SFC CLIP編集部は、今年5月-6月に実施した「履修選抜制度に関するアンケート」への回答結果をもとに大学側へのインタビューを行った。多くの学生が不満を訴えている現在の履修選抜制度には、どのような背景があるのだろうか。回答結果の詳細とインタビューの様子を、前編・後編の2本の記事に分けてお伝えする。

制度変更のねらいは? 大学側にインタビュー

今年(2017年度)春学期より、履修選抜エントリーの締切日が全曜日・全時限の授業において同日に設定された。これまでは授業曜日ごとに締切日が設定されていたため、学生にとっては影響の大きい制度変更になった。しかし大学側からこの変更の理由に関する説明は行われず、戸惑いの声も多かった。

これを受けてSFC CLIPは「履修選抜制度に関するアンケート」を実施し、学生側の履修選抜制度に関する意見を募った。こちらの記事では、「『制度が悪くなった』との声が約8割 選抜エントリー締め切り、なぜ一括に?【前編】」に続き、回答結果をもとにした大学側へのインタビューの様子をお送りする。

SFC CLIP編集部がインタビューを行ったのは、内藤泰宏環境情報学部准教授と湘南藤沢事務室学事担当の西原裕貴さん。聞き手は編集部員の土肥(総4)、薄井(総3)、坂田(総1)の3人。

「授業の偏り」とは独立した、履修選抜制度そのものへの不満

—— 土肥: 特定の曜日に人気の授業が偏っているのは一学生としても感じていました。そうした偏りは、入門科目で特に弊害が大きいと思います。ある領域に関して基礎になる科目が1コマしかない場合、それが他の授業と被ると、「履修できるのが1年後」といったことになりかねない。それが履修選抜だけでは改善できないというのはその通りだと思うのですが、そうした偏りへの問題とは別に、やはり履修選抜への不満というのは大きいと思います。その2つへの批判は両立すると思うのですが、いかがでしょうか。

内藤准教授(以下、内藤): そこはバランスを持って行うしかないと思うのですが、開講科目の曜日・時限をどうすれば最適化できるのかというのはなかなか難しい問題です。改善の努力も行われていて、例えば河添先生の「総合政策学」は、もともと火曜1限に開講されていたのを、「総合の1年生全員を金曜に登校させることで、開講科目の少ない金曜日に他の先生が開講している1年生向けの授業を移動できるかもしれない」と考え金曜3限に移動しました。ですがまだまだ偏りは大きく、改善の余地は大いにあります。

教員の方々も、大学の授業と研究、塾外での活動のサイクルができあがっているので、それを変えたくない人も多いのかもしれません。「この曜日のこの時間に授業が集中しているので、誰か他のところに移してくれませんか」とお願いしても、率先して長年慣れ親しんだ曜日時限から移動してくださる先生は多くありません。これに関しては、学生から「こうしてほしい」と要望があった方が、はるかに早く状況が変わるかもしれないと感じています。

僕にも学生の履修行動に素朴な疑問があります。例えば、これほど多様な学生が集まるSFCで、全学生の数分の1に相当する300人とか500人とかいう数の履修希望者が出る授業が複数存在するのはなぜなのか、とか。学生の多様性を反映した多様な履修計画が並走していれば、履修者はいろいろな授業に分散するのではないか、などと考えたりします。また学生からの情報などから、いわゆる「楽単」が存在しており、履修者選抜の競争率が高くなっていることが疑われる事例もあります。事実なら残念なことです。当然ながら、キャンパスとして楽単を履修しやすくする支援はしません。また、いわゆる「オフ日」をつくりやすくする支援もしません。学生生活の中で何を優先するかはみなさんがそれぞれに決めればいいですが、キャンパスが支援するのはまず研究と学業です。

少し話がブレてしまいましたが、「取りたい授業が取れない」の内容には相当幅があるのではないか、ということです。

—— 土肥: 大学として解決したいものと、そうではないものがある、と。

内藤: そういうことです。解決したいものもたくさん残っています。履修者選抜以外にもいくつか着手していることはあります。例えば、すでに役目を終えて不要になった科目を抽出して、今SFCに必要な授業を増やすといった調整をやろうとしています。需要の高い授業を複数開講できれば、必修の都合で取れないという人は相当減るはずですよね。

