「小泉内閣の人気を受けて、国会審議を無編集で中継しているCS(通信衛星)放送番組『国会TV』の加入者が急増している。」との記事が朝日新聞に掲載されたのは、2001年6月19日のことである。月500円の視聴料で、国会の審議が見られるこのCS放送スカイパーフェクTVの中の1チャンネルは、小泉首相が所信表明演説をした5月以降加入者を伸ばし、この6月時点でスカパーに「国会TVはいまや目玉商品」と言わせるまでのチャンネルとなったはずであった。しかし、視聴者の募金運動などで乗り切ってきた昨年7月以降の衛星使用料の未払いが、ここへ来てまた問題となり、2001年12月7日(金)24 時 スカイパーフェクTV379chの放送が、突然停止されてしまった。


 今回の[日進月歩]では、事の経緯とインターネット上で昨今普及しつつある  ストリーミング放送に関して追ってみることにする。
 ※記事の一番下に語句説明があります。
◆「国会TV」停波事件の経緯
 今回の事件の経緯は、衛星を所有し放送を受託して行っているJSAT株式会社(以下「JSAT」)、実際のオペレーションや加入者からの料金徴収・普及促進などを行っている株式会社スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(以下「スカパー」)の両社が、「国会TV」の放送を行っているシー・ネットに対し未払いとなっている回線使用料等数ヶ月分の支払いを要求したということにはじまる。これから12月10日にシー・ネットが提案した支払計画案に関して具体的な話し合いをする予定だったのだが、それを待たずに7日に放送停止、ということに至ったのである。
 元TBS政治記者でありシー・ネットの代表である田中良紹氏は、ありのままの国会審議のようすを放送する為に、このシー・ネットと国会TVのシステムを作りあげた。そしてその普及の為に、既に国会放送が普及しているアメリカの例を参考に、スカパーのベーシック・サービスに国会TVを入れてほしいという要望をしていたのだが、スカパー側からの対応は無かった。一時シー・ネットがディレクTVとの関係を深めようとすると、ベーシック・サービスに加え、さらに「支援金」を渡すということで遺留を求てきたのだが、結局その後もベーシック・サービスに国会TVが加えられることはなかった。
 CSデジタル放送で番組を制作する場合は、衛星を用いた回線の使用料がかかるため多額の資金が必要となる。それを支払う為、加入者が増えないことには会社を運営していくことは難しい。ディレクTVでベーシック・サービスに近い形で放送がされていたシー・ネットは、視聴者を当時20万人抱えていたのだが、 2000年8月ディレクTVが放送を停止されると、一気に4千人に激減。さらに、スカパーによるが支援金も2000年6月とされていたため、シー・ネットは窮地に追い込まれた。
 今回の回線使用料の未払いは、JSATとスカパーの仕組んだことである、というのがシー・ネットの見解である。本当にそうであるかはともかくとして、仮にシー・ネットの放送する国会TVの存在が危うくなり消滅するようなこととなれば、それは非常に残念なことといえるだろう。
 ところで、現在放送が停止されているスカパーでの国会TVにかわって活躍しているのが、インターネットにおいてブロードバンド配信されている国会TVのストリーミング放送版である。
◆ストリーミング放送・・・
 ストリーミング放送とは、映像や音楽のデータを一時的にダウンロードしながら再生する仕組みのことである。インターネット上において、音声・映像コンテンツをダウンロード・保存してから視聴するのとは別に、よく用いられているこの方法。データ通信速度が遅いと、必要なデータがダウンロードしきれず、コマ落ちや音飛びが生じてしまう。高画質、高音質で再生するには高速な通信環境が必要なのだが、最近のブロードバンドの普及によって、クオリティの高いコンテンツを簡単になく視聴できるようになってきた。
 インターネットではストリーミングによる放送を行うことにより、ユーザーが好きな時間に好きな番組を視聴することができるオンデマンド放送を確立できるという利点がある。
 さらには、地域も選ばない――世界中の様々な場所の放送を日本で視聴可能であることに加え、コンテンツに対してユーザーがどのような事を感じているかということを製作側が知る事ができる双方向性も持っている。
 バッファリングというダウンロード・一時保存しながら再生するという作業を行う為、既存メディアの主体のテレビよりは再生は少し遅れるが、放送する内容として、大物歌手のコンサートの中継から個人のイベントを放送するパーソナル放送まで多岐にわたって自由に配信できる点、コンテンツに対して月いくら、との課金を行う制度も整い始めていることなどを考慮に入れると、これから期待できるエンターテイメント・ツールであることは間違いない。
 先述の国会TVのように、最近では政治の世界に関連する部分まで、このストリーミング放送は進出しはじめている。国会TVは政治への国民の関心を呼び、開かれた国会審議を確立することを目的としているが、国会TVのほかにも、"Suzukan.tv"という民主党の鈴木寛氏によるコンテンツのように政治活動、対談の様子を広く知らせるために用いられることもあれば、財務省がプロデュースし放送する税制調査会総会審議中継もあり、用途・製作者にもバリエーションが出てくるようになった。
 インターネット上においてこのように政治に関するコンテンツを提供することによって、その双方向性からユーザーが掲示板において議論を行うことも出来る上に、時間・場所を選ばない気軽さや手軽さも加わり、広く一般市民の政治参加を促すきっかけが生まれたと言えよう。
 また、政治というコンテンツはその注目度も高い為、コンテンツとしての重要度も増す。インターネットの利点を生かしたインターネットならではのコンテンツを生み出すことが必要とされているストリーミング放送においても、このジャンルはこれから欠かせないもののひとつとなってくることが予想される。
【語句説明】
■CSデジタル放送
デジタル化された番組の映像・音声を、圧縮符号化して伝送するため、アナログ放送と較べて多チャンネルの放送が可能となる放送システム。
■ベーシック・サービス
ケーブルテレビを契約すると、最初から(視聴者が選択するのではなくて)30チャンネル位ついてくるチャンネルのこと。アメリカにおいては、議会の様子を放送するチャンネルをこのサービスの中に組み込んだ。結果、視聴者がケービルテレビに加入すると必ずついてくる議会中継のチャンネルの普及率は10年間で 7000万世帯、アメリカの7割の家庭に普及することになった。そして、実際たまに見てしまうこのチャンネルに案外興味を示すアメリカ国民は多かったのである。
国会TV
 日本の国会を中継する専門局。アメリカのケーブルテレビ局・C-SPANとも提携しており、アメリカ議会中継も放映している。ポリシーを「無編集」「公平」とし、コンテンツの内容には国会の中継だけでなく、独自番組もある。スタジオの政治家と直接話ができる番組も設けるなどの双方向性を重視した型テレビを目指している。
チャンネルはスカイパーフェクTVの379chと一部のケーブルテレビ。またインターネットでの番組は、AII社のブロードバンド・コンテンツサービスなどで提供中。