夏の恒例となっているSFCのオープンキャンパスが先日行われた。普通の大学とは全く違う「SFCらしさ」に衝撃を受けた来場者も多いのではないだろうか。今回のCLIP Agoraでは、SFC開設当初から見られる「衝撃のSFCらしさ」の正体を語ってもらった。

「SFCの衝撃」 梅沢由香里さん (96年環卒、女流棋士)
 私が学生時代を過ごしたのはもう15年以上前になります。大学ができて本当に間もない頃。入学した時は3年生までしかいませんでした。「SFCらしさ」ということですが、もうずいぶん時間が経ってしまったので、当時と今とではだいぶ変わったかもしれませんが、思い出してみたいと思います。
 受験前に訪れたキャンパスは、余計な装飾がほとんどないコンクリートを打ちっぱなしにした校舎に目新しさを感じました。中をのぞくとずらりと並んだコンピューターや電子機器を当然のように操る学生の姿がありました。今では日常的にあるパソコンも当時はほとんど普及していなかったので、なるほど最先端といわれるキャンパスとはこういうものか、と衝撃を受けました。
 入学してみると今度は第二の衝撃がありました。それは「人」。帰国子女が多かったためかしっかり「自分」をもった人ばかり。留学経験もない私には普通の会話をしていても驚きの連続でした。「私は証券アナリストになりたいの」と将来設計をしっかりしている人や、普通に話していても自分の主張をはっきり伝える人が多く、最初はこの中でやっていけるのだろうか、と少々不安もありました。
 少し時間がたつと、いつのまにか大学に通うことをとても楽しみにしている自分がいました。いろんな面で強く感じた友達も、実は同じように何をしたいのか悩み、時に恋に悩む普通の学生。様々な環境で育った学生たちと交流することは大きな刺激であり、日常的な会話一つとっても楽しくて仕方ありませんでした。
 3年生までしかいなかったキャンパスは、サークル活動も何もかも新しく、やりたいことがあれば何でも可能な環境でした。その自由な雰囲気からか、キャンパスはエネルギーにあふれ、学生たちは皆とても生き生きとしていました。中には朝サーフィンをやってきたよ、なんて語る学生もいて、遊びたいときは遊び学びたいときは学び、それぞれ自由に学生生活を過ごしていました。
 それにしても最初の頃は授業が難しくて閉口しました。横文字も多いし、話も専門的で理解するのが難しい。しょうがないから朝早く行って課題図書を読むものの、耳慣れない言葉が多いため、数ページ読んでは元に戻る、というありさまでした。
 でも、学びたいものがはっきりしていた学生にとっては最高に面白い場所だったと思う。一つのことを深く学びたければいくらでも環境は整っている。そして、広く様々なことにチャレンジすることも可能でした。私は後者のタイプでした。
 
 在学していた4年間、私自身は迷いの時期でもあり自立のときでもありました。子供の頃から囲碁ばかりをやっていて、気がついた時にはプロを目指していた、それまで学校と囲碁の世界しか見てこなかった私にとって、様々な価値観をもった学生たちから溢れ出すエネルギーは非常に刺激的でした。ただ、その刺激が楽しすぎて、当時思うような結果が出せなかった囲碁から心が離れていった時期もありました。自分には他に向いていることがあるのではないか、もっと他に楽しいことがあるのではないか‥。
 そんなことを考えていた時期だったから、いろんなことに挑戦できる環境は非常にありがたかった。政治、経済、プログラミングからCMを作る授業まで、ちょっとやってみたいな、というものはほとんどすべて整っていた。経験しなくては決断も難しい。たくさんの経験をして4年生の時(当時は就職活動を始めるタイミングは今より遅かった)、やっぱり私は囲碁の世界で生きていきたい、と初めて自分の意志で強く決断できたのでした。自分で出した決断は深い集中力を生み出し、結果を出すことにつながりました。
 そんな学生生活を過ごしてきた私が感じる「SFCらしさ」ですが、「何でも受け入れる広さ」と思います。専門的にしっかり学びたい人も私のように将来をどうしたいか悩んでいた人も。本人次第でどんな過ごし方も可能です。私の場合は自分で自分の心を把握する場でもありました。プロの道に進むのに大学は必要か、と思われるかもしれないけれど、あの時期をあの環境で過ごせたからこそ、プロとしてやっていきたい、という強い思いが芽生えたのだと思います。
 学生時代に学んだことと今やっていることと何がリンクしているのだろう、と時々思うけれど、どこかでSFCの精神が根付いているようです。
 「自分で問題を発見し解決する」
 
 今囲碁界は、娯楽が多様化してきた中で新しい局面を迎えています。1500年に及ぶ日本文化をどう豊かに継承していくか。社会人になって十数年、これからがまた大切な時期でもあります。いつのまにか私に根付いたSFCの精神が生きてくる時かもしれません。

☆♪☆「あの人に聞きたい」を大募集!☆♪☆
 「CLIP Agora」では、これまでに様々な方々から「SFCらしさ」を語っていただきました。
今回編集部では今後の企画の参考とさせていただくため、皆さんが登場してほしいと思う「あの人」を募集いたします。なお自薦・他薦は問いません。
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