医学部や薬学部などを除けば、一般的に大学は4年で卒業するものだというイメージが根強いだろう。しかし、学生が休学や留年などによって4年で卒業しないことは多々ある。そこで、慶應で学部を4年で卒業する人はどの程度いるのかデータで見てみよう。

SFC生、4年で卒業するのは7割だけ!

まず、4年で卒業しなかった人が学部ごとにどれぐらいいたか見てみよう。

今回は2013年4月入学者で4年間(=8学期)在籍して卒業しなかった人を例とする。なお、卒業年度で揃えてデータを見るため、6年制の医学部と薬学部薬学科については、2011年4月入学者で6年間(=12学期)在籍して卒業できなかった人数について参照する。ただし、在籍期間は、「在学」していない「留学」・「休学」の期間を含む。(なお、記事中の割合計算は全て小数点第一位を四捨五入している。)

注: 「修業年限」は、標準的な在学期間のことを指す。

学部 修業年限内で
卒業しなかった人数 / 母数
修業年限内で
卒業しなかった人の割合
文学部 193 / 819人 24%
経済学部 277 / 1219人 23%
法律学科 94 / 624人 15%
政治学科 104 / 624人 17%
商学部 207 / 1023人 20%
医学部 10 / 112人 9%
理工学部 169 / 1141人 15%
総合政策学部 130 / 466人 28%
環境情報学部 125 / 458人 27%
看護医療学部 16 / 108人 15%
薬学部 13 / 218人 6%
合計 1338 / 6812人 20%

慶應から公開されているデータは限定されているので、その中でどういったデータを用いたか厳密に言及する。上の表の「母数」は、2013年4月の入学者、2014年4月の2学年編入者、2015年4月の学士入学者・3学年編入者を足し合わせたものである。「4年で卒業しなかった人」はそのうち修業年限で卒業しなかった人を指す。したがって退塾者(他学部流出者含む)は「母数」には含まれるが、「4年で卒業しなかった人」には含まれない。

なお、法学部については2014年4月の2学年編入者と2015年4月の学士入学者・3学年編入者について政治学科と法律学科の内訳(合計10人)が公開されていないので、該当者それぞれが5人両学科に編入・入学したものとして計算している。

学部ごとに見てみると、まず薬学部と医学部はそれぞれ6%、9%と相対的にかなり低い。一方、同じ医療系学部である看護医療学部は15%ほどでかなりの差がある。そして文学部・経済学部・商学部は20%以上が4年で卒業しないが、同じキャンパスにありながら法学部だけ数値が際立って低いことにも注目すべきだ。SFCでは総合政策学部、環境情報学部ともに30%近くが4年で卒業していない。

女子よりも男子の方が4年で卒業しない? 理工は男女差顕著

次に男女別の留年者数について比較してみよう。異なる年度もしくは学年での男女比の比較は難しいので、修業年限が異なる薬学部と医学部は除いて考える。なお、2013年4月入学者の男女比は公表されていないので、便宜的に2014年度の2年生の男女比を近似値として用いる。

学部 4年で卒業しなかった人のうち
女子が占める割合
2014年度2年生の
女子の割合
文学部 56% 67%
経済学部 15% 22%
法律学科 23% 37%
政治学科 35% 43%
商学部 17% 30%
理工学部 8% 17%
総合政策学部 33% 39%
環境情報学部 30% 40%
看護医療学部 94% 96%
合計 27% 35%

どの学部でも、学年全体で女子が占める割合よりも、修業年限内に卒業しなかった人の中で女子が占める割合の方が数値が低い。したがって、「女子の中で4年で卒業しなかった人の割合」は「男子の中で4年で卒業しなかった人の割合」より低いと言える。

