【履修学シリーズ】"通りたい度"を紐解く
本記事は2025年度の内容です。2026年度からは通りたい度は廃止されているため、必ず最新の情報を参照してください。
SFCの履修選抜において、分かるようで分からない概念である「通りたい度」。今回はその仕組みと、いわゆる「捨てコマ」とはどういうものなのかについて話していこうと思う。
※本記事は私、巽匡豊が執筆する「履修学」シリーズの第1弾として、履修に関する内容を解説する企画です。履修者選抜エントリーなど、新入生向けとなる履修学の内容は今後湘南自治会のnoteより発信していきますので、そちらも併せてご覧ください。
「通りたい度」とは
エントリーした抽選科目について、科目間の優先度を示す
SFC設置科目の履修選抜には、主に「課題選抜型」「抽選型」「事前選抜型」「特定科目(英語や情報基礎など)の履修選抜」の4種類がある。そのうち「抽選型」は、履修者選抜エントリー期間終了後、一斉に抽選が行われ履修許可あるいは不許可が決定するというものだ。
2017年度秋学期から「通りたい度」が導入されたことにより、それまではそれぞれの科目ごとに行われていた抽選が、相互に作用することとなる。
「通りたい度」とは、抽選にエントリーした科目のうち、抽選に通って履修したいという希望の大小関係を表した数字であり、学生は1から9の整数で各科目の履修希望の大きさを設定できる。当然、大きく数字を設定した科目は抽選選抜で通りやすくなり、小さく設定した科目では通りにくくなる。実際に、2017年度秋学期のデータでは高い通りたい度を設定したものが通りやすくなっていることがわかる。
この通りたい度は相対的な値になっており、自分がエントリーする他の科目に比べて、その科目の通りたい度をどれだけ大きくするかによって当選確率が変動する。すなわちエントリーした科目全てに「1」をつけた場合と、全てに「9」をつけた場合では当選確率は全く変わらない。その一方で、2つの科目にエントリーしたときに、一方に「1」、もう一方に「9」をつけると、「9」を設定した科目は通る確率が高くなる。
2017年度秋学期の記事によると大学は、「履修したい科目にだけエントリーするのが当たり前だという前提で、履修したい科目(エントリーした科目)の中で特に『この科目の履修許可をもらえたらいいな』と思う科目に大きめの通りたい度をつける、というのが通りたい度の趣旨だ」と説明している。
複雑な計算プロセス
通りたい度の計算方法について、その概要は履修者選抜資料に公開されている。整理すると以下のようになる。
注意事項として、期待値Eがあまりにも多い場合、Eがある程度の値になるまで通りたい度の小さい科目から順に削除することとなる。
また、抽選を通った科目の数にかかわらず、履修許可を得た科目の多くを履修申告しない、履修中止するなど、他学生の履修機会を奪ったと認定された場合、次学期以降の履修選抜においてペナルティが課される可能性がある(履修者選抜資料より)。
概念としての理解
上記の説明で理解できただろうか? ……数学が得意な人でもない限り、一瞬で理解するのは難しい話である。
そこで、この抽選の仕組みを「抽選券」という概念を用いてわかりやすく説明してみようと思う。
あなたは、数ある抽選科目の中で授業A~H、すなわち抽選①~⑧に応募することにした。各授業にはそれぞれ違った定員が定められている。
抽選が締め切られ、エントリー者数が確定した。このとき、エントリー者数が定員以下になった場合は当選が確定し、以降の手順には影響しなくなる。
一方で、エントリー者数が定員を超えた場合、科目の人気度によって抽選券がそれぞれの参加者に配られる。配られる抽選券の枚数は定員の数をエントリー者数で割って求められる期待値によって決まり、期待値0.01につき抽選券は1枚貰える。つまり、とても人気な科目にエントリーした場合は少ない枚数の抽選券しか貰えないが、そうでもない科目にエントリーした場合は多くの抽選券が貰える、ということになる。
抽選に当選する数は、貰った抽選券の枚数で決まる。抽選券100枚ごとに1つの当選が保証され、端数がある場合は追加で1つの抽選に当選する可能性がある。例えば、抽選券を316枚貰っていた場合、3つか4つの抽選に当選することになる。
あなたは、エントリーした科目から合計249枚の抽選券を貰ったので、2つか3つの抽選に当選することが決定した。
貰った抽選券を、あなたはどの抽選にどれだけ使うかを決めることができる。この”抽選券を分配する比率”のことを通りたい度と呼び、通りたい度を使って元々貰っていた抽選券の少ない抽選に多くの抽選券を使って抽選に挑むことができる。
今の例だと、元々16枚しか貰っていなかった抽選③に、4倍以上の74.7枚で参加することができる(実際の上昇幅とは少し異なる)。
