今年もさまざまな研究発表が行われているORF。SFC CLIP編集部は、「SFCから世界の防災を変える」をテーマに研究を行う大木聖子研究会(A60)を取材した。今回の出展では、 "防災を考える" ことへのハードルを下げる、体験型の展示を多く行っている。

ブースの中に避難所を! 「ハード」の防災と「ソフト」の防災のコラボレーション

今回の展示でまず一番に目を引くのは、ブース内に大胆に再現された「避難所」。避難所用の簡易間仕切りを制作している坂茂研究会とのコラボレーションによって実現した。組み立て式のポールとカーテンでできたこの間仕切りは、避難所で失われがちなプライベート空間をつくる。

防災において、坂研は建築系の「ハード面」を、大木研は教育などの「ソフト面」をそれぞれカバーする。 "被災した人たちの避難所生活をよりよいものにする" という点において共通している両研究会のコラボレーションは、SFCならではのものだろう。

SFCが避難所になったら? 「HUG」で避難所運営を考える

そして、再現された避難所の中で体験できるのが避難所運営ゲーム「HUG」だ。ゲーム内で使うアイテムは、避難所の具体的な部屋割りなどが書き込まれた紙、被災者の情報が1人分ずつ書かれた被災者カード、そして「物資が届く」など避難所ならではのイベントを発生させるイベントカードの3点。「この部屋はこの大きさしかないから、この人は別の部屋に入ってもらおう」「届いた物資はこの順に配分していこう」など、避難所の環境や被災者の事情、起こるイベントなどを考慮しながら避難所を運営していく。

今回の出展では、大木研がこのORFのために独自に制作したSFC版のHUGを体験することができる。SFCが避難所になったという設定のもと、SFCならではのイベントも登場する特別バージョンだ。避難所運営は役所の人がするというイメージを抱いている人も多いかもしれないが、実は、避難所にいる人こそが避難所を運営するのが望ましい。「SFC生には学校に来る日数が少ないという人も多いが、SFCにいる間に被災する可能性も十分に考えられる。SFCは周辺地域の避難所にも指定されているので、 "避難所としてのSFC" を想像しておくことには大きな意味がある」と履修生の所里紗子さん(総2)は語る。

HUGは点数制のゲームではないが、今回は、ブースでの展示とのことで特別に点数制のルールを設けている。実際にブースでHUGを体験した人たちのうち、高得点だったトップ3チームの結果はブース内のホワイトボードに掲示されている。記録を更新すべく、あなたもチャレンジしてみては?

あなたは最後のコマで何をしますか? 4コマ漫画で学ぶそれぞれの「役割」

そのHUGの横に展示されているのが、4コマ漫画の防災教材だ。これは大木研の履修生が2013年に考案したもので、主人公は漫画を読むあなた自身。まず「震度○の地震が発生した」という設定があり、1~3コマ目で避難所の様々な情報が与えられる。そして、最後の4コマ目には主人公と空白の吹き出しだけが描かれている。実際に避難所が設営されたときに設けられる運営班ごとにそれぞれ4コマが用意されており、避難所で必要となる様々な役割を学ぶことができる。

「実際の避難所であったこと」というカードも用意されており、最後の空白を埋める前にこれを読む。ここにはその名の通り実際の避難所で発生した問題が書かれており、いわゆる "現実" を教えてくれる。それまでの「4コマ目はこうしようかな」というアイデアをひっくり返してしまうことも多々あるそうだ。

与えられた役柄になりきり、その状況に置かれた自分を想像したとき、あなたはこの空白をどんな言葉で埋めるだろうか。思考力が問われる、実践的な教材だ。

"難しい防災" を "楽しい防災" へ

大木研は小学生~高校生への防災教育に積極的に取り組んでいるが、今回はORFという場に合わせ、対象とする年齢層を高めに設定した展示を行っている。防災に年齢は関係ない。誰もが被災者になる可能性があるからこそ、それぞれがそれぞれの「防災」を考えておくことが大切だ。

「今回の展示を通じて、防災について考えて、それを純粋に楽しんでもらえたらと思います」と小幡宜友さん(総2)。大木研では、 "難しい防災" を親しみやすい形に落とし込み、 "楽しい防災" へと「かえる」。ぜひ大木研のブースに足を運び、 "楽しい防災" の中に込められたたくさんの工夫に触れながら、今一度防災としっかり向き合ってみてはいかがだろうか。

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