—— 土肥: 今はまだ調整段階というか。

内藤: そうですね。簡単に授業を増やせないのには、いろいろな資源の制約があります。1つは、教室がいっぱいであること。金曜日など比較的空いている曜日・時間帯もありますが、火曜の2-4限とかはもうほとんどの教室が使われてしまっています。あとは、非常勤の先生に授業をお願いするには経費がかかりますが、SFCは現時点で限界まで非常勤の先生をお迎えしており、1人増やすにもかなりの審議や調整が必要な状況です。だから、不要な科目があれば廃止して、空けた「枠」に今必要な授業を設置する、という作業を始めています。

新たな改善の試みも

—— 薄井: これまでのお話を聞いていると、納得できる部分も多くありました。大学側からこうした説明がもう少しされていれば、アンケートに挙がっていたような不満の多くはかなり解消されていたのではないかと思うのですが。

西原さん(以下、西原): 正直、そこは反省しなければいけないと思っています。一方で、選抜の仕組みを具体的に説明しすぎると、それを逆手に取ろうと行動する人が出てくる危険性もありました。なのでアルゴリズムを1から100まで全部公開するのは適切でないと判断したのですが、確かにもう一言「皆さんが同じぐらいの確率で履修選抜に通れるようにしますよ」という説明ぐらいはあってよかったなと。

内藤: そこはとても反省しています。秋学期にはもう1回仕切り直して、オープンにできるところはオープンにして説明しようと思っています。

—— 土肥: アンケート結果もふまえたうえで、今回の制度変更はプラスだったとお考えでしょうか。

内藤: あのアンケート結果を見て「プラスになった」と言うと、偉いオトナの言い訳のようになってしまいますよね(笑)。

—— 土肥: 確かに、さっきおっしゃった広報不足も原因だと思うので、そこがあったら結果が変わっていたとは思うのですけれども。

内藤: 春学期の変更によって、単純にあれが改善になったのか改悪になったのかというよりも、僕たちがどういう設計意図で制度を変えたのか伝わっていなかったことが感じられたので、広報不足だったというのは大きな反省点です。

その一方で、さっきも少し触れた「同一時限に複数エントリーしたい」などの意見は、「本当によく考えて言っているのかな?」と思います。複数エントリーを許可するということは、みんなが複数エントリーできるということなので、おそらく単純に全ての科目の競争率が上がってしまうだけです。複数の科目にエントリーしたからといって、履修許可がたくさん得られるわけではありません。ある群の学生にとって関心のある科目が同一時限に重複して開講しているなら、それらの開講時限をバラすのが真の解決でしょう。逆に「○曜日○時限」に何でもいいから授業を履修したいという希望を積極的にサポートする予定はありません。

—— 土肥: 複数エントリーへの要望が多かったのは、「履修許可を得たのに履修しない」という非効率が生じているからというのも大きいと思うのですが、それについてはどういう改善がなされているのでしょうか。

内藤: それに関してはまだ検討中です。例えば「履修許可を得ていた科目の多くを履修申告せず、他学生の履修機会を奪った」と認められる学生については、次学期以降の履修者選抜にペナルティを課すべきではないかという意見が複数の教員から出ています。ただ履修者選抜には当たり外れがある以上、結果としてフル単を超える履修許可が来てしまったということも当然あると思うので、1科目でも捨てれば即ペナルティなどということはないでしょう。少数ですが、実在する悪質な例には何らかの対処があるかもしれません。

課題選抜に関しても、履修許可を得ていながら履修申告しなかった学生の名前を教員に提供できる仕組みなどを検討しています。ただ課題選抜は担当の教員にすべてが任されているので、「この学生は許可しないでください」という干渉はしません。現時点では担当教員の方がそういう情報を知りたくてもその手段がないので、知りたい方には提供する、という形はありえるかもしれません。

もう1つ、秋学期を目指して、抽選科目のエントリーの際に抽選の通りたさに応じて「通りたい度(仮称)」という数値をつけるという変更を準備しています。大きな「通りたい度(仮称)」をつけた科目は通りやすくなる、と。ただ、ある科目の通りやすさを高めたら、その分は別の科目の通りやすさが減ることになり、総和としての運の良し悪しには影響しないような設計を進めています。

