今学期から導入された、履修選抜の新システム「通りたい度」。9月の履修選抜期間にはSFC生の間でさまざまな意見が飛び交った。もともと履修選抜制度には不満の声が多く制度変更も頻繁に行われてきたが、今回の「通りたい度」導入はそうした制度変更の中では比較的大きな変更となった。今回の変更によって改善された点や、新たに見えた課題、今後の展望について、SFC CLIP編集部は大学側にインタビューを行った。

8月に行った前回の履修選抜に関する記事に引き続き、内藤泰宏環境情報学部准教授と湘南藤沢事務室学事担当の西原裕貴さんに話を聞いた。聞き手は編集部員の土肥(総4)、大友(総2)、広田(環1)の3人。

図で見る「通りたい度」の効果

—— 今回の制度変更を経て、大学側として「変わったな」と思うことはありますか?

前カリキュラム委員長を務め、「通りたい度」を考案した内藤准教授 前カリキュラム委員長を務め、「通りたい度」を考案した内藤准教授

内藤准教授(以下、内藤): まず、こちらのグラフの方が分かりやすいと考えて資料を用意しました。これは、今学期に抽選選抜をした科目のうち倍率が1倍を下回ったものを除いた、つまり履修不許可者が出た60科目について簡単にまとめたものです。履修申告をしない人や、履修中止する人がいるため最終的なデータは多少変わってくるのですが、この60科目にエントリーした学生数がおおよそ3,000人、延べエントリー数が17,105、履修許可数が8,052で、平均倍率は約2倍でした。

抽選を実施した(履修不許可者が出た)60科目に関するデータ(資料1) 抽選を実施した(履修不許可者が出た)60科目に関するデータ(資料1)

その17,105のエントリーにどのような「通りたい度」が設定されていたのかを示しているのが資料1左のグラフです。「9」と「1」を設定した人で全体の約3分の2を占めています。対して、右のグラフは履修許可を得た人がどのような「通りたい度」を設定していたかを示しています。大きな「通りたい度」を設定するほど相対的に履修許可を得られやすくなっており、実際、通りたい度「9」を設定したエントリーの約8割が履修許可を得ており、これに対して「1」を設定したエントリーでは履修許可を得られたのは4分の1程度に留まっています。

抽選科目の中で最も倍率が高かった科目のデータ(資料2) 抽選科目の中で最も倍率が高かった科目のデータ(資料2)

抽選科目の中で倍率が低かった科目のデータ(資料3) 抽選科目の中で倍率が低かった科目のデータ(資料3)

さらに資料2と3は、今回抽選が行われた科目の中でも最も倍率が高かった科目と、倍率が1倍に近い科目の中でエントリー数の多かった科目についてのグラフです。1科目ずつを見ても、大きい値を設定した人ほど通りやすいという傾向になっています。

学生の立場からは、自分の結果しか分からないので実感しにくいと思いますが、俯瞰的に見れば「学生が取りたい(大きい「通りたい度」を設定した)授業を取れる」方向に寄せることができたのではないかと思っています。制度を設計した側としては、今後分析を進めて、履修許可者の中に占める「通りたい度」が高めの学生の割合が増えたことによって、履修許可が降りた科目は履修申告する、という比率が上がっていることを期待したいです。現状ではそこまで分析はできていないのですが、現時点では、少なくとも「やらないよりはまし」にはできたと思います。

西原さん(以下、西原): 窓口で対応していても、「どうしても取らないと進級できない科目が落ちてしまった」という声は、春と比べても少なくなったように感じます。「通りたい度」で絶対必要な科目は学生が設定できるということで、全員がとは言いませんが、取れている人が多かったのかなと。主観としては効果があったように感じます。

内藤: ただ、読み違えてはいけないのが、資料3を見ると通りたい度「9」を設定した人が多く通っているので、「9」にしていれば結構通ったように見えてしまうかもしれませんが、実際には13倍近い倍率なので、「9」にしていた人も大部分は落ちていてるということです。「『9』にして通った人」よりも「『9』にしたけれど落ちた」人の方が多いということです。これは如何ともしがたいでしょう。

「ペナルティ」に対する学生の不満をどう考えているか

なぜ「ペナルティ」の条件や内容が公開されなかったのか

—— ペナルティの条件や内容が公開されていないことについて、学生側から少なからず不満の声が上がっています。これについてはどうお考えでしょうか。

内藤: ペナルティについて条件を公開しなかった理由の1つは、まず「通りたい度」という仕組みを導入した後に学生がどのような行動を取るのか分からなかったということでした。SNSなどでも、最初から履修する気のないいわゆる「捨てコマ」に低い「通りたい度」を設定し、本当に取りたい科目に「9」を設定して傾斜をつけるといった必勝法のようなものが流れていました。そうした情報に「乗せられた」学生が多く出た場合に全体でどの程度エントリー数が増えるのかなどといった情報は事後的にしか分からないため、具体的に「ここからはペナルティ」という条件を示すことはしませんでした。

