「自転車タクシー」をご存知でしょうか?その名のとおり、自転車にお客を乗せて運ぶタクシーです。
 インドネシアの"ベチャ"やインドの"リキシャー"などは、その名前を耳にしたことのある人も多いのではないでしょうか。


 「自転車タクシー」などというと何やらエコなイメージがありますが、インドネシアやインドの自転車タクシーはそういうものではありません。ドライバーにとっては生活の糧を得るために必死で行っているものです。所得の低い地元の人たちにとって安く気軽に乗れる交通手段であったこともあって、普及が進んだようです。旅行番組などでもよく目にするので、アジアの諸地域でメジャーな乗り物なのだと思われがちですが、今では自動車やバイクなど他の交通手段が普及して、都市部では絶滅に瀕しているようです。大通りなどは、他の交通の邪魔になるということで、乗り入れ禁止になっていることも多いとのこと。
 一方、自転車のためのインフラが整った、ドイツ、オランダなどヨーロッパの諸地域では、手軽で環境負荷の少ない交通手段として今も広く親しまれています。都市では大通りになればなるほど自転車用通路の整備がしっかりされていて、自動車など他の交通ルールとの住み分けが行われています。インドネシアやインドの例とは逆に、自動車の方が乗り入れを禁止されている「自転車専用幹線道路」があったりもします。ヨーロッパ11カ国をまたにかける自動車タクシー会社まであり、しっかり社会に根付いていることがうかがえます。先に述べたような道路以外にも、これらの地域では鉄道へ自転車を乗り入れることが許可されているなど、自転車を優遇する政策が取られています。また、ヨーロッパの街には、石畳などでできた広いスペース「広場」を道路の起点や、町の中心に配置する伝統があります。自転車文化の発達したデンマークなどでは、この広場で客待ちをする自転車タクシーが多く見られました。こういった歴史的な背景も自転車タクシーを根付かせる要因となっているのではないでしょうか?
 日本では京都、東京(表参道、六本木ヒルズなど)で運行されている事例が有名ですが、各地で導入を検討する動きが進んでいます。こちらはインドネシアやインドとは違い、環境を意識した新しい交通ツールの提供を目指しているようです。そのためか、今のところは行政や非営利組織によって運営されています。行政がかかわっているから優遇策が取られて安心かというと、現実はそうでもないようです。まず、自転車タクシーもあくまで自転車なのだから、ドライバーと乗客で二人乗りするのは道交法違反になる場合があります(道路交通法第57条第2項違反。2万円以下の罰金または科料)。現在は特例措置として公安委員会が認めることで運行が許されている状況。また、ヨーロッパのような自転車専用道路の設備もごくわずかで、自転車は歩道を走れば歩行者に怖がられ、車道を走れば自動車に邪魔にされ、非常に立場がない状況です。さらに、京都や東京で使われている自転車タクシーは、乗客シートを広くし安定させるために2輪ではなく3輪にしているので、普通の自転車よりもさらに場所をとり、他の交通ツールとの兼ね合いが難しいのです。
 インドネシアやインドのように一度は広く普及した国でさえ、他の交通を優先して自転車を冷遇しているケースが多く見られるくらいです。もともと自転車のためのインフラ整備が少ない日本で普及が進むものか、心配です。
 しかしながら、日本の自転車タクシーのパイオニア的存在である京都市の自転車タクシーについては、現在のところ運行は順調なようです。場所が京都なので、自転車タクシーは観光用かと思われがちですが、意外と地元の人たちの利用も多いのだとか。塾に子供を迎えに行ったり、かかりつけの病院に薬を取りにいったり、車を使うほど遠くはないけれど、徒歩で行くのはちょっとつらいな、億劫だなというときに使う地元のリピーターが利用者全体の半分を占めているとのこと。また、車体に広告を載せて広告収入を得るという工夫で経営の安定化が図られており、自転車タクシー普及への希望が見えます。
 普及する間もなくアジアの事例のように他の交通ツールに負けて衰退してしまわないかと心配しつつ、ヨーロッパのように広く普及することを願うところです。「自転車タクシー」の今後の動向に注目!!
(文責:総合政策学部3年 松田麻希  情報提供:環境情報学部4年 松本賢二郎)
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