前回のKFCで紹介した学生相談部門。今回のKFCでは、SFCの卒業生でもあるカウンセラーの貞安元先生にインタビューを行いました。そこで受けられるカウンセリングとはどのようなものなのでしょうか。


学生はどのような悩みを持って来るのでしょうか
 人それぞれなので一概には言えませんが、履修の悩みを誰かに聞いて欲しいと言って来る方もいるし、研究室の人間関係で来られる方もいます。恋愛相談で来られる方も時々います。あと3年、4年生ですと就職のことについて、院に進むべきなのか就職すべきなのかお話に来たり、1年生ですと大学に入ったけどなかなか周りと馴染めないですとか、初めての一人暮らしで困っているとか、そういった悩みが比較的多いですね。
 あとはそれらに関連する形で、それぞれの人がいろいろな悩みを抱えていて、悩みと言う形で表現できるものもあるし、凄く不安を感じてくる人もいる。精神科領域に関わるか関わらないかという方が来る場合もあります。
悩みを抱えた学生にはどのようなカウンセリングを行うのでしょうか
 基本的には話を聞くと言うやり方をとります。ただその人によって関わり方というのは多少違いが生じます。具体的に申しますと、ある程度こちらに助言がもらいたいとか、方向性を与えて欲しくて来る方にはそういう形で応じる場合もあります。しかしそういう求めがあっても、その人自身がゆっくりと自分自身に向き合うべきだろうなという場合もあります。その時は話し合った上で助言などはあまりせず、あくまでその人が自分自身について考えていくのをお付き合いする形をとります。自由に話して戴いたことをゆっくり聞きながら、こちらが感じたことをお伝えして、そのことについて一緒に考えていくというような関わり方をしていきます。
秋学期になってやる気が出ないという学生が多い気がするのですが、良い対処法はありますでしょうか
 基本的にはどういうことで困っているか、その背景についても話を伺って深く話し合っていかないと難しいですね。例えば大学に入った経緯だとか、学校に入って本当にそこが自分の居場所なのかどうか、悩む人もいるし悩まない人もいます。悩む人の中にもそれぞれどうして悩むのかというのはその人によって全然違いますし、なかなか表面だけのものではわからないこともあります。やる気のないことが今初めて生じたのか、それともずっと前からあって、その原因がさかのぼって考えることが出来るのか、これも人それぞれです。
 あとは、やはり大学生になって青年期ですからね。これからどうすべきなのか考える時期だし、今までのやり方が上手くいかなくなってつまづく方は必ずいます。やはりそういった場合には何回かに分けてじっくり聞いた上で、簡単なアドバイスといったもので良いのであればすることもあります。その人自身がこの時期になってゆっくり自分を見つめ直し、これからのことを考えるべきなのであればそれをお伝えした上で、じっくりと何回もお話を聞くことはあります。その場合はその都度、適切な形で来ていただくこともありますし、中には数年間毎週のようにいらっしゃる方もいます。本当にその人の状況によって千差万別ですね。
何回ぐらい来るものなのでしょうか
 これもその人によって違います。一回だけ来てもういいです、という人もいます。来てみて思ったのと違ったからもういいです、という人も中にはいます。あとはちゃんと知った上で関わったほうが良いなという場合には、まず3回か4回お会いします。その中でどういうことで困っており、その方がどういう方かというのをこちらが理解した範囲内でお伝えします。そして課題に取り組んでいくため、こういうお手伝いが出来ますというのをお伝えします。その上でじゃあ続けて行きましょうと続けていく方もいますし、そこでいいですという方もいます。とりあえずやってみた上で判断して、その上でどうするかを決めています。
友達にどういうアドバイスをすればいいのか相談に来る人はいるのでしょうか
 そういう相談は多くはないのですが、少なからずあります。引きこもりに限らず、すごく不安定になっているお友達がいるので、どうすればいいんですかなどです。一般論ではなかなか上手くいかないことで、お友達として何かしてあげられるというのは限られている場合が多いんです。すごく力になれるのは確かなんですが、必ずどこかで限界が来る場合があります。特にお友達の状態が凄く不安定であったり、あるいは医学的な意味での鬱状態だとか、そういう場合にはある程度専門家が関わってあげないと逆に不安定にさせてしまうこともあります。やはりお友達だからなんとかしてあげたいなと思うんですけれども、頑張っても応えてくれないとか、何かしてあげようという側がすごくストレスがたまってしまったり、自信がなくなってしまうこともあり、なかなか難しいと思います。
貞安先生はSFCの卒業生とお聞きしましたが
 93年に入学しました。
昨年のホームカミングデイには出席されましたか
 行ったことはありません。こういうところでお会いしている学生さんもいらっしゃるので、そういった場所で素の僕と会うとびっくりされる方もいます。普段この部屋の中でしか会わないので、あまりそういうところには出て行かないようにしています。
SFCらしさとは何だと思いますか
 個人的な感想を言うと、いろいろな人がいるのと、他のキャンパスよりも何か目的を持っていらっしゃる方がいる。あるいは目的がなくてもそういう目的意識を培うことが出来る場所かなと思います。ただ逆に言うと専門分野があまりはっきりしていないので、目的意識を持って現場で活躍されている方もいる一方で、そういう刺激に晒されつつも、なかなか専門もはっきりせず、自分は何をやっているのかと悩む場合も多いのではないでしょうか。
貞安先生は学生の頃からカウンセラーを志していたのでしょうか
 興味はありました。ただ心理学の専門的な勉強はしていませんでした。今はもうお亡くなりになられてしまいましたが、僕らのときは小此木啓吾先生(編注:元環境情報学部客員教授)という精神分析の大物がいたんです。そのときはまだ別の分野の勉強をしていたんですが、進路を考える段階で小此木先生とちょっとした出会いがありました。そこで、この方向に進んでみないかと言われ、大学院に進みました。
心を健康にする上で推奨していることはありますか
 僕もあったら知りたいですね(笑)。本当は体もそうだと思うんですけれど、心に関しても本当にその人の課題に取り組んで解決するための処方箋というのはありません。人それぞれなのであまり客観的に、こういう場合はこうしたら良いというのは言えないのではないかと思います。そういう質問でなかなか良い答えはありません。
やはり悩んでないで相談するということが大切なのでしょうか
 カウンセリングというと響きが良いですけれど、なかなか大変なんです。シンプルな解決策はないということに気付かされると思うし、ゆっくり取り組むとなると、言いたくないことだとか、考えたくないことだとか、あるいは自分の限界とかに直面せざるを得なくなります。実際にやっていくと凄く大変だし、大変だからこそ意味があるんです。