もう1つは、「ここからはペナルティ」という線を引いてしまうと、そのギリギリを狙う学生が出てくると予想されたからです。ゲームをプレイするのであれば、ルールを見極めて最大の利得を目指すべきです。しかし私は、履修申告で「通りたい度」を中心に据えてギリギリを狙うゲームをしてほしくはありません。ペナルティが明確に示されているがゆえに、「SFCで何を学びたくて、そのためにどんな科目を履修するのか」という本来あるべき履修計画よりも、ペナルティの基準を優先してエントリー科目を決めるようになってしまっては意味がありません。

—— つまり、「ここからがダメだ」と線を引いてしまうと、「その一歩手前まではOK」という方向に学生を誘導してしまいかねないということですか。

内藤: そういうことです。

「捨てた科目がある = 即ペナルティ」ではない

内藤: 資料4のグラフは、横軸は抽選が行われた60科目へのエントリー数、縦軸はその科目の中から履修許可が下りたけれども履修申告されなかった科目の数です。バブルが大きいほど、同じ座標に多くの学生が重なっていることを示しています。全体の傾向としては、多くの科目のエントリーをしている人ほど多くの科目を捨てているという、ある意味当然の結果になっています。

左下の大きなバブルは1つにつき300人ぐらいなので、大多数の学生はそのあたりに収まっています。しかし、残念ながら極端な行動を取っている学生は存在しており、例えば一番右上の点だと、20科目以上にエントリーして、その中から許可を得た8科目を履修申告していません。ただし、このデータは履修申告締め切り時点でのものなので、単に履修申告を忘れてしまっていたとか、休学を決めたために履修申告しなかったということも考えられます。

とはいえ、先ほども述べた通りこれは抽選が行われた60科目のみのデータなので、ここに課題選抜の科目や研究会を加えると、履修上限数を大幅に超えてしまっている人がいます。こうした、明らかに「履修許可をもらっても、最初から取る気がない科目にもエントリーしている」と見なさざるを得ない人に関しては、ペナルティを課す候補です。

僕の個人的な希望としては、候補に挙がった学生一人一人と教員が面談して、ちゃんと事情を聞いてから判断したい、というか、どういうつもりでこのように振る舞ったのかぜひ伺いたいと思います。制度を変えてから1学期目なので、訳も分からずやってしまった人もいると思います。ですので、一律でペナルティを課すということは望んでいません。

—— ペナルティの内容としては、具体的にどのようなものを検討していますか?

内藤: 10月から新学部長になり、カリキュラム委員会の構成員も変わりました。新メンバーによる最初の委員会では「極端な学生についてはペナルティを検討すべきであろう」という意見はありましたが、現時点で具体的な内容までは決まっていません。ただ、極端な行動に出たからといって、たとえばレポートを剽窃したときのように、その学期の科目の評語がすべてDになるとか、そういったことはありません。極端で利己的な行動に出ても得にならないということを、本人だけでなく多くの学生たちにも理解していただけるような意図をもって実施されることになると思います。

西原: 趣旨としては、明らかに合理的でない行動をしている人には「それはおかしいでしょ」と言いたいわけです。学生によって状況が違うので、本当にフル単で取る必要があり、20単位を目指した結果が10何科目以上履修許可を得てしまった、なんてこともあり得るわけです。なので、一概に許可数が多いからアウトというものではありません。

「通りたい度」に対する誤解

内藤: 「通りたい度」について勘違いしている人がいるかもしれないので、バカバカしいほど当たり前のことを敢えて強調しておきますが、「履修者選抜では、通ったら履修したい科目だけエントリーしてください」。

たとえ「通りたい度」に「1」を設定した科目でも、エントリーしたことは「私はこの科目を履修したい」と意思表明したということです。「通りたい度」が「1」だから「こんな科目に履修許可もらっても履修するつもりはありません」という言い訳はまったく通用しません。履修するつもりがない科目の履修者選抜にはエントリーしない、それだけのことです。履修したい科目にだけエントリーするのが当たり前だという前提で、履修したい科目(エントリーした科目)の中で特に「この科目の履修許可をもらえたらいいな」と思う科目に大きめの「通りたい度」をつける、というのが「通りたい度」の趣旨です。このあたりについて勘違いしている方がいるようなら、再確認していただきたいと思っています。

—— 「捨てコマ」として履修希望者の多い授業に低い「通りたい度」でエントリーし、他の授業の当選確率を上げようとする、いわゆる「カウンター」がSNSなどで広まっていましたね。

内藤: 十数年来、SFCのさまざまなシステムをチートしようとする学生の振る舞いを見知ってきた経験上、そうした学生が現れることは見越していました。ただ、先ほども話した通り、「エントリーする科目は履修許可を得たら履修する」というのが大学側の認識で、僕たちは基本、学生は善意を持って行動することを前提として制度設計をしています。ですからエントリーした科目に履修許可が得られた場合に履修申告してくれるのであれば、戦略的に「1、1、1、9」みたいな「通りたい度」を設定してもらっても、個人的には何も問題ないと思っています。むしろ、「1つだけ9をつけた科目」が履修したい科目の中でもとりわけ履修機会を逃したくない科目なのであれば、抽選の結果、実際にそうした科目で履修許可を得られたなら、きっとやる気を持って授業に取り組めるはずです。