この傾向が特に顕著なのは理工学部であり、同じ人数あたりだと男子は女子の約2.36倍の人数が修業年限で卒業しないようだ。SFCの学部を見てみると、総合政策学部は男女差は少ないが、環境情報学部では男女差が一定程度見られる。総合政策学部と環境情報学部の履修できる科目や施設環境にほとんど差がないことを考えると、意外な違いである。入学時点での学部選択に何らかの差が生まれているとも考えられるだろう。看護医療学部はもともと女子が学年の大半(9割以上)を占めるので、男子が数値に与える影響は少なく、一概に男女のどちらが4年で卒業すると言い切ることはできない。

ちなみに全塾で見ると、同じ人数あたりでは、4年で卒業しない人は男子より女子の方が約5割少ない。

SFC秋入学生の傾向は?

では、SFCの秋入学者は春入学者とどのような傾向の違いが見られるだろうか。2012年9月入学者を例に挙げてみよう。なお、2013年9月にSFCに「第2学年編入学」を利用して編入した学生はいないので、春入学と違って編入学者について考慮する必要はない。

なお、2012年9月入学者のうちGIGA生、すなわちAO入試(グローバル)で入学した学生が何人いたか公表されてはいないが、合格者は15名(環境情報学部のみ)だった。したがって当時の入学者の大半はGIGA生ではない帰国子女など日本語で入試を受けた学生であることに留意しておく必要がある。

学部 4年で卒業
しなかった人 / 入学者数
4年で卒業
しなかった人の割合
総合政策学部 9 / 23人 39%
環境情報学部 10 / 32人 31%
SFC秋入学合計 19 / 55人 35%

先述のようにSFCの4月入学者のうち4年で卒業しない人は3割弱であることを考慮すると、9月入学者は4月入学者と比較して4年で卒業できない学生が多いことが分かる。そして、全塾の平均は2割程度であるので、総合政策学部の秋入学生は全塾平均の2倍の割合で4年で卒業しないという事実は注目すべきだろう。なお、当時すでにGIGA制度が導入されていた環境情報学部よりも、GIGA制度導入前だった総合政策学部の方が4年で卒業しない人の割合がかなり高いので、GIGA生が数値を高めているとは言い切れない。

留年や4年で卒業しない人はマイノリティではない

自己責任ではなく、構造的問題としての留年

「4年で卒業しなかった人」がまとまった数いることがデータで示されたように、大学において留年を経験する人は決して少なくない。これは慶應に限った話ではなく、京都大学の学生総合支援センターは「大学入学に至るまでの進路相談やキャリア教育の体制、大学の入試のあり方、カリキュラムのあり方、修学支援体制、転学科・転学部制度、編入学制度、大学での進路相談やキャリア教育の体制、企業の採用のあり方など、数多くの要因が多重に関与しています。」とホームページ上に記載しており、留年が個人だけの問題ではなく大学の構造的問題であることを示唆している。慶應でも学部や入学年度、性別によって傾向が大きく異なっており、そのような「構造」を示していると言えるだろう。

留年経験者はもっと多い

なお、この記事ではあくまで「4年で卒業しなかった人」についてのみ扱い、留年者数については一度も言及していない。というのは、法学部・総合政策学部・環境情報学部には復活制度があるからだ。この制度を使えば、留年したとしても進級要件を満たせば遅れた分の学期・学年を飛ばすことができる。したがってこの3学部について言えば、留年経験のある学生の割合は上記で取り上げた「4年で卒業しなかった人」よりもさらに多いと考えられる。いずれにせよ、データで検証すると、留年する人や4年で卒業しない人は決してマイノリティではない。

価値観と数値はどう変わっていくか

本記事はデータの検証を主な目的にしているので詳しくは取り上げないが、どんな事情であれ、「そもそも大学に修業年限以上いることは悪いのか」という議論もありうる。

慶應では、休学費用が今年度から大幅に引き下げられた。4年で大学を卒業しないのには様々な理由があるが、それらに対しての価値観がどう変わっていくのか、そしてそれがどうデータに現れていくのか注目だ。

出典