次のステップに進むべきか(総3)

森川氏:
 みんな悩んでいることなので、まず行動に移すことを意識する。
柳澤氏:
 いずれは良い経験になるだろうと信じて、忘れる。
小島氏:
 自責を巡り巡っても、結局行動になる。今できる最善をこなす。
廣川氏:
 起業家の話でよく聞くのは、運動する。ひたすら走ることで気分転換を試みる人が多い。

— 自分が失敗したと認識したあとにするファーストアクションはあるか(総1)

柳澤氏:
 二次災害を防ぐ。冷静になる。
夏野教授:
 仕事の場合なら、できるところまで尽くしてやめる決意をする。
森川氏:
 迷惑をかける場合があるので、自分の気持ちを整理して周囲にきちんと謝る力が必要。

ディスカッションの最後に学生へ言葉を贈る夏野氏

失敗と失敗力は違う。失敗を失敗と思わない力が失敗力である。失敗しそうなことでも楽しんで挑戦するのが、登壇者全員に共通する失敗力だと感じた。白熱した90分間のパネルディスカッションはあっという間に終わり、登壇者が立ち上がると会場は大きな拍手に包まれた。