しかし、「通りたい度」が小さい履修許可者の履修申告の比率が極端に低いのであれば、その場合「端から履修する気のない科目にエントリーした」利己的な人たちが混じっているという前提でルールを作り直さなければいけないことになります。完全に利他的に振る舞えとは言いませんが、そもそも取る気のない科目にエントリーして、履修許可を得ても捨てるのは非常に不誠実なふるまいです。本当に取りたかった人の履修機会を間接的に奪ったことになるかもしれないので、すべきではありません。

西原: 学生が本当に取りたいだけエントリーしていけば、倍率は下がっていくんです。余計なエントリーを増やすとかえって倍率が高くなり、自分の首を絞めることになってしまうわけです。ですから、「本当に履修したい科目は何なのか」を冷静に考えた上でエントリーしていただきたいです。

「捨てコマ」は不利になるという噂について

—— 上記のような「捨てコマ」を使った戦略を取ると、履修許可が降りにくくなる…といったうわさがSNS上に流れていました。

内藤: そうした事実は一切ありません。通りたい度の資料の中で最後のページに数式も明記しましたが、書いてある通りのことをしています。配布した文書には、ここに書いたこと以上は開示しないと書きました。つまり、すべてをオープンにしているわけではありません。しかし、オープンにしたことに嘘はありません。いま伺ったようなうわさを信じる人は、僕やキャンパスのことを嘘つきだと考えていることになります。その上で「通りたい度」が導入されるなどの大枠は信じるのに、その詳細の一部は信じないという線引きを、どんな根拠で行っているのか、僕にはほんとうに謎です。

僕たちは、先学期の履修者選抜制度の変更の分かりにくさを反省して、今学期はルールを明解に、しかも開示できる内容はすべて提供しました。情報が曖昧で抽選の仕組みがブラックボックスになってしまっているようなら、これを埋め合わせるようなうわさが流布されるのも致し方ないと思いますが、そこまで不完全な情報ではなかったと思います。

にもかかわらず、SNSで流れてくる情報を「分かりやすいから」「何となくありそうな話だから」という理由で信じてしまった学生がいるようなら、もはや情報リテラシーの問題だと思います。一部とはいえ、今回怪しい情報に翻弄されている人たちがいる状況を眺めていて、「SFC大丈夫か?」と思ってしまいました。そういう人たちは、履修申告に限らず人生のあらゆる選択において、自分が信じるものをどうやって決めているのか、一度考え直してほしいと思います。そして「信じたいものを信じる」という思考停止に陥ることだけは避けてほしいです。僕やキャンパスのことを嘘つきだと判断するなら、それはそれでかまわないので、根拠をもって判断していただきたいということです。

サーバダウンについて

—— 今回、サーバが落ちたことが原因で、結果として2回エントリー締め切りが延期となりました。直前に「通りたい度」を調整したい人がいたことも原因でトラフィックが増えたという印象がありますが、そもそもサーバはどのくらいのアクセスがあるという想定で作られているのでしょうか。

西原: まずは、サーバが落ちてしまったことは全く言い訳できず、みなさんにお詫びをしたいと思っています。私も青ざめて対応していました。

SFCの卒業生でもある湘南藤沢事務室学事担当の西原裕貴さん SFCの卒業生でもある湘南藤沢事務室学事担当の西原裕貴さん

「どのくらいのアクセスを想定しているのか」というのは、なかなか難しい問題です。そもそも春に一斉エントリーにした時点で心配しており、システムの側とも相談しながらやっていました。認証が必要となるログインする瞬間とかは重くなりやすい一方、「My時間割を見る」といったような細かい操作は軽かったりします。その辺りの組み合わせなどが複雑で、単純に「何人分のアクセスを想定しておけばいい」とはなかなか言えないのです。

今回のサーバが落ちたことも、一概に「通りたい度」の細かい調整が原因とは言い切れないので、原因の究明をしっかりした上で、来春には同じことがないようにしたいです。

—— 先学期の履修選抜時は落ちませんでしたが、それに比べるとアクセスは増えたと感じますか?

西原: やはり直前に調整しようとする人が多かったというのは、なんとなく感じてはいます。確かに、みなさんが合理的にふるまおうとすると、倍率に応じて通りたい度を変えるのは多少やむを得ないし、仕方がないことだと思います。でも、それはある意味ゲーム的な状況に陥ってしまっているので、そうしたことがないようルールを変えていきたいと思っています。みなさんが、取りたいものを純粋に、「自分の中ではこれが1番取りたい」という状況で「通りたい度」を決めるという状況を作りたいので。

内藤: もし「通りたい度」の微調整をするためにアクセスが増えたのだとしたら、My時間割に表示されている倍率の更新を、例えば締切24時間前とか12時間前までにしておくというのも、1つの方法かなと思います。

—— ありがとうございました。

「通りたい度」について、SNSなどでの意見は賛否両論であるように見える。一方、そうした情報の中には間違ったものも少なからず含まれているのは事実だ。正しい情報を知った上で「通りたい度」をどう考えていくのかということがこれから重要になってくるだろう。

関連記事