3月18日(土)から20日(月)にかけて、福島の子供たちをSFCに招いて科学教室を行う「空飛ぶアカデミーキャンプ 2017春」が開催された。キャンプでは「サイケ」さんこと斉藤賢爾SFC研究所上席所員や「まぼ」さんこと南政樹政策・メディア研究科特任助教を中心に、飛行機が飛ぶ原理を利用した紙飛行機の改良やドローンの操縦体験が行われ、参加した子供たちの探究心をくすぐった。その様子を、前編・後編の2回に分けてお伝えする。

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飛行機が空を飛ぶ原理を科学する「飛行体チャレンジ①」

SFCに集まった子供たち SFCに集まった子供たち

キャンプ初日、SFCに到着した子供たちに最初に出された課題は「空を飛ぶものをできるだけたくさん挙げる」というものだった。子供たちからは、「飛行機」や「鳥」「ロケット」などのほか、「Wi-Fi」などの珍解答も挙がった。

7mの飛行距離を目指し、自作の飛行機をテスト 7mの飛行距離を目指し、自作の飛行機をテスト

続いて出された課題は、「7m以上飛ぶ紙飛行機を作る」。子供たちは4つの班に分かれ、自分なりに紙飛行機を製作。AVホール前の廊下で飛行テストを繰り返した。

飛行機が飛ぶ原理を説明する斉藤さん 飛行機が飛ぶ原理を説明する斉藤さん

その後、場所をAVホールからSBC滞在棟に移し、斉藤さんによる「飛行機が空を飛ぶ原理」についての講義が始まった。飛行機の飛ぶ原理は、よく言われている説明では、翼上部の空気と下部の空気が翼の後ろで同時に合流するため揚力が生まれるとする「同着説」と、翼の下部の空気が翼に当たった反動で揚力が生まれるとする「飛び石説」があるが、実はそれらが間違っていると説明した。そして、飛行機が通った後の空気の流れを撮った映像やドローンの周囲の空気の流れを可視化したシミュレーションを紹介。飛行機が羽の周りの空気の循環を利用し羽の後ろに大きな空気の渦を作りながら飛んでいることを示し、広く知れ渡っている通説にも間違ったものが存在すると語った。

話し合い、飛行機に改良を加える子供たち 話し合い、飛行機に改良を加える子供たち

講義終了後、子供たちは講義の内容をふまえて紙飛行機の改良を行った。各班に2台ずつiPadが渡され、飛行機の作り方を調べたり、動画を撮影して飛行状態を確認したりと様々な用途に利用された。子供たちは班ごとの机で紙飛行機を作った後、空いたスペースで飛行テストを行い、滞在棟内にはたくさんの紙飛行機が飛び交った。

滞在棟内では様々な紙飛行機が飛び交った 滞在棟内では様々な紙飛行機が飛び交った

成果発表では、子供たちが自分たちで発見した「飛行機をよく飛ばす工夫」を発表した。子共たちが改良した箇所は、飛行機の重心の位置から翼の形、そして紙飛行機の中心の隙間の大きさなど多岐にわたっていた。子供たちが紙飛行機を構成する様々な要素に注目し、改良を試みたことがうかがえた。

アカデミーキャンプ代表の斉藤賢爾さんにインタビュー

—— アカデミーキャンプを始めたきっかけはなんですか?

ご存知の通り、2011年3月11日の東日本大震災と福島第一原発の事故があって、その後SFCではいろんなことをやっていたんですね。村井研究室が絡んでる話だと、宮城などの津波の被害があった地域に、衛星通信を使ってインターネットのアクセスを届けに行っていたんです。

僕は後方支援をやっていたのですが、「危ないから被災地には行かないでくれ」と家族に止められて手が出せませんでした。ですが、そもそも福島には我々も手が出せずにいて、かつ福島の子供たちのことが心配になり、子供たちのために何かしたいと思ってたんです。そして自分が大学に勤める人間として何ができるか考えた時に、大学でやるような授業を子供たちにしてみたらどうかと思いついて、このキャンプをやりたいと考えました。多くの仲間たちが主体的に関わってくれることにより、キャンプを実現できています。

—— 福島の子供たちを取り囲む環境の問題点として、挙げられるものはありますか?

環境の問題点としては、社会の脆弱性があると思います。災害が起きるということ自体がそれを表しています。例えば南極で核爆発が起きたとしましょう。それが災害と言えるでしょうか。地球の歴史を紐解いてみれば、核分裂連鎖反応さえも天然の原子炉によって臨界状態が生まれ何度も起きていて、それ自体は自然現象なわけです。つまり、そこで人間が被害を受けたかによって災害かどうかが決まってきます。つまり、人間が脆弱じゃなければ災害は起きない。

だから、災害が起きたからには、その点において人間の社会に脆弱な部分があったということなんです。原発事故はそれを見えやすい形であらわにしています。すなわち、被災したことはもちろんそうなんですが、そもそも子供たちは脆弱な社会の中で大人になって、未来の社会を担っていかなければならないわけです。

また、教育の現場で、昭和の時代に考えられたものが変わりもせず残っているということにも危機感を感じます。「着席をして、自分に振られた仕事をこなす」ということは、産業社会の中で労働者として生きるすべを学ぶためのことですが、これからの時代は意味がない。それにも関わらず今の学校ではそんな昭和人を養成していて、SFCはともかく、他の学校、下手をすると大学でもそんなことをやっています。

そのため、子供たちが、思いついた色々なアイデアを行動に移し、分かったことを学んでいくことが必要だと思っています。学校ではレールにはまったことをやっていますが、イノベーションを起こすには、セットされた実験ではなく何が起こるかわからないことをやる必要があるんです。なのでアカデミーキャンプではそういうことをしたいと思っています。

—— このアカデミーキャンプを通して、子供たちにどのようなことを伝えたいですか?

答えのないチャレンジをして欲しい、細かく言うと、「絶対に負けてしまうので人工知能と勝負するな」ということです。人工知能との勝負は自動車に負けない飛脚になろうとするくらい馬鹿なことで、これから20年くらいは人工知能と対話する能力が求められます。プログラミング自体はコンピュータ自身が書いていくようになっていくけども、その時にどんなプログラムを書いてほしいかを伝える能力が必要になってくるんです。

そしてその「どんなプログラムを書いて欲しいかを伝える能力」は、だいたいSFCの学生に求められている問題発見・問題解決能力です。まず問題を発見しなきゃいけない。そしてその問題に対して自分の方で変化して、問題を解決しなければいけないんです。そのためには何が問題かを整理して、それを解消するためのアクションを起こすことが重要です。人工知能によって、そのアクションを起こすことはずいぶん簡単になってきているので、それを軽やかにできるようになってほしいと思っています。

—— ありがとうございました。

後編では、ドローンの操縦体験や「飛行体チャレンジ②」の様子をお届けします。

【5月21日(日)14:30 編集部追記】
後編記事「福島の子供達をSFCに招待!「空飛ぶアカデミーキャンプ 2017春」が開催 【後編】」へのリンクを追加いたしました。ぜひあわせてお読みください。

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