SFC創設20周年企画。SFC生のみならず、OB・OGや教職員の皆さんから様々な「SFCらしさ」を語ってもらう「CLIP Agora」。多少図々しくないと、SFCでは生きていくのがつらいよね。でも、相手の気持ちも考えて礼儀は大切にしなきゃいけないんだぞ!


「何という、図々しさ(笑)」
伏見学さん(アイティメディア株式会社)

2002年環境情報学部卒業、2004年政策・メディア研究科修了

 私がSFCに入学したのは今から11年前の1998年。長野冬季オリンピックに始まり、サッカー日本代表のFIFAワールドカップ・フランス大会出場、松坂大輔投手を中心とした横浜高校の甲子園春夏連覇、地元球団である横浜ベイスターズの38年ぶり日本一(私は中日ドラゴンズファンですが)と、スポーツの話題が尽きない1年でした。
 そんな年にSFCの門をくぐった私ですが、入学後すぐさま衝撃を受けることになります。入部した野球サークルではほとんどの先輩が自分専用の車を持っており、メンバーを練習や試合のグラウンドまで運んでくれました。中には高級車を乗り回している先輩もいて「やはり慶應ボーイはすごいな」と眩く見えたものです。
 アドバイザリーグループ(アドグル)による「フレッシュマンキャンプ(フレキャン)」での体験も強烈でした。私が所属していたアドグルでは、毎年フレキャンの夜に1年生が上級生やOBの前で将来の夢や打ち込んでいることなどを思い思いに語る場が設けられていました。私の稚拙なプレゼンに対して、同級生たちはハイデガーやフーコーといった哲学者の話や、プログラミング言語などの技術論、地方自治体の政策に対する自身の見解など、“ごく普通の"高校生活を送っていた私にとってはまるで見聞きしたことのない話題を熱弁していました。「SFCの学生ってとんでもない人たちばかりだ」と痛感しました。
 しかし、そうした衝撃も学生生活を送るにつれ薄らいでいきました。SFCは優秀な人や異色な人、あるいは帰国子女だらけというイメージがありますが(実際に多いわけですが)、もちろん一般的な学生も山ほどいます。誤解を恐れずに言うと、上述したように世間のイメージも手伝ってか、多くのSFC生は「自分たちは変わり者だ」「われわれは特殊だ」と思っている節があります。実は私にも経験があります。日吉や三田のキャンパスに通う友人と話をしたとき、何の気もなしに「うちの学校は家に帰らずに教室に寝泊りしている人が多いんだよ」とか「うちの大学は周囲にご飯を食べる店が少ないんだよね」などと発言していたら、「うちの学校って、同じ慶應義塾大学だよ…」と指摘されました。同じような経験を持つSFC生は多いはずです。
 多種多様な人材があの閉ざされた小さなキャンパスの中で混ざり合うことで、独特の文化を作り上げているのではないでしょうか。私にとって「SFCらしさ」とは、こうした文化が育んだ「同胞意識」です。
 この同胞意識というのは、学生時代よりも卒業して社会に出てから直面する機会が多いです。象徴的な例を1つ。以前ある企業の社員をインタビューした際、たまたまその方がSFC出身だったので、こちらも素性を伝えました。その後、同社の広報から別件で取材依頼が来たとき、その広報の方は初対面にもかかわらず情報をつかんでいたようで、「伏見さんがSFC出身だとお聞きしました。私もなんです。何年入学ですか?」と開口一番聞かれました。たとえ初対面や立場が違う人でも同じSFCだと分かればぶしつけな質問もできる図々しさ、相手にもそれを受け止める寛容さがあると思います(最低限の礼儀は前提です…!)。ちなみにその広報は同級生であることが判明し、大いに盛り上がり、その後の仕事がスムーズになりました。
 同胞意識による人のつながりこそがSFC生の強みだと感じています。実はこのコラムの寄稿依頼も、この4月に入社したばかりのSFC出身の新卒社員から受けたものでした。いきなり「SFC CLIPに原稿を書いてもらえますか」という具合できたので、こちらも断るわけにいかず了承しました。すると、数分後にはSFC CLIPの担当者の方から依頼メールが飛んできました。何という図々しさ(笑)。