自分が狙っている抽選に、他の抽選で集めてきた抽選券を使って有利に抽選をする。これが通りたい度の中身となる。
導入により選抜制度はある程度改善された
通りたい度の利点としてエントリーした科目の数や倍率に対して極端に当選する科目の数が少ない学生を減らせることが挙げられる。積み上げた期待値によって抽選に通る科目数が一定数保証されるため、多くの科目にエントリーしたのに、当選数が1あるいは0になるような極端に不運な結果は起こりにくくなった。
また、学生が優先して取りたい科目の当選率を上げられることも挙げられる。通りたい度「9」を設定していた人の方が、「1」を設定していた人よりも抽選に通りやすくなっており、それぞれの科目ごとで抽選を行う場合と比較して、学生個人の受けたい授業に通りやすくなっていると言える。
捨てコマ戦略の普及
本命の科目の通りたい度を「9」にし、他の科目を「1」にすることで本命の科目が通りやすくなる。この際、「1」にする科目が多ければ多いほど「9」の科目の当選確率は上昇するため、本命の科目以外の曜日時限に存在する適当な科目に通りたい度「1」でエントリーすることによって、期待値を多く確保することができ、結果として相対的に当選確率を上げることができる。
この「本命の科目に通りやすくするために入れる適当な科目」を「捨てコマ」と呼び、仮に捨てコマが抽選で通ったとしても履修登録をしないという戦術が、通りたい度が導入された2017年度秋学期のタイミングで同時多発的に考案され、普及していった(tantanさんのnoteより)。
捨てコマ戦略の問題点
多くの人が捨てコマ戦略を使うと、その科目を本当に取りたい人以外の抽選参加者が増えるため、必然的に抽選の倍率は上がってしまう。
また、通りたい度が導入された直後の時期では、計算プロセスに関心が集まっていたが、現在では「捨てコマを使うと、本命の抽選が通りやすくなる」という情報が独り歩きしてしまい、確保できる期待値の量を気にせずに抽選参加者が多い科目を捨てコマとして選ぶ例も散見される。その結果、貰える期待値が低くなり捨てコマとして機能しにくくなるだけでなく、捨てコマとしてエントリーした人が当選してしまう確率も上がり、本命の科目としてエントリーしていた人が当選する確率を大きく減らしてしまうことになる。
つまり、抽選の仕組みを理解しないまま捨てコマを使ってしまうと、自身の抽選においてもデメリットがあるだけでなく他者の抽選に悪影響を及ぼす、ということだ。
どう捨てコマを選ぶのか
性善説に基づいて、全員がそれぞれ取りたい科目にのみエントリーすることを考えれば、本来は捨てコマという概念は生じない。しかし、現在では捨てコマ戦略が広まり、個人の利益を求めた合理的な行動が全体の不利益につながる「コモンズの悲劇」のような状況が生じている。このため、多くの学生が捨てコマ戦略を採用せざるを得なくなっている。ただし、その際にはどの科目を捨てコマとするか慎重に選ぶ必要がある。
まず前述したように、あまりにも倍率が高くなりそうな科目は捨てコマに適していない。同一曜日時限にエントリーできるのは1科目だけという制約を考えると、1科目で貰える期待値は高い方を選んだ方がよい。
ただし、例えば倍率が1.1倍で期待値が0.9貰えるような、定員割れせず、極端に倍率が低い科目を捨てコマとして選んだ場合、通りたい度を「1」にしても抽選に通りやすくなり、結果として意図せず当選してしまう可能性がある。その場合、自身が抽選に通る科目の枠を1つ消費することになる。
一方で、期待値が高い科目を捨てコマに選ぶことで、本命の科目の当選確率が上がることは間違いない。そのため、捨てコマとして「倍率1.1~1.5倍で貰える期待値が高い科目」と「倍率1.5~2.5倍で、通りたい度を『1』に設定した人が落選しやすい科目」のどちらを選ぶかは、最終的に個人の判断に委ねられる。
実際の抽選の倍率はエントリーが締め切られた後にしか公開されないため、倍率を予測する必要がある。筆者は、時間割アプリであるPenmarkを用いて、科目の登録者数を確認し、倍率を予測している。
「通りたい度」システムのこれから
捨てコマ戦略を知っているか否かで抽選結果に格差が生まれるようになってしまった現在、通りたい度という抽選システムに疑問をもった人もいるかもしれない。もっと良い抽選の方法があるのではないか……そう考えるフェーズが、近づいているのかもしれない。
極端に倍率が低い科目の抽選に落ちてしまった人を憐れむシステムである「通りたい度」。抽選という手段を使い、公平性が担保されているように見えるこのシステムは、攻略することで未攻略者との差が生じ、公平ではなくなるのだ。
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