今週のCreators CLIPでは、荒木英士さん(05年環卒)が開発・運営をしているWEBサイト「話題の.jp」を取り上げる。「話題の.jp」は、あらゆるブログに書き込まれたクチコミ情報を集めてランキング付けする「クチコミメディア」だ。扱う「クチコミ」のジャンルは、ニュース、本・コミック、CD、DVD、テレビ、映画と多岐に渡り、日本のブログでどのような話題が流行っているのか、一目でわかるポータルサイトになっている。2005年6月よりオープン。

まず、「話題の.jp」とは何か教えてください。
 背景として、近年のインターネットは敷居が低くなって面白くなってきている、ということがあります。今までSFCにいて、SFCのインターネット環境は特殊だと言い聞かせながら生きてきたのですが(笑)、どうもインターネットがようやく一般にも浸透してきたな、というのが実感としてあります。
 またブログブームで、みんなが情報を発信しています。しかし、その情報があふれてきました。以前でしたら、クチコミ系サイトや、掲示板などにクチコミ情報が集まってきたのですが、最近みんなブログに書いているので、クチコミ情報が分散してしまっています。有益であろう情報がインターネット上にあふれ始めているのに、それが見えないのです。
 最近、CGM(Consumer Generated Media)という考え方が流行っていますが、今までCGMとしては、一箇所にクチコミを集めてくる感じで、ぐるナビ、オールアバウト、カカクコムなどがありました。
 しかし僕は自分でいきなりそのようなサービスを立ち上げても何なので、みんなブログに書いている情報を効率的に集めたほうがよいだろう、という考え方に基づいて、個人発のバラバラな情報を、収集・集約・整理・分析しようということになりました。かつ、それをどのようにメディアにできるだろうか、ということを考えました。メディアは、受け手が見ているだけで、おもしろい、読み物として価値がある、というものをいうのだと思います。それらを考えて作ったのがこの「話題の.jp」になります。コンセプトは日本中のクチコミのメディア化ということです。
 過去にはグルメ情報にクチコミを添える、というのはあったのですが、「話題の.jp」はクチコミ自体を面白いコンテンツするという感じで、提案したのは日本の中で一番初めなのではないでしょうか。
どのような経緯で作られたのでしょうか?
 ずっとサービスというものをやりたいと思っていて、前職でもサービス開発系、サービス提案系の仕事が回ってきて、僕がポータルサイトのコンサルティングをしたりとかしていたのですが、そこでいろいろなことを考えて企画書を書いても、基本的に企画書が実現されることはまれでした。なぜならば、先進的なサービスであればあるほど、普通の人にとってはどこが良いのか、わかりづらいからです。自分達で考えて、自分達で魂入れてやろうとしないと、思い通りのサービスというのはできないなということを感じていました。そのようなことに対するストレス発散という意味で、「話題の.jp」を作りました (笑)。
開発にどのくらいかかりましたか?
 夜と休日だけでやっていたので、ソースコードからだと、2ヶ月かかりました。
ブログはどの程度の数を集めてきているのでしょうか?
 日本の150万サイトをチェックしています。日本全体のブログ数は諸説あり、メディアには300万という数字が出てくることがあるのですが、それは単にいろいろな事業者のアカウント数を合わせた数なので、アクティブなブログの数ではありません。おそらく、日本のブログサイトで、それなりに一ヶ月に一度、2週間に一度更新されているというのは、たぶん150万200万の間だと思います。
ランキングページは何時間に一度更新されているのでしょうか?
 ランキングの集計は一日一度行っています。しかし、データの収集自体はリアルタイムでやっているので、特定の話題についてのページが並んでいるページは、15分に一度更新していますので、かなり新しい記事が出ているはずです。
記事のアーカイビングは何日間分くらいなのでしょうか?
 今のところサービス開始時からのすべての記事をアーカイブしています。容量にして20GBになります。最近データベースがやばくなってきて、なんとかしなければならないと思っているのですが。
話題のアーカイビングはしているのでしょうか?
