11月25日(木)、スルガ銀行寄付講座「福澤諭吉と現代1」(阿川尚之総合政策学部教授・清水唯一朗総合政策学部准教授担当)で、心臓病に対する難手術のバチスタ手術を日本で初めて実施した須磨久善氏がゲスト講義を行った。講義の後には会食も実施され、21:00過ぎまで熱い議論が繰り広げられた。


 「福澤諭吉と現代1」は毎週ゲストスピーカーを招き、現代に起こり得る具体的な問題に福澤先生の思想と精神をあてはめ解決策を模索する授業である。今年度のテーマは「時代を先導する精神」で、各方面で時代を先導するゲストスピーカーを招いている。
 今回のテーマは「いのちをひらく―医は仁術なり」。講師はこれまでの生涯で約5000人の心臓にメスを入れ、成功率は99%を誇ってきた現役心臓外科医の須磨氏。今年で還暦を迎えた須磨氏は1950年の人工心肺装置の登場以来、半世紀で急速に発展した心臓外科の最前線で活躍。1996年当時、心臓移植しか治療法がなかった心臓が異常に肥大化する病気、拡張型心筋症に対して左心室を切り取り縮小するバチスタ手術を日本で初めて実施。その後もバチスタ手術の改良・実施を重ね、SAVE手術を考案するなど「神の手を持つ男」として有名になった。また「医龍-Team Medical Dragon-」や「チーム・バチスタの栄光」の医事監修を務めているということもあり、当日Ω12教室には聴講生の姿も見られた。
 大学時代須磨氏は、医学部大会で優勝したバスケットと、年間90日は行っていたというスキーに没頭。大学にはあまり行かなかったという。しかしそのスポーツを通した経験が、現在の医療におけるチームワークや責任との向き合い方に直結していると語った。質問に立った体育会の学生には「今やりたい事をやれ、やりたくない事をやっても成果は僅かであるし、知識なんてやる気があればすぐにつく。だから今は今しかできないことに没頭して、そこから経験を得ればよい」とエールを送った。
 須磨氏が大学病院という組織に依存せず、いわば一匹狼としてやって来られたのは常に自分の原点を振り返ることにより力を得てきたからだという。「他人に喜んでもらいたいという思いが私の原点」と語られ、組織のため、名誉のためではなく、他人の幸せのために医者をやっているということを常々確認することによって、1人でも自分の信じる道を歩いて来られたのだという。
 須磨氏の講演終了後、会場は大きな拍手に包まれ、清水准教授も「来てもらってよかったね」と素朴な感情を口にした。参加者は一様に感銘を受け、「医は仁術なり」を目の当たりにできたようだ。
【須磨久善氏・略歴】
1950年兵庫県生まれ、1974年大阪医科大学卒。1986年胃大網動脈グラフトを使ったバイパス手術を考案。1996年湘南鎌倉総合病院の副委員長に就任。日本初のバチスタ手術を実施。2005年より現職の心臓血管研究所のスーパーバイザー。2006年「医龍-Team Medical Dragon-」の医事監修、2008年「チーム・バチスタの栄光」の医事監修を務める。
2010年海堂尊氏の著書「外科医 須磨久善」で自身の半生が小説となった。