今回より、吉成慧恵さん(総・1)によるコラム「岩手の地から」の連載を開始いたします。このコラムでは今から数回に渡り、岩手県葛巻町の上外川で「森風カフェ」を作る試みについてのレポートをお届けいたします。


 私が大学に入学して最初の夏休みを過ごす場所は、岩手県葛巻町の山の中。もちろん携帯はつながらない。人家のない林道をどんどん進み、暗いトンネルをぬけると、赤い屋根の小さな小学校が見える。ここが森と風のがっこうだ。
 森と風のがっこうというのは、廃校を再利用した場所なのだが、つまり簡単にいうと、集まってきた人々が、やりたいことのイメージを共有し、一緒にやってみるというところ。今回は、その森と風 のがっこうに面白いコミュニティカフェができるということで、私はやってきたのだ。
 近年、東京でもカフェの数が随分多くなった。そこにはサラリーマンも、親子連れも、もちろん大学生の姿もある。きっと都会のあくせくした時間の中で、 ほっと一息つける場所を皆、求めているのだろう。
 それでは、集客率という面からして圧倒的に不利なこの土地に、なぜカフェなのであろうか。それはこの、簡単には来ることができない距離感こそに、人間 が本当に息抜きをできる場所を作ることができる、と森と風のがっこう代表の吉成信夫さん(実は私の父です)は語る。5級僻地に指定されるような山奥の中だからこそ、作ることのできるカフェには2つの大切な役割がある。
 1つはごちゃまぜのコミュニティとしての役割である。地域の方々、県内からきた人、東京から来た人が、例えば「ちょっとのぞきにきたんだ」とか、 「子供を遊ばせに来たんだ」とか、「東京の雑踏から逃れるためにきたんだ」だとか、みんなバラバラの目的をもってきたとしても、彼らは同じ空間を共有することができる。そして、この場所では後ろに流れる川で歌ってもよし、森の中でハンモックをつって犬と一緒にうたた寝をしてもよし、一人一人がやりたいことをやることで、ココロとカラダのリトリートもすることができる場所でもある。11世帯しかない、静かな異空間のこの距離があるからこそ、人間の深い、本当の休息というものが得られるのではないだろうか。
 2つめは、本当のスローを実現する役割である。東京でも「スローカフェ」は流行であるが、ここのスローは本物である。土地はがっこうの一部を借り、木材は捨てられた間伐材やそこらにある土や石。東京だったら、毎月高い土地代を払うために働く必要があるが、ここではそんな必要はない。必要最低限のもの がそろっているここは、ある意味「がんばらないカフェ」なのだ。カフェのメニューの食材も、隣の畑で採れた野菜を使い、卵も隣の傾斜で採れた物を使う予定だ。具体的なメニューの案として今のところあがっているのは、熱源を太陽、風力、バイオマス(うんこ)から選べるコーヒー・紅茶や、注文した人が、食べたい具を畑から採ってきて足すカレーなど、ユニークなものばかりだ。そして訪問者が残していった排泄物が循環して、また熱源として利用される。
 この案は、森と風のがっこうにきている人がみんなでアイデアを出し合って作ったものである。
おもしろそうでしょ?
さて、いよいよ明日8月7日(土)からは、カフェ作りの開始である!!