 しています。ただ、サイトのコンテンツとしてはまだ見られないようになっています。
最近、総選挙特集やテレビ欄など、コンテンツを活用して、新しいサービスをしているようですね。
 先日の総選挙は、ネット上でのクチコミが話題になりましたが、「話題の.jp」では、総選挙に関する新聞記事、ブログのサイトを自分でピックアップしてきて、ランキングを作りました。
 おもしろい話なのですが、総選挙の時にネット上の論調を見てみると、最初から明らかに小泉が圧勝モードでした。ネットユーザは保守党が多いようですから、どうなのかなと思っていたのですが、後から聞いて見ると政治通の記者は民主党が勝つと思っていたらしく、なぜこのようになっているのか驚いているそうです。実はそのような政治に近い人と世の中の意見は乖離していたのかもしれません。むしろネット上の世論は一般の世論と近づいているのかもしれない、ということがわかりました。そのような立場からメディアを作るというのも面白いと思います。
 テレビ欄というものは、ブログからリンクが張られているテレビのオフィシャルサイトを引っ張ってきて、ランキングしています。
「話題の.jp」は、例えば「2ちゃんねる」などを見ない人などを中心に、純粋にネットで今何が流行っているのだろうということを知りたいライトユーザに受け入れられるかもしれませんね。
 そうですね。多分対象ユーザのイメージは、(リクルート社の)「R25」よりさらにリアルタイムに話題を知りたい人になります。ネットが好きな学生や、メディア関連の人には評判がいいですね。テレビ、雑誌関係、広告代理店の人にも良いのではないでしょうか。
 ネットのヘビーユーザを対象にしてしまうと、一般人にとって何も面白くないサイトが出来てしまうので、今回の場合は対象にしてきません。カテゴリとか、ユーザ層ごとのランキングなど。うまく分けられれば良いのですけれど。
今後の話題の.jpの予定を教えてください。
 映画やグルメ、町情報を増やすなどの拡充をやりつつ、もう少し初めて見た人にもわかりやすくしたいです。例えば「R25」は最初の方のページにいくつかニュース解説があって、一つ一つに見出し、そもそもこれは何なのか、どうしてこれはこうなのか、という説明があります。あれは非常に分かりやすいので、あのようなものもサイトの上で作っていこうと思っています。
 単にランキングというのは、その瞬間が分かるだけなので、「のまネコってそもそも何よ」、「エイベックス社長謝罪ってなんで謝罪しているのよ」、というのを、きちんと関連するトピックごとにまとめたいです。背景情報などを一つのコラム的なものにして、毎週話題をピックアップして更新して行けば、普通の人にとっても、追いつきやすい、面白いメディアになっていくのではないでしょうか。それらは手動で行っていきます。ライターを2,3人確保しました。
 とりあえず今のところ最低限目標を達成しましたので、次はさらなるメディア化ですね。普通の人が見ても、面白いと感じて定期的に見るサイトにしたいと思っています。
どのような体制で運営をしているのでしょうか。
 話題の.jpはメディア事業とマーケティングソリューション部というのがあり、メディア事業はサイトを盛り上げて行って、ページビューを増やし、広告収入を得るというモデルでやっています。
 メディア事業に関しては今後数ヶ月まず、ページビューを伸ばすということをやっていきます。その先に関してはいつ始めるか分かりませんが、カテゴリニッチな情報、グルメ情報や映画情報や縦のカテゴリごとのクチコミポータルを作ろうと思います。ただ、そのような情報は単なるランキングではなく、ぐるナビ、カカクドットコム、フォートラベルなどのようなものを、エンジンを使って作るというのが長期的な展望です。
 マーケティングソリューション事業部のほうですが、広告代理店やマーケティングコンサルタントを顧客として想定して事業を展開していきます。それらの広告代理店やマーケティングコンサルタントのクライアント企業に対して、ユーザのフィードバック調査、商品企画の際にモニター調査をしたりするときに、ネット上のクチコミを活用していただくようにします。
 コンサルティング会社や、広告代理店が、マーケットリサーチレポートというのを出していますが、その時のオプション商品として、ネット上のクチコミに関することが提供できるのではないかと思っています。既に現在2社くらいと話をしています。
 今後さらにネットでのクチコミ・評判というのは重要になってくると思います。先進的なところはやろうとしていますが、この分野でのネット上のクチコミの活用は、ようやく始まったばかりのところです。今のところ日本の大手企業は、ネット上のクチコミは無視していますが、遅かれ早かれ確実にそのようなクチコミを重視する時代が、来ると思います。そのようなときに、早く展開できるように、下地を作っていこうと思います。
印象としては、カテゴリを増やした後、コンテンツを拡充するために縦を増やすのだと思っていたのですが、逆なのですね。
 そうですね。なぜかというと、カテゴリを増やすには、カテゴリの情報を増やす仕組みが必要になります。例えば今はリンクを使っていますが、家電や物など、必ずしもリンクが張られないという状況というのもあり、もう少し基礎的な技術開発が進まないと、クチコミ情報を収集できません。
ブログが流行ってRSSによってWebの世界に可能性が増えてきたという印象を受けます。今後どのようなこの分野において、展望を持っていますか?
 RSSに関して、雑誌などでは「最新情報が一目瞭然」とか、「ニュースがすぐ配信されて便利」というように紹介されていますが、それは明らかに勘違いであり、本質ではありません。RSSはウェブ上のコンテンツが意味化することによって、誰によっていつ作られたか、何について書かれているのか、記事本文はどこなのか、という情報が意味的に判別できるようにするものです。
 今後、メタ情報が普及するというのは間違いありません。普及しきれば、クチコミサイトはいらなくなるはずです。ウェブ上にあるものを拾ってくれば、それなりのコンテンツになります。
 また、今までgoogleにしかできなかったものが、誰でもできるようになりました。ブログ検索エンジンというものが沢山でてきていますが、スケーラビリティとか、スピードを考慮すると難しいのですが、あれは誰でも作れるものです。それらを利用して、「話題の.jp」のように自分達でコンテンツを持たないで、情報を組み合わせることでメディアが作れてしまいます。
逆に言えば、誰でもできるということは、顧客の囲い込みを行わないと、すぐに真似されてしまいますね。
 そうですね。機能だけは誰でも作れるので、いかにユーザを囲い込めて、コンテンツの質が高いか、メディアとしての編集方針としてセンスが良いか、そこに依存する部分が大きいと思います。
ネット上のクチコミについて、展望をお聞かせ下さい。
 今はクチコミ情報というのは物を買うとき、レストラン探すとき、引越しするときなど、特定の消費行動の前のタイミングで見られますが、これからもっとニッチな分野にクチコミ情報が増えてくれば、例えば汐留に居て「1時間余った、さぁなにしよう」というニーズに答えられるような、地域ポータルが出てくると思います。あらゆる行動、消費をする時に、ぱっと見られるというのが、日本中にどんどん見られると思いますよ。
最後にSFC生へメッセージがあればお願いします。
 SFC生には、思いついたらとにかくやってみる、やりきってみる、ということを言いたいですね。思いつくことは誰でもできますが、実際にそれをやってみる、サービスとして作りこむというところまでやって欲しいですよね。
ありがとうございました。