22日(日)、アーツ千代田3331(東京都千代田区)で、鈴木寛研究室(すずかんゼミ)のプロジェクトの一つでもあり、SFC生も多く関わる中高生向けウェブメディア「青春基地」のローンチイベントが行われた。ウェブサイトのリリースがイベント内で行われたほか、青春基地のためのアイデアワークショップも開催。SFC CLIP編集部は、SFC生に焦点を当てつつイベントの様子をお伝えする。

青春基地ロゴ 青春基地ロゴ

「中高生が自分のやりたいことをやれるように」と代表 石黒さん

イベント冒頭では、青春基地代表の石黒和己さん(総3)から立ち上げの経緯が語られた。石黒さんは高校生のころからさまざまな活動を行い、若者の政治参加を促進するNPO法人「僕らの一歩が日本を変える。」では国会議員と高校生が議論するイベントも運営してきた。また高校では新聞を書いて卒業旅行の費用を稼いだこともあるという。「そのときの経験が今のメディアへの関心につながっている」と石黒さん。その後、AO入試でSFCの総合政策学部に入学した。

高校生のころの石黒さんにとって「やりたいと思えば、何でもできる」というのが普通だった。しかし、高校2年生で初めて参加し、その後運営にも関わり始めた中高生向けキャリア学習プログラムの「カタリ場」(NPOカタリバ主催)で、多くの中学校・高校を訪れるなか、自分とは違って「やりたいことができていない」中高生の存在に気づき始めた。自分を卑下するような言葉、自分や自分のやりたいことを諦める言葉を多く聞き、生まれ育った環境によって意欲や能力が閉じ込められているように感じたのだ。

そこで石黒さんは文京区青少年プラザ、通称「中高生の秘密基地b-lab(ビーラボ)」を今年4月にオープンさせた。「高校生のうち72.5%が自分をダメだと思った経験があるというデータがある。そういう現状を変える『秘密基地』 をつくりたいと思った」という。石黒さんは文京区の中学校・高校向けのフリーペーパーで、中高生自身が執筆する『cha!cha!cha!』の創刊にも関わり、中高生のメディアプロジェクトも支援してきた。

なぜウェブメディアか 「ミクチャ」に見出した可能性

これまでさまざまな形で中高生のプロジェクトを支えてきた石黒さん。なぜここで中高生向けのウェブメディアを立ち上げようと思ったのか。「多くの中高生と関わるうちに、あまり年の離れていない中高生とでさえ、ネット文化に自分と違いがあることに衝撃を受けた」という。「皆さんは個チャ、グルチャ、スタ爆という言葉を知っていますか?」と会場の大人に問いかける石黒さん。「それぞれ個人チャット、グループチャット、スタンプをとにかく送るって意味なんですよね。彼らとほんの少ししか離れていないのに、わからない言葉ばかりです」。

さらに石黒さんは中高生の間で大きな流行をもたらしているアプリにも注目した。スマートフォンで撮影した10秒の動画を共有できる「MixChannel」だ。しばしば「ミクチャ」と略されるこのアプリは、ユーザのほとんどが10代女性で20代以上にはあまり知られていない。石黒さんはこのアプリを見て、ユーザーが単に情報の受け手となるだけではなく、配信側にもなりえる仕組みがあるインターネットの可能性をより感じたという。そこでウェブメディアの立ち上げを思いついたのだ。

その後、すずかんゼミを聴講していた相川茉生さん(総1)が参加し、神長倉佑さん(総2)もエンジニアとして参加した。こうして本格的にプロジェクトが始動。リリース前日の21日(土)には、東京ミッドタウンで行われたSFCの研究発表会であるORFのすずかんゼミのブースでポスター展示もおこなった。初回記事の一部は現在SFCを休学中の千葉雄登さんによって書かれた。

リリースの瞬間 リリースの瞬間

中高生が企画から執筆までのプロセスを通して学ぶ

青春基地では企画、依頼から、取材、執筆、発信までを中高生自身が行う。イベントでリリースされたウェブサイトは現在5つのコーナーで構成され、著名人のインタビューもあれば、さまざまな学校の注目ニュースもある。全国の10代からの寄稿や高校生が青春を楽しむためのまとめガイドも継続的に掲載していくという。

今回のイベントではリリース後にアイデアワークショップも行われ、会場のテーブルごとにさまざまな世代が青春基地のコンテンツを考えた。学校ごとの「あるあるネタ」を動画で投稿してもらいコンテストをするというアイデアや、ほかのメディアでも引用されるような社会的関心の高い10代の実態を書いてみるアイデアなど、多くのユニーク企画が発表された。中高生自身が自分の手でこのような独創的な企画を立ち上げ、取材し、メディアとして発信していく経験を通して、「想定外の未来をつくっていけるようにしたい」と石黒さんは語る。

イベント中にリリースされたウェブサイトは、中高生の利用率が高いスマートフォンにも対応できるようレスポンシブデザインで設計されている。サイトデモも、あらゆるスクリーンサイズに対応できることを強調するため、スマートフォンに近い縦横比で行われた。

スマホの縦横比でのサイトデモ スマホの縦横比でのサイトデモ

代表の石黒さんを「いい子すぎなのが問題」と鈴木寛教授

イベント終盤には、鈴木寛総合政策学部教授とNPOカタリバを運営する今村亮政策・メディア研究科非常勤講師(SI)、そして青春基地代表の石黒さんによるトークセッションが行われた。鈴木教授は指導教員として、今村さんはカタリバのスタッフとして、長い間石黒さんを見守ってきた。「今ツイキャスで会場の様子を見ているかもしれない和己ちゃんの彼氏と同じぐらい、青春を駆け抜けている彼女を知っている」と今村さん。石黒さんや青春基地にまつわるざっくばらんなトークが行われた。

左から石黒さん、今村さん、鈴木教授 左から石黒さん、今村さん、鈴木教授

 「カタリバ」「すずかん」「ぼくいち」濁点を一文字含む3,4文字がベスト!?


