今年のゴールデンウィーク、サイクルKでは「富士山5合目征服プロジェクト(正式名称不明:略してフジプロ)を敢行しました。参加者は、サイクルKメンバーの2人。その行程の一部始終を、2人の視点で前・後編に分けてお送りします。今回はその後編。これを読めばきっと、この週末にでも自転車でちょこっと遠くまで行ってみたくなる・・・はず。


 後半の今回は、松本賢二郎(環4)がお送りします。
———- 前編のあらすじ ————-
 午前4時 辻堂海浜公園を出発した2人は海沿いを走り、小田原から箱根を越え、御殿場を経て、ついに富士山スカイラインを登り始めた。出発から15時間後、前日の寝不足と疲労で混沌とした意識の中で標高1400mのP.Aに到着した。どうにもこうにも眠気に耐えられなかったので、マットと寝袋を光速で引っぱり出し、既に閉まっている売店の軒先で仮眠。その後のことは覚えていない。しかし、雨が徐々に、しかし確実に強さを増していたことだけは確かだ・・・。(By 前編担当 大川ちん)

午後7時 大川ちん(サイクルK 環境2年)が爆睡して意識を失っている脇で、僕はリッチな夕食にありついていた。週末はいつも山にご飯を食べにくるという老夫婦が、ベーコンエッグとコーヒーでもてなしてくれたのだ。標高1400mの富士山では、すごいご馳走だ。もちろん相棒の大川ちんにも食べさせたい、と起こそうと最善を尽くしたものの目覚めることはなかった。念のため。
 山を降りる老夫婦を見送ったころから急激に霧が濃くなってきた。まだシーズンオフの富士山に来る人はほとんどいない。気が付けばパーキングエリアの駐車場には車が1台もなくなっていた。霧のために気温も急激に下がってきたので、テントを設営。テントは大川ちんのもので、新しいタイプのものだったので立てるのに苦労したが、どうにか形になる。尚も爆睡する大川ちんにテントへ移動するよう促すも、「僕はいいっすよ、外で大丈夫です…」と、完全にねぼけた反応。 3回起こしてようやく目を覚まし、改めてふたりで夕食を採る。天かす大量投入そばと、味噌汁で乾杯した。
 富士山は水がない山。僕はそう信じていた。中学生の時に今回とは反対側の5合目に自転車で登ったときは本当に水道がなかった。富士山の土は火山質だからせせらぎもない。最後は7合目で降った雨を集めて飲んだ。シーズンオフで山小屋は開いてなく、さらに台風が来ていて、麓では僕のための捜索隊が編成されていた。そんな苦い思い出もあったので、今回は万全を期して麓で10lも汲んで運び上げてきた。しかし今回上った道上には水道があった。涙。せっかく重いのを苦労して運んできたのに。。。
 午前1時 テントがパタパタと風にはためく音で目が覚める。気が付くと外は嵐だ。さらに、こんな天気にもかかわらずドリフト族がやってきて駐車場内をグルグル回っている。あまりにうるさくて、いい加減文句を言いに行こうとテントを開けたら去っていった。まあ向こうもこんな山奥の駐車場に人が寝ているとは思わなかったのかもしれない。
 明くる朝、相変わらず暴風雨が続く。テントから外を覗いていたら、車を降りてトイレに行く人が途中で風に飛ばされている光景を見てこっちもびっくり。天候が崩れることは出発前から分かっていて、休息日にしよう、とか言ってたもののここまで強いとテントが飛ぶんじゃないかと気が休まらない。午前10時 売店を開くのでどいて欲しい、と言われてびしょ濡れになりながら泣く泣くテントを移動して、昼ごはんを食べた。御殿場でエンタメのために買った、練れば練るほど色が変わる駄菓子とお酒を頂く。うまい。あまりのうまさに幸せな気分になって再び爆睡。
