人と人の繋がりは、行為を介して生まれる。そんな視点で制作されたモノの貸し借りシステム、BOZAAR。カメラ付き携帯で、モノの貸し借りの記録や管理ができるサービスだ。制作した加藤貴之さん(政・メ)に、制作の意図や制作中のエピソードを聞いた。


 モノの貸し借りを支援するBOZAAR。誰かからモノを借りたい時は、借りたいモノを頭の上に掲げる「冠スタイル」をとり、貸し手に携帯電話のカメラで写真を撮ってもらう。その写真をメールでBOZAARへ送ると、「借りたモノ」と「借りた人」を自動的に登録してくれる。返す時は、逆に貸し手が戻ってきたモノを頭の上に掲げて写真を撮ってもらい、BOZAARにメールを送ると、返却完了となる。返し忘れていると、リマインダーが送られてくる。
 貸し借りの記録は、WEB上で誰でも閲覧できる。記録を見て、「あ、この人はこんなモノも持ってたのか、借りてみよう」といった気づきが生まれ、新たな人間関係が広がるかもしれない。既存のWEBサービスとは一味違ったサービスだが、なぜ加藤さんはこういったサービスを作ろうと思ったのか聞いた。
BOZAARを制作されたキッカケを教えてください。
 僕はもともと人間関係に興味を持っていました。大学に入った頃から、ベタベタした関係じゃなく、サバサバした関係を作る場所、公園みたいなものを作りたいなと思っていました。
公園というと?
 公園みたいな場所で、普段無関心な人と人同士が、小さなキッカケで繋がれるような場所を作りたいと思っていました。実際、石川幹子研究会で、水辺空間のデザインをやったりしたんですけど、もともとコンピュータを使うのが好きだったこともあって、萩野達也研究会(萩野研)に入ったんです。
 そこでは、2年くらいかけてミクシィみたいなものをずっと作り続けてました。ミクシィで生まれる人と人とのインタラクションっていうのは、ただ単に日記を交換し合うだけなので、それはつまらないなと思ったんです。だから人を実際に動かすようなSNSを作りたいと思いました。それで、学部の頃には、大学生に対してアドバイザーを見つけてアドバイスさせる、例えば建築をやりたいと思っている1年生が入ってきた時に、建築を勉強してる学生がアドバイスをしてあげるようなSNSを作ってました。
 人と人とのインタラクション、関係みたいなのに興味があって、大学院からは中西泰人研究会(中西研)にメインの活動の場を移しました。そこで改めて考えたのは、ミクシィの中で「友達になってください」ってお願いするけど、現実的にはそういうことってないですよね。
友達って頼んでなってもらうものではないですよね。
 それこそモノを貸しあったりとか、アドバイスをしたりだとか、人間関係はそういう実際のインタラクションを通じ々生まれていくので、そういうものを作ればいいんだなと思いました。で、モデルにしたのは日本の田舎です。
田舎でのコミュニケーションをモデルにしたんですか?
 僕、休みの日になると時々田舎に行くんですけど、お店で蕎麦を食べるだけでご主人と仲良くなって会話が弾んだりするんです。モノを買うとか道を聞くとか、そういった経済的な繋がりがキッカケで人と人との繋がりが生まれる。そういう発想がBOZAARに繋がっていきました。だからBOZAARは人と人がモノをやり取りしたりすることと、人と人が繋がるということはほとんどど同じなんじゃないかという観点でデザインをしています。
 これを今の情報技術で考えてみると、モノをやりとりするっていうのはアマゾンやヤフオクなどのeコマースのサイト、人と人との繋がりっていうのはSNSですよね。だから、実はアマゾンとミクシィは同じものなんじゃないか、区別する必要はないんじゃないかという視点でBOZAARは生まれました。
 なんで貸し借りに注目したかと言うと、小学校の時に、女の子に消しゴムを貸してあげたことで仲がよくなって、そこから授業のノートを貸し借りしたりっていう繋がりが生まれるみたいに、ちょっとした経済的な関係から人と人との繋がりが生まれるといいかなと思ったからです。
それこそ、建築など、別のアプローチの仕方もあったのではないかと思うのですが、あえてWEBサービスという形で表現しようと思ったのはなぜなんですか?
