今回の卒業生特集では、「ひらけ服! わたしサイズの服作りサイト」のOpen-Clothesを紹介する。Open-Clothesは、SFCの卒業生などが中心となって立ち上げたグループで、既に先週までにお伝えしているように、5月4日(火)に世界最大のメディアアート・電子芸術の国際コンテスト「Prix Ars Electronica -International Competition for CyberArts 2004」のデジタルコミュニティ部門にて、特別賞を受賞した。


 Open-Clothesの事務所は、新宿の摩天楼を背にした代々木の住宅街にある。普通の3階建ての一軒家で、一部のメンバーはそこを住居としており、生活感あふれた事務所となっている。人の出入りがかなり多く、曜日によっては人が多すぎて「ものすごいことになる」そうだ。自炊をして大勢で夕食を食べるなど、そこで大家族のように暮らしているような印象だった。
 Open-Clothesに関わっている人は、様々な人がいる。服の勉強をしている専門学校生、既に社会人で会社帰りにお手伝いをしている人、結婚したけど自分のスキルを活かしたい人、とにかくイベント・モノ作りが好きで参加する人など。それぞれが自分の力を出せる分野を持ち寄り、協力して仕事をしている印象だ。
 
 今回お話を伺ったのが、新井正樹さんと春田諭史さんのお二人で、さらに話の中で、幸田康利さんも登場する。いろいろOpen-Clothesについて、聞いてみた。
まず初めにOpen-Clothes(以下、OC)とは何かを教えてください
 OCというのは、今あるような服の流通とか生産などとは、少し違うような服というものに興味のある人たちのグループです。主には、open-clothes.comというホームページを作っています。

少し違うような服とはどういうことですか? それは個性的な服ということでしょうか?
 それもあるけど、趣味は人それぞれバラバラだし、人間の形もそれぞれです。良く話す話で、随分昔に雑誌を見てたときに、指が六本ある人の記事が出ていたんです。インタビュー自体は全然覚えてないんだけど、その人が最後に言っていたのが、「僕は手袋がない以外は人生は幸せだ」と言ってたんです。基本的にはいい記事なんですが、結局手袋がその人に提供できない、つまり今のアパレルに問題があるということなんですよね。
 
 つまり現在は、マーケットに合わない人たちが見捨てられている世界なわけです。やはり「間」にいるような人たちは、すごい多いと思うんですよ。だから、個性的にというだけじゃなくて、誰にも正当な価格で正当な商品を届ける仕組みを作れればいいかな、と。
そのお話と、OCを始めようとしたキッカケに何か関係があるのでしょうか?

▲OC代表の新井さん
 今の話も含めて、いろんなキッカケがありました。僕と幸田君が一年生だった時に、二人とも服に興味があるということで、サークルを立ち上げました。自分達で出来る範囲で服とか作ったり、浅草橋にあるような古着問屋とかに行って、よくわかんないものをいろいろ買ってきて…と非常に大変でした。
 
 あと、純粋に服に興味があったのと、やはりインターネットというのが大事なキーワードでした。所属していた村井研究室では、初めは教育関連のグループに居て、すごい楽しかった。インターネットで教育がこう変わるのか、と分かりました。3・4年時、「クックパッドドットコム」という、食のコミュニティの手伝いを始めました。それを作っている時に、普段自宅に居る主婦とかに、すごいエネルギーがあるんだな、と感じました。自分の作ったレシピをみんなにもらいたいという気持ちがあるんです。これがすごい面白くて、じゃぁ自分が興味があるインターネットと服で、何ができるかなということで、OCを作ったんです。
大学を卒業してすぐに作ったんですか?
 そうではなくて、卒業したあと一年間、僕は服の専門学校に行きました。何で行ったかというと、服の技術もつけたかったし、藤沢の田舎にいて、さっぱり服の業界のことがわからなかったのです。専門学校でいろいろ勉強して、その後OCを始めました。
実際立ち上げたわけですが、OCはベンチャー企業という位置づけなのでしょうか? というのも、あまり収益を目的に働いているように見えないのです。
 何でしょうねぇ(笑)。外から見えているものそのままが、うちの体質なんじゃないかなと思います。そんなに「ベンチャー、ベンチャー」でもなければ、もちろんNPOでもない。幸田君が言うには、NPOというのも、「Not only for profit」ということで、「Non profit」でもない。利益のためでもなければ、利益を追求しないでもないというところでしょうか。
現在、open-clothes.comというサイトがあるわけですが、一番盛り上がっている部分というのはどこでしょうか?
 OCの場合は、サイトでもやりたいこともあるけど、やっぱり服を扱うわけだから、直接触ったりとかとか、服を着る人と作る人が話をしないとしょうがないと思っていて、イベントなどに一番力を入れています。
 
