義塾野球部は28日(土)・29日(日)、春の東京六大学リーグの優勝をかけて、伝統の一戦、慶應-早稲田戦(慶早戦)に臨む。この試合を展望してみたい。

三本柱卒業後の早稲田投手陣

この春、斎藤佑樹投手(北海道日本ハム)、福井優也投手(広島東洋)、大石達也投手(西武)の3投手が早稲田を卒業しプロ入りした。早稲田としては、やはりこの穴は埋めがたい穴だ。
 早稲田の今年の主戦投手は静岡商業高校出身の左腕、大野健介投手(社学4)だ。169cmと小柄だが、スリークオーター気味のフォームから140キロ台のストレートとスライダー、カーブ、ツーシームを織りまぜた組み立てをしてくる。しかしながら、ここまでの成績は今ひとつ芳しくなく、27回1/3を投げて防御率3.90。ここまで4カード中3カードで1回戦に登板しているが、直近の早法1回戦では1イニング持たず8失点でノックアウト。これ以後登板はない。
 義塾の中軸に左打者が多いこともあり、慶早1回戦でもエースで左腕の大野投手が先発してくると考えられる。ただ、調子が上がらないなら早法2、3回戦で中継ぎ等で登板させ、調整を行っていたはずでもある。それを行っていないところを見ると、他の投手を慶早1回戦にぶつけてくる可能性も無くはないだろう。エースの奮起を期待するか、見切りをつけるか、早稲田の采配に注目したい。
 他に早稲田の先発を務めてきたのは横山貴明投手(スポ2)と有原航平投手(スポ1)、高梨雄平投手(スポ1)の下級生3投手である。
 福島・聖光学院出身の横山投手は高校3年時には夏の甲子園に出場し、ドラフト候補にも名前が上がった投手である。MAX147キロの伸びのある直球を軸に組み立てる本格派だ。ただ、制球が安定しないという欠点がある。今季は投球回20回1/3に対し13のフォアボール。3イニングに2つ程度のフォアボールを出す計算となる。だが、早法2回戦で7回を1失点で勝ち投手となっており、調子は悪くなさそうだ。順当に行けば、慶早2回戦での先発が予想される。
 有原投手は早明1回戦こそ先発したものの、普段は中継ぎで出てくる投手だ。広島の野球の名門、広陵高校出身で、同世代ナンバーワンピッチャーと評された。早明1回戦では高校の先輩で明治のエース野村祐輔投手と投げ合い、負けはしたものの、151キロを計測。また、キレの良いチェンジアップを持っており、調子のいい時は相手打線を完璧に抑える。しかし、調子が安定せず、悪いときはとことん打ち込まれる投手でもある。いわゆる出てみないとわからないピッチャーである。
 左のオーバーハンド、高梨投手は早稲田投手陣の中で一番防御率が良い。17回を投げ2失点、防御率1.06である。早法3回戦では負け投手になったものの先発で5回1/3を4安打1失点と好投した。甲子園出場経験こそないものの、MAX143キロのキレのある直球を投げ込む。1回戦でエース大野投手に代わって奇襲があるとしたら彼ではないだろうか。
 3投手が抜け、入学後間もない1年生を使わなければならないほど、早稲田のブルペン事情は苦しい。ただし、慶早戦はラストカードであり、ピッチャーの疲労をそれほど気にしなくていい。また、今シーズンの早稲田は継投策を多用するため、慶早戦でもどんどん投手をつぎ込んでくると考えられる。

二枚看板が残った義塾投手陣

主力3投手が卒業した早稲田とは対照的に義塾は昨年の二本柱、竹内大助投手(環3)、福谷浩司投手(理3)が残った。中でもリリーフに回った福谷投手の安定感はすばらしい。24回を投げ切り、わずか1失点。防御率はなんと0.38である。義塾としては先発投手が踏ん張っている間に点をとって、リードした状況で福谷投手につなぎたい。
 エース竹内大助投手は立教戦こそ打ち込まれたものの、それ以後の先発した試合は必ず5回を投げ切り、自責点1以内に抑えている。先発として完璧な仕事をこなしているといえる。彼の先発が予想される1回戦は必ず勝利したい。
 義塾のもう一人の先発は塾高野球部出身、直接のプロ入りも期待された白村明弘投手(商2)である。福谷投手がリリーフに専念できたのは白村投手の活躍が大きい。ここまで22回1/3を投げ抜いて防御率1.21と好成績を収めている。慶早2回戦の先発は白村投手で間違いないだろう。
 中継ぎも充実している。先発陣、抑えの福谷投手が安定しているが故に登板機会は少ないが、菊池達朗投手(環2)、山形晃平投手(法2)も中継ぎとしての仕事を着実にこなしている。昨年秋の優勝決定戦のように投手が足りなくなり、内野手が登板する状況にはならないはずだ。

対照的な両打線

両チームの打線について見てみよう。早稲田打線はここまで11試合で25得点、1試合あたり2.27点にとどまっている。対する義塾打線は同じく11試合で51得点、1試合あたりに換算すると4.64点も取っていることになる。この数字だけで義塾打線が如何に好調かがわかるだろう。
 義塾打線の中心は4番でキャプテンの伊藤隼太選手(環4)。プロ注目の伊藤選手はここまで打率.457本塁打4打点15で暫定三冠王である。伊藤選手が三冠王を取れば、義塾としては1996年春、あの高橋由伸選手(巨人)以来、SFCからに限れば初の六大学三冠王という快挙である。義塾の勝利とSFC初の三冠王は慶早戦の伊藤選手のバットにかかっている。
 もう一人、打撃好調なのは3番に座る山崎錬選手(商3)だ。打率は3割を超え、本塁打も2本を数える。また、立教3回戦では2死満塁からサヨナラ打を放ち、義塾に勢いを与えた。彼の勝負強い打撃は義塾打線には欠かせない。
 湿りがちな早稲田打線の中でも注意したいのは4番に座る土生翔平選手(スポ4)。今季こそ打率.231と低迷しているものの、昨年秋の慶・早による優勝決定戦では1番に座り5打数3安打。早稲田優勝決定の原動力になったことは記憶に新しい。今年も土生選手を抑えることが勝利への鍵となるだろう。

負けられない戦い

春の六大学リーグ開幕からここまで好調に推移してきた義塾野球部。勝ち点を取れば他の5大学すべてから勝ち点をあげた完全優勝だが、勝ち点を落とせば場合によっては優勝を逃し、そうでなくても立教に変則的だが逆王手をかけられてしまう。何よりも学生野球の華、慶早戦で負けるわけにはいかない。
 陸の王者としてのプライドを見せつけに、完全優勝を見に、SFC初の三冠王の誕生の瞬間を見に、週末は神宮へとかけつけよう。