 夕方天気が少し回復し風雨は止んだ。雲行きを眺めながら5合目にアタックするか2人で話し合い、結局僕が一人で行くことになった。午後6時出発。出発してすぐに暗くなった。5合目までの道は夜間閉鎖されて車はない。昨日よりきつい登りなのにあまり辛いと思わない。筋肉が発達したのか、それともまさか乳酸が切れて疲れを感じないんじゃないかなどと考えながらひたすらペダルを漕ぐ。
 気が付くと5合目だった。標高2400m。誰もいない。見上げれば富士山の残りの1376mが覆いかぶさってくるような錯覚を覚える。下を見ると雲海の切れ目から街の灯りが瞬いて見えた。気が付くと星も出ている。強風で自転車のフレームが不気味なうなり声を上げるが、不思議と視覚的には静寂が支配する。
 携帯のメールでサイクルKのMLに報告しようと携帯をパカリと開けたら寒さで電源が落ちていた(!)手で暖め、どうにかメールを送る。大川ちんのいるらしきところに合図でデジカメのフラッシュをたいてみたり、眼下の景色に想いをめぐらせたりと一人の時間を楽しんだ。高いところに登ると視野が開けていろんなものが見える。それは物理的に見えるものだけではなく。僕らの日常もそんな視点に立つことを忘れちゃいけないような気がした。
 お土産に一握りの雪を削り、帰途に付く。
 帰りは下りだから快調。と、気持ちよくスピードを上げていたが、カーブを曲がったら鹿がいた。自転車が静かな乗り物だからかもしれないが、音では気が付かなかったらしい。向こうも全速力で逃げたが、こっちも70km近くだったのであぶなかった。あやうく鹿を轢くところだった。こんなとこで事故っても誰も助けに来ない。ひやひや。でも鹿はかわいい。アスファルトで走るとコツコツ音がする。
 午後9 時過ぎ テントへ戻る。標高1000mの高低差、33kmの道のりで往復2.5時間かかった。帰ってくると標高1400mのサイトが別天地に見える。ほんの数時間前にここを出たのが嘘のようだ。メータによると下りの最高時速は99km。自己新だ。下手すると事故死んだ。祝い酒をして豪華にプリンと缶詰みかんを食べて寝る。
 3日目、霧の合間に太陽が覗いている。僕等は連日の雨で重くなったテントや寝袋を干して軽くし、午後9時過ぎに2日間滞在した水ヶ沢P.Aを離れた。下りは早い、ブレーキを離すとぐんぐんスピードが上がる。途中、行きに見つけたタイ料理の食材店で寄り道した。店員のタイ人女性は、若いときタイで看護婦をしていたそうで、僕も以前インドで病気になってタイ バンコックの病院に入院した経験から話が盛り上がり、楽しかった。南国ココナッツジュースを飲んで元気回復。
 せっかく箱根だからと、宮ノ下で温泉に入る。休憩室でお茶を飲みつつまったり。明らかに車で来てるのにビール飲まれている方々を横目に、僕等を轢かないことを祈る。途中やたら大川ちんのペースがあがって必死でついていく。本当は危ないけれど、車が渋滞しているとなんとなくスピードを出して横を走りたくなる。小田原からは再び海沿い。
 不思議なもので帰りというのは早く感じる。途中、自宅に直行する大川ちんと別れて、午後5時、SFC北門に帰ってきた。警備の人に少しあきれられながらも、北門トイレ前で一人充実感に浸る。
 こうして、冗談から始まった富士山5合目征服プロジェクト(フジプロ)は無事に目的を達成して幕を閉じた。旅の喜びは出会いと未知の光景。
 チャリンコはガッツと少しの食料があればどこまでも走る。自転車で街を出た事がなければ、週末にでも思い切って遠くに行ってみませんか?
(松本賢二郎 環境4年)
「自転車を、SFCを、もっと楽しく」 サイクルK
☆ この旅行の写真がWEBで見れます。
  http://www.sfc.keio.ac.jp/cyclek/event/fujipro/fuji-cycle.html