例えばどのようなイベントをやっているのでしょうか?
 6/5・6に、渋谷で「開服万博」というイベントをやります。
やはりそのイベントも、一緒に服を作っていこうというイベントなんでしょうか?
 そうです。3本立ての企画で、1つはOCに登録しているデザイナーが作品を展示するものと、1つが「出島」というOCの中にある、生地などを売っている企業に出展してもらって、生地の安売りをするところ。最後に、現場の人に講師になってもらって、専門学校などで習わない実践的な内容のセミナーを企画しています。
オンライン・オフラインで融合したようなイベントをしているわけですね?
 そうです。OCって、コミュニケーションが大事というポリシーがあるから、イベントも作る人のための企画でもなくて、買う人のための企画でもないんです。何気なく集まった人たちの中でコミュニケーションが生まれれば良いなと思っています。
フリーペーパーも発行しているということを聞きましたが
 はい。いろんな人に協力してもらって編集してもらっていて、現在6号を発行したところです。
 フリーペーパーを発行していて分かったのが、意外に学校を超えた情報交換、発表の場というものがないんですよね。みんな学校に行っていると、隣のクラスのやっていることすら分からないという状態です。OCというのは、服の環境をオープンにしようという感じだけど、これは学校をオープンにしようという、オープンスクールみたいな感じでやっています。
他の仕事内容はなにかあるのでしょうか?
[春田]
 他のところのシステム開発の受注をしています。生地屋や、洋裁教室などからホームページの制作依頼がきます。

▲湘南台の八田が好きだったという春田さん
 
春田さんは現在、現在「開発局長」という位置づけですが、SFCでは何をやっていましたか?
[春田]
 実は僕はパソコンが超苦手でした。学校では友達と部室で音楽を聴いてたりしてたのが、ほとんど。授業もサボって、部室で。。。 
何サークルでした?
[春田]
 音楽サークルのようなサークルです。
[新井]
 僕が幸田君とはじめたサークルと、SFCに脈々と続いてきた、かなりアンダーグラウンドなサークルと、どっちも仲良しで、一緒にやったら部室が広くなっていい、ということでたむろってたんですよ。
春田さんがOCに入ろうとしたきっかけは何だったんでしょうか?
 数字をヒントのに絵を塗りつぶすパズルの、ピクロスをやってて、新井君が僕のことを数学受験で、パソコンとかできたりするんじゃないかと、思ったみたいなんですよね。それで開発関係で誘われました。
[新井]
 でも、看板に騙されました(笑)。パズルと聞いて、パズルやってる=数学受験=パソコンができる=プログラミングができる、と思ったんですが、実際違ったんですよね。でも、プログラミングの力はこれから爆発するのではないか、と思ったわけです。
 OCって、そういうところがあって、これができるんだったら、こういう参加ができるんじゃないか、と考えたいと思っています。
 
 服にも同じことが言えて、服って分業されているじゃないですか。縫製工場というのがあったら、ひたすら縫っている。どのような産業でもそうだけど、特に製造業は中国にシフトしていて、毎年日本で5万人くらいが仕事を辞めています。実際能力があるのに、家庭に入ったりしているわけです。
 
 かたやOCをみていると、「服が欲しい、でも作れない」という人たちがいるのに、作れる人が眠っているというもったいない状態になっています。それのマッチングもやっている感じですね。

賞の受賞の経緯は?
[春田]
 幸田君が応募したんですよ。横で幸田君が英語で変なことやっているなぁ、というのを見ていました。小檜山先生に勧められたらしいのですが、僕もあまりよくその賞のことを知らなくて。英語ばっかりだから(笑)。
 でもOCの中の人で、もちろん喜んでいる人も多かったです。6月の下旬にニューヨークで授賞式があるんです。授賞式のためにプロモーションビデオを作るのですが、それもSFC卒の人に頼んでいます。

今後のOCの展望などをお聞かせください
 今回の受賞によっても裏付けられたわけですが、OCのやろうとすることは、なかなか良いですよ、と認められたのだと思います。ただ、コンセプトとして書いたことがまだまだ実現されていません。例えば冒頭の六本の指の手袋ができたか、というとできていない。今後はそういう、具体的な形でやって行きます。
 
 open-clothes.comというサイトは、服を作るコミュニティという形では成功したと思っています。今5000人くらいの会員がいて、そこで作品が溜まったときに、ちゃんと着る人とつなぐ仕組みは、イベントではもうすでにやっていますが、ウェブ上でも本格的にやっていきたいと思っています。
 
 それと、「私サイズの服作り」というのをOCがテーマにしているのですが、それには二つ意味があって、服のサイズがちょうどぴったりというのもあるし、服の作り方に関するスタンスというのが私サイズというのもある。ちょっと関わりたいという人から、ブランドを作りたいという人までOCでサポートしてきたいと考えています。
最後にSFC生に一言をお願いします。
 個人的に感じるのは、SFCはやりたいことはやれる環境だと思う。研究室にお金はあるし、やろうと思うことは、どんどん大げさにやろうとすることが大事です。早いうちに信頼できる仲間を作って、何か始めてしまうのが良いというのが一つです。
 
 もう一つは、僕は卒業してから、服の専門学校に行ったのですが、全然環境が違うんですよね。というのも、SFCってある意味良い環境なんですが、すごく世界が狭いんですよね。社会というものの多くはそれ以外の人たちが作っている物だから、SFCというのは普通ではないというのを自覚したほうがいいのでは、と良くも悪くもそう思います。
ありがとうございました。