また、やはり秋学期から、抽選で履修許可を得られる総数に上限を設けることになります。「通りたい度(仮称)」を利用してどうしても履修したい高倍率の科目に通りたいがためにたくさんの科目を「捨て駒」にするような、他学生に不利益をもたらす振る舞いを防止するためにもこうした上限の導入が必要です。

「通りたい度(仮称)」の設定、履修許可を得られる科目数の上限、そしてたくさんの科目を「捨てた」学生へのペナルティの3つは、秋学期からの実現を目指して準備しています。

西原: それによって、学生としては「許可が得られる科目に上限があるんだから、あんまりエントリーしすぎてもね…」って。加えてペナルティが課される可能性もあるので、無駄な行動が抑制されて、倍率が下がっていくだろうと期待しています。なおかつ、「通りたい度(仮称)」によって多少なりとも「これだけは取りたかった」という意思が反映させられればと思っています。

—— 坂田: ただ、個人的にはペナルティというのはどうなのかなと。あまりSFCらしくないというか。

内藤: 確かに「ペナルティ」という言葉の印象は悪いかもしれませんが、フェアプレーを旨とするゲームやスポーツのルールにも、たいていペナルティが定義されています。

—— 坂田: たくさんエントリーするのも、「結局はうまくいかないだろうからそうしている」というイメージがあります。だから、上限を設けるだけで十分なのかなと思いました。役割が被っているというのもありますし。

内藤: 両方同時に行うかどうかはわかりません。確かに似ているところはありますが、違いもあります。上限だけでは、課題選抜を含めたトータルでいくつ履修許可が下りたのかがコントロールできません。抽選に上限を設けても「課題選抜をたくさん通って、結果、抽選科目は全部捨てました」というケースが出てくる恐れはあるし、残念ながら明らかに過剰な履修許可を得て履修申告していない学生は存在します。キャンパス全体の学生の不利益を減らすためには必要と考えていますが、SFCらしくないという感覚には僕も同意します。

西原: まあ、罰することが意図なのではなくて、「そういうことをしても得にならないですよ」という警告の意味でです。やはり人間どこかで歯止めをかけておかないと、タガが外れてシステム全体に影響を与えかねないので。

内藤: ここではわかりやすさ優先で「ペナルティ」という言葉を使っていますが、実際の運用ではそうした言葉遣いにはしないと思います。淡々と、どんな行動をするとどんな形で返ってくるかをルールとして定義するだけで、そこに倫理的な価値観のようなものを織り込むようなことはしたくありません。

グループでの対話を通じて建設的な意見を

—— 薄井: 履修選抜制度に意見がある場合、現時点で学生はどこに訴えればいいんでしょうか。

西原: 1つ大事なのは、先ほどの複数エントリーの話もそうですけれども、思いつきで何か言われても、こちらとしては対応しかねます。なので、何人かで相談したりして「こうしたらいいんじゃないか」と整理したうえで、先生方だったり学事に持ってきていただいて、建設的な意見を聞かせてもらいたいです。もちろん意見の内容が100%反映できるとは言えませんが…。

内藤: 窓口になるメールアドレスを1つ用意するというようなことをしてもいいかもしれません。

西原: とはいえ、正しい意見も来れば、ただ不満をぶつけるだけの意見も来てしまうので、なかなか「このチャンネルを作ればいい」というものではないんですよね。

内藤: 個人的には、実名でのやりとりが大事かなと思っています。学生という立場でカリキュラム運営を経験できるのは学生のみなさんだけです。学生の立場から、単に不満を吐きだすだけでなく、どうなれば幸せでどうしてそれが幸せだと感じるのかよく考えて、学生の立場をリアルには体験できない教職員に教えていただきたいです。

—— 土肥: GIGA生も、英語による授業の不満を訴えるためにグループを作ったと聞いています。

西原: そうそう。まさに、グループとかを作ってみんなで相談したうえで話してもらえると、なんとか解決できないかという建設的な方向に持って行けるわけです。ただ「不満です」だけだと何も生まないので、周りの人と相談しながら、いろいろなチャンネルを使って、「いろんな人と話した結果こう思うんだけど」と意見をいただけたらと思います。

—— ありがとうございました。

夏休みも残り3週間ほど。授業が始まる前に、履修について一度よく考えてみてはいかがだろうか。なお、秋学期以降の制度変更に関しては塾生HPにて情報が掲載される予定とのこと。こちらも合わせて確認しよう。

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