 モノの貸し借りとか、人と人との繋がりを繋ぐためには、誰が何を持ってて、その人がどういう人と知り合いなのかという情報は必ず必要ですよね。情報の役割がすごく大きい。
それを一番表現しやすいのがWEBだったと。
 そうです。情報はすごく伝わりやすくて、どんどん伝播していくけど、モノは固定的で一つのところに留まるから、モノの移動と情報の移動を組み合わせるとバランスのいいものが出来るんじゃないかと思いました。
 ミクシィはかなり情報に偏ってるじゃないですか。だからどうしても、人と人との繋がりが散漫になりがちだと思うんです。逆に建築とか、情報システムなしに表現しようとする場合、例えば僕がこの教室にお店を開いたりすると、それはそれで、ほんとに村になっちゃうので(笑)村だと、やっぱりコミュニティとして閉じてしまう。ミクシィだと逆にダラーっと開きすぎちゃうと思うので、その中間くらいを目指したいです。そういうバランスが大切なんじゃないかと思います。
制作期間はどれくらいですか?
 BOZAARというものを考えてから今に至るまでは1年です。ただ、BOZAARの根底になっている、人と人とのやり取りを仲介して、そこから誰が何を持ってるとか、誰と誰が知り合いかという情報を導き出すモデルを作るのにもやっぱり1年くらいかかりました。
BOZAARという名前の由来は?
 BOZAARの由来はバザールからきてます(笑)ボっていうのはborrowのボです。あと、実はダブルミーニングで、BOZAARってフランス語で美術品って意味なんです。BOZAARは写真を撮ってモノを貸し借りするシステムですけど、写真を撮ることで、名前をつけられないモノやワンアンドオンリーなモノも表現できる。世界に一つしかないものを貸し借りの対象にする、そういうことができないかと思ってBOZAARという名前にしてます。モノを一つ一つの美術品みたいな感じで扱おうと思って。
写真を取る時のポーズは、なぜこのポーズになったんですか?
 インタラクション的に大げさにしようと思ったからです。というのも、最近電子マネーによってモノを売る側と買う側のインタラクションが少なくなったなと思うんです。カード置くだけじゃないですか。そこで買う人と売る人っていう関係がすごく希薄になってるんじゃないかと思って。ここでもう一度身体性を取り戻したくて、ものを売る人と買う人の立場をもうちょっと体で表現するためにポーズをつけました。
 ポーズは色々考えたんですけど、モノを借りた人が「モノを借りたぞー!」と言える様な、華々しいポーズにしたかったんです。これってワールドカップをとった時にサッカー選手がとるポーズなんですよ。で、ものを獲得したみたいな喜びを表してもらいたいなぁと。こういうのはちょっと馬鹿馬鹿しいくらいがいいかなと思います。
やってて楽しい方がやる気がおきますからね。
 そうですね。ORFの時に「これやって元気が出た」って言ってもらって、嬉しかったです。結構、「テンション上がった」とか言っていただきました。
そのほか、周りからの反応はどんなものがありましたか?
 「使う人を選ぶね」って言われました。僕の研究室ではこういうことをやっても大丈夫だけど、もうちょっと落ち着いた雰囲気の企業とかでこれをやれるかというと難しいですよね。やる組織というか、コミュニティを選ぶかな、と。
制作中に苦労したことなどはありますか?
