今週号から5回にわたり、この秋に環境情報学部を卒業された齋藤達也さんによる留学日記を掲載致します。現地での生活、アメリカの大学での授業など、留学してから感じたことなどを語っていただきます。ご期待ください。


 今日も晴れだ。カリフォルニアはめったに雨がふらない。ロサンゼルスに到着してはや1ヶ月がたとうとしているが、まだ一度も雨に出くわしたことは無い。思うにこの気候は人々の考え方や生活態度に少なからず影響を与えているのではないだろうか。僕が今回留学することになったのは、アメリカ・ロサンゼルスにある南カリフォルニア大学(University of Southern California, USC)だ。
 学部生時代から漠然と大学院はアメリカに行くと思っていたのだが、実際にまったく言葉・生活習慣・思想の異なる国で生活するとなると、大変なことなのだと痛感する。僕が通うのは USC の中でも映画テレビ学科・インタラクティブメディア科 (Interactive Media Division, Graduate School of Cinema-Television)。USCの映画学科はスピルバーグやジョージルーカス、また映画音楽で有名なジョン・ウィリアムスなども輩出した全米一位にランクする名門であるらしい。実はこのインタラクティブメディア学科今年創設されたばかりなのだ。まだ方向性を模索している段階であって、それはまさに僕がこの学科を選んだ理由でもある。
 映画学科はUSCの中でも一際異彩を放つ雰囲気で建物の名前には "George Lucas Instructional Building"といったり、" Spielberg Musical Score Institute" といったように有名映画監督の名前がつき、まさにハリウッド映画産業を支えているということを実感する。また映画学科の授業の多くは Robert Zemeckis Center (映画 "Back to the future" の監督の名前。彼がこのセンターの資金を提供している。)という研究センターで行われる。この建物には最新鋭のモーションキャプチャシステムやCG製作環境、そして映像編集機器がそろっている。ここの建物の入り口には、 "Reality Ends Here" という文字が刻まれ、今後の最新のCGや報道システムなど映像・映画技術を支えていくであろう学生達が日々研究にいそしんでいる。また、隣の音楽学科の建物には "Thelonious Monk Jazz Institute" や "Arnold Schoenberg Music Institute" といったようにジャズや現代音楽の巨匠達の名前が連なる。
 僕が今期とっている授業の中でもひときわエグいのが"Introduction to Film Making" と "Introduction to Film Writing" だ。両方とも教授はハリウッドで実際の映画制作にかかわっているプロフェッショナルである。授業を履修している学生の側もハーバードの文学部やニューヨーク大学の映画学科などですでに映画制作や脚本を学んできた学生ばかりで、僕はわりとバックグラウンドに関しては多少浮いた存在である。毎週のようにフィルム撮影・編集の課題が出るため休日を返上して DV カメラを使った撮影や Avid を利用した編集作業に追われているが、授業中に上映した際にも学生間で非常に活発な議論が行われるため非常にやりがいがあり充実した毎日を送っている。他にもアニメーションの授業もあり、毎週あるテーマに沿った形で、実際のアニメーション製作に使われる機材を使ってアニメーションを作る課題が出される。やはりアメリカの大学、授業は厳しく、そしてレベルも高い。
 大学全体に関して言うと、まず来てみて思うのは、人種の多彩さだ。同じ学科にはインターナショナルの学生は僕しかいないのだが、USC全体で見ると留学生の数は全体の大きな割合を占めているらしい。これは他の西部の大学、たとえばUCLAやバークレー、スタンフォードなどにも言える様だ。構内は各々自分の進むべき方向へ進むべく、それぞれの課題を抱えて行き来する学生達でごった返している。キャンパスはロサンゼルスダウンタウンの南部に位置し、 Lakers の試合が行われる Staples Center のさらに南、Inglewoodとの境界線にあるのだが、周囲の治安はあまりよろしくない。大学のまわりはまだ安全なほうだが、キャンパスの南側は黒人街で以前黒人暴動の中心地になった危険な区域だ。一人で歩けば昼間でもかならず襲われるような場所なのだ。数年前にも夜中に日本人留学生がコンビニエンスストア前で射殺されるなどの事件があったようだが、やはり夜は出歩かないほうがいい。夜は警察のヘリコプターの音が絶え間ない。こういったこともまた多人種国家アメリカを感じさせるものであろう。
 外国生活で気になるのが食生活だが、ロスは日本人人口が多いこともあってか、まったく困らない。ダウンタウンのリトル東京内にある Mitsuwaあるいは Marukai といった日系スーパーマーケットに行けば大体の食材は手に入り、また車があれば南のほうの Torrance というところに大きな日本食材のデパートがあり、たいていのものは何でも手に入る。このリトル東京には日本のドラマや映画などを貸しているレンタルビデオショップもあって、ほとんどリアルタイムに日本のドラマやバラエティ番組を見ることができる。また大学内にも日本人留学生の学生団体もあり、生活に役立つ情報交換をすることもできる。
 さて、これを書いている今も数日後に発表予定のフィルム編集をしている真っ最中。授業はとても大変だけれども、こっちの学生はちゃんと遊ぶときに遊ぶ。きちんと勉強と遊びを切り分けて生活を楽しむという態度は見習いたいところだ。
-次回に続く