「経済学」の理論と応用で論文を書いている院生になっていました。今は、論文を投稿するジャーナル(海外の学術雑誌)選びをしています。メッセージと貢献がクリアーで、おもしろいと思ってもらえるペーパーを書くように心がけています。素晴らしい師の存在と、切磋琢磨し会える同僚の存在は、研究という冒険を続けるエンジンです。


 皆さん、「経済学」と聞いて何を思い浮かべますか。もし、景気予測、市場、オカネ、為替、財政などしか思い浮かべられなかったら、それはすごく狭い見方をしています。反論もあるようですが、「経済学」の分析対象は、経済だけではなく、人間が関与している全てです。現代の経済学は、「人間・組織・社会行動科学+情報・意思決定理論」というのが正しい呼び方かもしれませんし。また、この言い方が、専門外の方々に自分の学問を紹介するときには、誤解が少なくて済むように感じます。
 在学生の皆さんの中には、何かが足りないなと感じられている方がいらっしゃるかもしれません。以下の文章は、そういう方へのメッセージです。なお、以下の記述は、私がふと思っていることを綴ったものであり、内容的にかなり偏っている可能性があります。私の公式見解ではないことを断っておきます。(無断転載は固く禁じます。)
 <行動科学+情報理論>経営、社会、組織、政治、法律、家族、子供、犯罪、都市、企業、教育、戦争、差別など全て経済学の分析対象です。(念の為ですが、私は、こうした分野を経済学で分析しなければいけないと言っていませんのでご注意下さい。分析「出来る」と言っているのです。)従がって、現在の経済学は、「人間・組織・社会行動学+情報・意思決定理論」というのが正しい呼び方かもしれません。経済学は、社会科学の部分集合だと思われていますけど、実際はそうではありません。最近の経済学者は、心理学者、認知科学者、計算機科学者、数学者、物理学者、政治学者、法学者、社会学者などの方との接触を喜びます。自然科学、人文科学、社会科学と並んで、経済学があるという図式が正しいかもしれません。
 <真剣な方のための政策分析入門>
 ちょっと偉そうに聞こえるかもしれませんが、政策分析を「真面目に」されたいと考えている学生の方々には、是非、「経済理論」の基礎をしっかり勉強してもらいたいなあと思っています。おそらく、皆さんの中には、金融、企業組織、労働市場、人的資源管理、コーポレートガバナンス、制度、会社法制、開発経済、政治経済、政治組織、政治過程、女性、差別、家族、文化、医療政策、都市経済、国際政治、戦争等を勉強されたい方が多いと思われます。そういう方こそ、経済理論はとても役に立つはずです。特に、情報・契約理論と動学マクロ理論などは重要です。
  幸いにして、平たい言葉で記述されながらも、本物の香りがぷんぷんする入門書が、最近はあります。情報の経済学を真面目にやってみようという学部生の方は、論文になってしまいますが、Akerlof(1970), "The Market for Lemons", QJE等を是非お読み下さい。
 資産価格、失業、消費等の経済変動を分析するとき、マクロ経済のダイナミックな理解はとても大切です。マクロの動学を真面目に勉強されたい方は、是非、小さな本ですが、Lucas先生のModels of Business Cyclesをお読み下さい。とてもいい本です。
  マイクロ、マクロ両方に共通して、不確実性の存在する下で、主体はどのように意思決定をするのかを考えることはとてもとても大事です。当然、数理統計の知識が前提になります。DeGrootやT村先生の本等で勉強しましょう。
<前略のときは草々>
  実は、私は短い期間でしたが、フルタイムで勤務していた経験があります。ある日、某先生が、新任の秘書に僕を紹介しました。「ちょっと変わっていますけど、一応サラリーマン経験者です」と。
 職場は素晴らしい方々ばかりでした。私など足元にも及びませんでした。私のような非才な人間を大事に可愛がって頂いていたと感謝しております。様々な個性の方がいらっしゃって、とてもおもしろいコミュニティ空間になっていました。このフルタイム勤務の経験から、得られたものは大きかったと思います。例えば、電話をかけるのが怖くなくなった、結論から説明する癖がついた、やる順番を意識するようになった、事務文書を書くのが容易になった、寛容になった、人の名前を覚える努力をするようになった、簡潔なメールを書く癖がついた、書類の整理が上手になった、相手の意図を考える癖がついた、リュックを前で抱えて電車に乗る癖がついた、前略のときは草々だと知った(これ笑っちゃうでしょ)、などです。
<経済講師として>
 私は、このフルタイムの勤務以外に、非常勤ですが、某所で経済講師をしてきました。公務員試験などを目指す大学生が生徒さんでした。顧客満足という観点から、生徒さんを満足させる講義をするのは、予想と異なり、かなり難しいことでした。受講生は試験科目としての「経済学」を学びにきているのであり、学問的に「真面目に」講義をすることは御法度でした。でも、学問的に間違ったことを教えることは私の良心に引っかかります。つまり、学問的な正確さを大きく落とさずに、且つ受講生に分かってもらえる講義を時間内にすることは、とてもとても難しいのです。しかし、私は、なるべくこうした講義をしてきました。実際、経験的に、「この部分は受講生には難しすぎるから、暗記だけさせればいいよ」と言われてきた部分でも、工夫をすると、短時間で、その本質を受講生に理解させることは十分可能であるということが分かりました。自分で言うのも変ですが、実際、その甲斐あってか、それなりの信頼と人気は得られたようです。講義は、受講生とのコミュニケーションであるということを感じました。
  実は、私は今秋からPhD留学するのですが、そこで、TAや講師をするときに役に立つでしょう。
<縛られないで>
 社会との接点を重視し、生き生きと活躍されている現役生の皆さんは、とても素晴らしい経験をされていると思います。とても羨ましいです。皆さんは、まだ若いのですから、自分が置かれている環境に縛られないようにしましょう。学部生であれば、その人に基礎力があることを前提として、何でも出来るのではないでしょうか。基礎力があり真面目に勉強している学生に対しては、みんな誠実に対応してくれるはずです。どこに所属しているかでなく、何をやっているかが大事です。門戸を開いて下さっている世界レベルのスーパースター的存在の先生方が、国内にはたくさんいらっしゃいます。これはすごいことです。是非、いろんなチャンスを大事にして、頭を柔らかくして、学生時代を価値あるものにして下さい。