 実装すること自体は、学部時代から結構やっていたので苦ではなかったです。難しかったのは、モデルを設計する部分で、どういう情報の流れを作り出そうとか、それを通じてどういう人と人の流れやモノの移動を作り出すかということを考えることですね。既存のeコマースやSNSを作るのではなく、全く新しいシステムをゼロから作らなきゃいけなかったので、そこは大変でした。
 さっき田舎をモデルにしたと言いましたけど、田舎にちょくちょく行ってもすぐに田舎の本質がわかるわけでもないので…。本がすごく参考になって、人類学の本で弥生時代や縄文時代に人はどういう交易をしていたのかを学んだり、社会学や経済学、経営学の本も読みました。
 こうやってものを作ってますけど、実は考える方が好きで、ほっとくとずっと考えちゃうタイプなんで、考えるほうと作るほうバランスよくやりたいなと思ってます。
萩野研から中西研ということで、実装をバリバリやっておられそうなイメージがあったのですが、意外と考えることがお好きなんですね。
 研究会のような場に自分を置かないと、なかなか作り出さないなぁと思うので(笑)考えたり勉強するのは自分でも出来るかなぁと思って。デザインはそのバランスが重要だなと思います。ただ作るだけでもダメだし、でもモノがないと説得力がないから考えるだけでもダメだなと僕は思ってます。
考える方も疎かににしちゃいけないということですね。
 そうですね、何でそのものが必要なのか、何故それを作りたいのかってことを論理的に説明するのが一番重要だと僕は思ってます。
BOZAARを制作してみて、得たもの、分かったことはありますか?
 実際に作って、他人にちゃんと使ってもらったものはBOZAARが初めてなんです。今までは、「こんなもの作ったので、実験なのでお願いします」って言って使ってもらってたんですけど、BOZAARは「もしよかったら使ってください」と言って、何回か使ってもらっています。研究だから、学生をゴソっと集めて使ってもらう手もあるんですけど、お願いして使ってもらったんじゃ、人と人との繋がりを作るという意味が無くなってしまうので…だから、使ってもらうのは大切だなと実感しました。
ORFで知名度が上がったのではないかと思うんですが、ORF前と後では周りの反応は変わりましたか?
 ORFを見たからか、研究の現場を見たからかは分からないんですが、知り合いが「貸し借りのやつ実際に動いてるの?」とか声をかけてくれたりします。認知度が上がってるなという意識はあります。ただ、まだちゃんとしたシステムを作ってないんで、あんまり人がたくさん来られても困るっていうのはあります(笑)まぁ程ほどに、僕から広めて行けばいいかなぁと。
 
 こういうシステムってやっぱり作った人から広めるのが一番かなと思ってます。自分から段々コミュニティを広げていくと、ユーザーに対する安心感があるし、どういう風に使われてるのかという反応がわかるので良いです。
今後もバージョンアップは続きますか?
 もちろんします。今は人と人が普通に貸しあう、既存の貸し借りを支援してるけど、今後は本棚から借りるってシステムを作りたいです。本棚にアバターを置いておいて、本棚から本を借りる時はそのアバターに写真をとってもらう。で、アバターがメールを送るといったようなシステムを中西研で作ろうということになってます。
 あと、夢としては既存の社会システムを巻き込みたいなと思っています。ツタヤからモノを借りる時に店員がこのポーズを取ってくれたり(笑)あと、宅急便を巻き込んで、配達員の人がまた貸しする形で配達してくれたり。また貸しって今まで悪いことだと思われてたけど、BOZAARを使うことでまた貸しに対する罪悪感がなくなるみたいな社会を作りたいですね。
また貸しされたルートがわかっていれば安心感がありますからね。
 そうですね、そういうのはやっぱり情報の問題だと思ってるんで、うまく情報システムが支援してあげることでまた貸しもよくなると思ってます。
 あと、システムとしてかっちりしたものを作って、ちゃんと運用していきたいです。僕は来年から就職してSEとして働くので、そこで大規模なシステムの運用を学びながら、BOZAARをちゃんと開発していきたいし、実際使ってもらうためのプロモーションもちゃんとしたいと思っています。
卒業後も改良は続けていきたいと。
 そうですね、中西研として。
これからBOZAARを使う人へのメッセージをお願いします。
 今まで忘れていた、物をやり取りする時のドキドキ感を思い出して欲しいです。コンビニやアマゾンが出来たりして、モノを手に入れるのが簡単になったけど、やっぱり、狩りをしてた頃の自分を思い出して欲しいです(笑)狩をして、弓矢で動物を捕まえてやっと夕飯にありつけるみたいな、モノを手に入れる感動を取り戻してほしいということ、そして、人と人の出会いをうまく結び付けたいというのが僕の目標です。