冒頭、今村さんは「すずかんゼミ」と呼ばれはじめた経緯を鈴木教授に質問。鈴木教授によれば、当初からすずかんゼミと呼ばれていたわけではないそうだ。鈴木教授はSFC着任当初、故・加藤寛初代総合政策学部長の研究室に所属していた。加藤氏はある日、「これから君はすずかんと名乗りなさい」と言ったという。さらに、SFCの生協食堂で「私が彼をすずかんと名付けた」と加藤氏が多くの人の前で言ったことを契機に「すずかん」という名称で呼ばれるようになった。これまで鈴木寛ゼミの名称には「ベル(すず)ゼミ」「アウトポスト」「サイバーデモクラシー研究会」と次々に考案されたが、しばらくして「すずかんゼミ」という名が親しまれるようになり、現在までその名で呼ばれるようになった。
 
その話を聞いた今村さんはこんなことを指摘する。「僕らの一歩が日本を変える。」は今では「ぼくいち」と呼ばれ、SFCのAO入試に多くの合格者を出してきたAO義塾は「あおぎ」と呼ばれるようになった。さらに、これらと「すずかん」や「カタリバ」には共通点があるという。3文字ないし4文字で、そのなかに一文字濁点が入っているということである。「青春基地もどういうふうにみんなに馴染み、そして馴染んだ人たちがどのように呼ぶか楽しみ」と今村さん。そのように多くの人によって自発的に呼びやすい名前が付くぐらいにプロジェクトが人々に馴染んでほしいということだ。

いい形でのライバルを生み出す場所を

続いて今村さんは「この会場のなかで(石黒)和己ちゃんを10代のころから知っていて、今もタメ口で話している人は立ってほしい」という。そうすると「僕らの一歩が日本を変える。」やカタリバで石黒さんと関わってきた新居日南恵さん(政3)や石垣達也さん(総3)など数人が立ち上がった。

今村さんに、石黒さんと長年付き合ってきてどうだったかコメントを求められた新居さんは「高校生のころ電車を乗り継いで出会い、これまでお互いに切磋琢磨し続けることができた」という。「高校生のころから積極的に活動してきた彼らの関係のように、青春基地はいい同年代のライバルを生み出し、アクションを起こす高校生に相互に刺激を与えるものであってほしい」と今村さん。このつながりがインターネットを通して日本全国で再現可能かどうか挑戦してほしいという。

にぎわうローンチイベント会場 にぎわうローンチイベント会場

「彼女はやりたいと思えば何でもできると狂ったぐらい信じている」

「変化は怖いけど、その変化を楽しみたい。1年後またイベントを開いてぜひとも振り返りたい」と石黒さんは言う。その言葉に対して鈴木教授は「その意見、優等生すぎ。命をかけて守りたいとか言って、誰かと青春懸けて争ってほしい。そういう舐め合いは日本の良くないところ。私ぐらい頑張った人はいないと断言して、かかってこいと言ってほしい」と厳しい言葉をかける。鈴木教授によると、石黒さんは欠点や問題がなさすぎで、それはまだ思い切って自分のやりたいことをやっていない証拠だという。

もっと自己抑制をなくし、迷惑を周囲にかけるべきだと石黒さんにアドバイス。「迷惑をかけたら、その分成果を出してお返ししないといけないと思うようになる。そうすると簡単にはプロジェクトをやめられなくなる」と鈴木教授。加えて今村さんは高校生に対して「青春基地の高校生のみなさんは彼女の嫌なところを引き出せるぐらい頑張ってほしい」と呼びかける。「石黒和己はやりたいと思えば何でもできると狂ったぐらい信じている。これが僕にも勇気をくれた。高校生のみなさんもそういう石黒を使い倒してほしい」と続けた。

それを受け、「先ほどの発言は訂正します」と石黒さん。このようなざっくばらんなやり取りは会場の笑いを呼んだ。

未来のSFC生を生み出すかもしれないプロジェクト

迷惑をかけるぐらい、思い切ってやる―その大切さがトークセッションでは語られた。それは石黒さんに限らず、さまざまなプロジェクトに挑戦するSFC生誰もに必要なことであろう。

さらに青春基地ではSFC生だけではなく、中高生も新たな挑戦をしようとしている。SFCには石黒さんのように高校生のころから校内外でプロジェクトに携わってきた人が非常に多くいる。SFCのAO入試が「これまでどのような独創的な活動をしてきたか」を比較的重視するからだ。青春基地というプロジェクトも中高生の企画によって進む予定だが、そのなかから未来のSFC生が生まれるかもしれない。実際、会場にもSFC志望の高校生が見受けられた。青春基地はさまざまな意味でSFC生にとって注目すべきプロジェクトだろう。

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