ORF2日目の18:00から、プレミアムセッション「Scannning the Earth -科学技術の未来-」が行われた。ORF2011のトリともいえるこのセッションは、会場は満席となり、中継会場へ移動した参加者もいる程、注目を集めた。


■パネリスト
・伊藤穣一氏(マサチューセッツ工科大学メディアラボ所長)
・村井純環境情報学部長
 セッションは、伊藤氏と村井学部長の立ち上げた放射線測定プロジェクトについての話から始まった。伊藤氏は東日本大震災発生当初アメリカにいたが、あえて帰国することなくその場で情報収集・発信を始めたという。その情報収集の過程が、村井学部長が行ってきたセンシング研究とのコラボレーションにつながったと、プロジェクト開始までの経緯をセッションで明かした。

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測定プロジェクトの話でもっとも大きく取り上げられたのは「オープン」というキーワード。このプロジェクトは、様々な分野の有志がインターネットでつながり、各々がオープンにアイデアや情報を共有し発展した。伊藤氏はオープンハードウェアも今回のプロジェクトを支えたと話した。実際にガイガーカウンターを購入するだけでなく、設計・作成も行い、図面を公開することで測定したい人により広くリソースを提供したという。村井学部長は、インターネットとともに広がったオープンソフトウェアと同様に、オープンハードウェアにも期待を寄せていた。

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そして話は測定後のデータについてに移っていった。測定後のデータもオープンな、誰でも利用可能な情報を目指しているという。村井学部長は、現在も公開されているデータは多くあるが、使いづらい形式などで公開されているものが多いと主張。実際にアプリケーションやデータ集計で利用できる、本当の意味で「使える」データは少ない、と問題点を指摘した。
 放射能測定においてだけではなく、医療や学術においても情報共有・公開の可能性は大きいと村井学部長は続けた。大量の症例データを統計してまとめることで、新しい治療法や病因を導き出すことができたり、学術ジャーナルをオープンにやりとりすることで、創造を誘発することができたりするなど、可能性が広がる。また、伊藤氏はインターネットで瞬時に情報交換可能になったことで、従来の知的財産への考え方は通用しないのではないかと語った。書籍ベースの時代に作られたルールを、情報の流れが大きく異なったインターネットの時代に運用すると、ビジネスだけを保護し、創造性を損ないかねない。そのため、現代の利益と実態にかなった制度が必要だと呼びかけた。
 これらインターネット時代の問題について、伊藤氏は技術者がもっと政策の場で活躍することが必要と話す。実際に技術を理解し、時代にあった政策を立てることが求められている。また、参加者との質疑応答の中で村井学部長も「ITは人と社会が評価になる分野。IT技術者がこれからは政治、社会に責任を持つべき」と未来を展望した。

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最後に、伊藤氏は「大学外でも学び、大学内でも学位や資格を目的とせず、純粋に学ぶことを追求してほしい」と学問について述べた。また、村井学部長も「先人の知恵から学ぶ、人から学ぶ。学ぶことはコミュニケーションにつながる」とつながりと学びについて述べた。「学問ノシンカ」をテーマとしたORF。参加者にとってこのセッションは、両氏が考える「学問ノミライ」を感じさせる貴重な時間になったことだろう。